偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)
偉大な男のものがたり 100,000日目 4
パッチはなにが面白いのか、満足そうな声を出した。
「そりゃ、たしかに理にかなってる話だ。誰も、まったく知りもしないものについて語ることはできない。おれがなにかを語ったときは、その一部についておれは知っているってことだ。もちろんそれは、限りなく小さいかもしれないが、その一部であることに変わりはない」
「パッチ砲術士官」
タモツはからかわれている感じがして、寝椅子から半身を起こし、パッチの顔を正面から見据えていった。
「もうひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい?」
パッチはにやにやしていた。
「パッチ砲術士官、そのアイパッチの下の目は、どうしてなくすことになったの?」
「聞きたいか」
なぜだかタモツは気後れした。
「そ、それはもちろん」
「なにしろ傑作な話だからな。この船の連中にとっちゃ、聞き飽きすぎて話題にもする気にならないようなネタさ」
「答えてください!」
「落ち着けよ。ストローから水がこぼれているぜ」
はっとしてタモツはストローを見た。水は漏れていなかった。
「砲術士官!」
「ひと呼吸欲しかっただけだ、そう怒るな。この目だが、事故でもなんでもない。おれがこの手でもってえぐり出したのさ」
「自分で……えぐり出した?」
タモツは息を呑んだ。
「どうして?」
「どうしても欲しかったものがあったからさ。おれは若くて、知恵ってものがかけらもなく、そして頭も悪かった」
「それと目をえぐり出すことと……」
「普通は関係ないな。ここからが普通じゃなくなるんだが……聞きたいか?」
「そりゃもちろん」
目をえぐり出すとはただごとではない。タモツはごくりと唾を飲んだ。
パッチは大笑いした。
「ここから先はプライバシーの範囲だ。残念だが、タモツくん、きみにはまだ早い」
「まだ早い、って、なにをいってるんですか。ぼくだって、この船に乗って長いんですよ! 話してくれたっていいじゃないですか! いいです! ほかの人に聞きます!」
「おれのほかには船長しか知らないぜ」
パッチは急に真面目な声になった。
「船長?」
「いや、船長も八割くらいしか知らないな。それに、聞いてもたいわんだろう。ことはけっこうデリケートだったりするんだぜ」
そういってパッチは寝てしまった。タモツは黙り込むことしかできなかった。
「そりゃ、たしかに理にかなってる話だ。誰も、まったく知りもしないものについて語ることはできない。おれがなにかを語ったときは、その一部についておれは知っているってことだ。もちろんそれは、限りなく小さいかもしれないが、その一部であることに変わりはない」
「パッチ砲術士官」
タモツはからかわれている感じがして、寝椅子から半身を起こし、パッチの顔を正面から見据えていった。
「もうひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい?」
パッチはにやにやしていた。
「パッチ砲術士官、そのアイパッチの下の目は、どうしてなくすことになったの?」
「聞きたいか」
なぜだかタモツは気後れした。
「そ、それはもちろん」
「なにしろ傑作な話だからな。この船の連中にとっちゃ、聞き飽きすぎて話題にもする気にならないようなネタさ」
「答えてください!」
「落ち着けよ。ストローから水がこぼれているぜ」
はっとしてタモツはストローを見た。水は漏れていなかった。
「砲術士官!」
「ひと呼吸欲しかっただけだ、そう怒るな。この目だが、事故でもなんでもない。おれがこの手でもってえぐり出したのさ」
「自分で……えぐり出した?」
タモツは息を呑んだ。
「どうして?」
「どうしても欲しかったものがあったからさ。おれは若くて、知恵ってものがかけらもなく、そして頭も悪かった」
「それと目をえぐり出すことと……」
「普通は関係ないな。ここからが普通じゃなくなるんだが……聞きたいか?」
「そりゃもちろん」
目をえぐり出すとはただごとではない。タモツはごくりと唾を飲んだ。
パッチは大笑いした。
「ここから先はプライバシーの範囲だ。残念だが、タモツくん、きみにはまだ早い」
「まだ早い、って、なにをいってるんですか。ぼくだって、この船に乗って長いんですよ! 話してくれたっていいじゃないですか! いいです! ほかの人に聞きます!」
「おれのほかには船長しか知らないぜ」
パッチは急に真面目な声になった。
「船長?」
「いや、船長も八割くらいしか知らないな。それに、聞いてもたいわんだろう。ことはけっこうデリケートだったりするんだぜ」
そういってパッチは寝てしまった。タモツは黙り込むことしかできなかった。
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