偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)

    偉大な男のものがたり 1,000日目 3

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     部屋に戻ったところで、できることはなにもなかった。寝椅子に横になり、考え事をするくらいしかない。パッチとのあの無言の酒盛り以来、なにを食べても味など感じなくなっていた。もっとも、アストラル・ボディになった身体は、その気になれば食事などしなくても半永久的に……きまじめなニードルが珍しくいった冗談交じりの言葉を借りれば『宇宙の週末まで半永久的に』……精神をそのままで保っておけるということだが、あまり嬉しくはないというのも事実だった。

     それにしても、こんな……。

     あれ?

     なにかを忘れかけている。自分にとってとてつもなく大事ななにかを。

     思いだそうと腕を組んだとき、ドアにノックの音があった。かなり下のほうだ。ということは。

     保はドアを開けた。その赤いじゅうたんは、するすると部屋の中へ入ってきた。

    「……元気なさそうね?」

     ウェブ二等航海士だった。

    「二等航海士どの」

    「なんというか、疲れてしまって、話し相手がほしかったのよ」

     もとは群体生物なんだから、焦点核をもうひとつもらってきたらいいのではないか、と保は思ったが、そんな貴重品が配給されるわけもなかった。

    「ぼくでよければ」

    「ありがとう。みんな心配してるのよ」

    「ぼくをですか?」

    「あなたもだけど……パッチをね」

     保もうなずいた。

    「この三年というもの、パッチがまともに口をきいているのはあなたくらいのものよ。あのままじゃ、遅かれ早かれ、参ってしまうわ。……この宇宙の広さにつぶされて」

    「宇宙の広さですか」

     保にはわかるような気がした。

    「そう。なにもない、なにもない、ほんとになんにもないこの宇宙の広さに。生物であることをやめてアストラル・ボディになったときに、宇宙の資源はほとんど使われてしまったわ」

    「お聞きしたいと思っていたんですが、どうして、知的生命はアストラル・ボディになろうとしたんですか?」

    「……誰からも聞いてないの?」

    「情報だけは船のライブラリーから引いてきたので知ってます。大戦争が起こったんですよね、この宇宙で」

     ウェブはけだるげに微笑んだようだった。

    「……そうよ。それでよくない? そのときにほとんどの星間資源は使いつくされてしまった。ガス状だろうがなんだろうが、ありとあらゆる惑星は兵器なり戦略物資なりにされ、宇宙空間に漂っているのは何の役にも立たない珪素とポール・ブリッツくらいになってしまった」


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