偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)

    偉大な男のものがたり 1,000日目 4

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    「天体としても残っているのは恒星だけ、という状況になったことは知ってます。知識としてだけですが」

    「そのときになって、知的生命は自分たちのしでかしたことをようやく理解したのよ。焦点核の発見が、コミュニケーションすら難しかった知的生命との間をつないだのも戦争の終末にひと役かった」

    「二等航海士どのは、そのときのことを覚えているんですか?」

     ウェブは苦笑したらしい。

    「まさか。先祖から聞いたのよ」

    「先祖?」

    「……生きることに飽いたら、自分の焦点核を使って、自分のアストラル・ボディを変化させて、一種の『子供』を作るのよ。自分のアストラル・ボディだけでは物足りないと思うのなら、他者のアストラル・ボディの一部を混ぜ合わせて、より変化にとんだ『子供』を作ればいい。あなたのところは、違ったの?」

    「違いますよ! ぼくの生まれたところでは……」

     いいかけて、保はふいに口をつぐんだ。

    「忘れた」

    「え?」

     保は真っ青になった。

    「……忘れてしまった。ぼくは昔のことを忘れてしまった。たった三年前のことなのに、自分がここに来るまでのことを、まったく覚えていない」

     ウェブは黙っていた。

    「ぼくは、ぼくは、この船に来た時のことを、二等航海士どの、あなたがたになんと話したのでしたっけ」

     ウェブはあっさりといった。

    「覚えてないわ」

    「え?」

    「この船の乗組員たちは、みな、さまざまな生態系の中で生きてきた祖先を持っているわ。ありとあらゆる奇妙な生物の話を聞いてきたのだもの、記憶の中にごっちゃになっちゃうわよ」

     保は頭を抱えた。

    「すみません、二等航海士どの」

    「なあに?」

    「ぼくをひとりにしてください。ぼくが記憶を取り戻すまで、この部屋から出ていってください……」

     ウェブはなにかをいおうとしたようだが、結局黙って、部屋を出ていった。

     保は目をつぶり、思いだそうとした。なにか……なにか……なにかとてつもなく重大なことが……すぐ、ほんのすぐそこまで出かかっているのに……。

     しかし保がいくら必死で考えても、どうしても三年前のところで記憶の糸はふっと途切れてしまうのだった。

     保は泣いた。声を出して泣いた。

     誰も答える者はいなかった。


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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    話はここからが本番だったりします(前にも似たようなことをいったような……)

    もう開き直ってSFとしての大風呂敷を広げまくります。うまく畳めたらご喝采(^^)

    NoTitle

    本の外での記憶を失ってしまったのですね。
    時が経ったからなのか。
    本の外の記憶を持っていることが、この世界にとって問題なのか。

    自分が本当は子供だということも忘れてしまったのかな、
    悲しいですね。
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