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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 2-8

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     警察署の出口には、かなり消耗した様子の遥美奈がいた。
    「桐野先生」
    「遥さん……大丈夫ですか?」
    「ええ。なんとか」
     オレンジ色の衣服が色あせて見えた。
    「……香さんが、やったのでしょうか?」
     遥美奈はかすれるような声でわたしにそう聞いた。
    「警察は、そうだと見ているようですね。遥さん、あなたも、そう思っていたのでは?」
     そうでなければ、そんな服は着てこない。
    「うっすらとは……でも、まさか死体が三つもなんて……」
     ぶるっと身を震わせる。
    「もしかしたら、もういくつか増えるかもしれません。二階は見てきませんでしたから」
    「桐野先生、そういう恐ろしいことをおっしゃらないでください!」
    「すみません」
     わたしは腕時計を見た。三時近くだった。
    「遥さん、なにも食べてないのではありませんか?」
    「え? は、はい」
    「こんな辛気臭い建物なんか早く出て、近くのファミレスにでも行きましょう。コーヒーの一杯でも飲めば、いくらか落ち着くでしょうから。いや、コーヒーはお腹に悪いから、スープかな。とにかく、腹になにか入れないと参ってしまいますよ。これはもと医者としての忠告です」
    「でも……」
    「いいから出ましょう」
     わたしは遥美奈を引きずるようにして警察署を出た。
     最寄りの駅を目指して歩いて行くと、途中にうまい具合にデニーズがあった。これでは連れ込み宿に女を押し込むようなやつと大差はないなと思いながら、遥美奈を引っ張り込んだ。遥美奈は別段抵抗もしなかった。
     窓際の席のひとつに向かい合って座った。死臭が染み付いた服は、レストランには不似合いだったが、人間裸で生活するわけにもいかない。良心が残っている証拠として、今日のうちにクリーニングに出すことにしよう。
     メニューを一瞥して呼び出しのボタンを押した。やってきたウェイトレスに注文する。わたしにはカレーライス、遥美奈にはスープとパン。ウェイトレスは顔をしかめながらわたしの注文を復唱し、手元の端末を操作した。
     ウェイトレスが去った後で、わたしはいった。
    「貧乏くさいメニューですみませんが、わたしのおごりです。あまり食欲もないでしょうからね」
    「ありがとうございます、桐野先生」
    「話もありますが、まずはなにか口に入れることです」
     やがて料理がやってきた。
     わたしがカレーライスに取り掛かる前で、遥美奈はしばしの間スプーンをもてあそんでいたが、やがて心を決めたようにスープをすすり始めた。
     わたしたちは無言で食べた。味なんかどうでもいい。胃袋を満たして脳細胞に栄養を送るのだ。それだけだった。
     カレーもスープもすぐになくなった。わたしは水を一口飲むと、視線を上げて遥美奈をまっすぐに見据えた。
    「さて、遥さん、あなたはこれからどうします」
    「わたしは……」
    「野村香さんを捜すのかとお聞きしているんです」
    「…………」
     遥美奈は手をつけていないパンの皿を人差し指で撫で続けていた。
    「香さんは、今はわたしたちが知っている香さんではなくなっている恐れが大です。警察の見立てが正しければ、三人の人物をさらって殺した殺人鬼ですから」
     遥美奈は下を向いていた。
    「そんな香さんを捜すとなったら、わたしたちは警察とマスコミを向こうに回すこととなります。あなたは彼らの執拗なマークを受けるでしょう。それでも、捜しますか?」
    「捜します」
     遥美奈は面を上げてわたしを見た。そのまなざしはしっかりとしていた。
    「どんな疑いがかけられていようが、香さんは香さんです。桐野先生、わたしが手を差し延べないで、誰が力になれるのでしょうか。わたしは、やります」
    「いいでしょう」
     わたしはいった。
    「遥さんがその覚悟なら、わたしもお手伝いさせていただきます」
    「先生!」
     わたしは手を延ばして制した。
    「もちろん、その間のお金はいただきます。アマチュアに毛が生えた程度のことしかできませんが」
    「かまいません。先生がお力をお貸しいただけるのなら、百人力です」
    「昨日もいいましたが、わたしを買いかぶっておられるようですね」
    「そんなことはありません!」
     遥美奈はテーブルに両手をついて身を乗り出した。
    「先生は、きっと香さんを助けてくださいます。そう信じています」
     そうだろうか。
     わたしには、とてもそうは思えなかった。
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    ~ Comment ~

    Re: しのぶもじずりさん

    いや、誰も疑っては(^^;)

    推理小説と違って、現実は「一番あやしいやつが犯人」だと西原理恵子先生も喝破しておられますしねえ。

    その伝でいったら桐野くんなんて最重要容疑者ですからなあ(このときすでに作者の執拗な桐野くんいじめは始まっていたのであった(笑))

    ハードボイルド書いている連中って、主役をいじめるのが大好きなのだろうとしか思えん。(^^)
    • #7875 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/01 22:10 
    •  ▲EntryTop 

    戸乱島から三カ月って事は、3月頃ですよね。
    警察の取り調べ室って、寒いんですよ。

    温かくてホッとできる場所=ファミレス、というチョイスもありとは思いますが、私はさっさと電車に乗って、離れる方を選びました。

    誤解のないように言っておきますが、被疑者だったわけではありませんよ。参考人というか、証人というか……。
    本当ですってば!
    殺人事件でもないです。
    新聞やテレビでも 結構な騒ぎになりましたけどね。

    >佐槻勇斗さん

    いちおうハードボイルドヒーローの末裔のまたいとこの近所の人の親戚みたいなつもりで書いておりますので、カッコいいところもちょっとは見せなければ……ねえ?(^^)

    これからもどうかお楽しみください~♪

    なかなか訪問できず申し訳ありません(つД`)゜・。・

    桐野先生やる気出しましたねかっこいいっすよ!
    弱っている女性を助けるなんて素敵だす。
    頑張って!!ヽ(・ω・´)

    これから先がますます楽しみになってきますね!
    また読みに参ります♪

    >ネミエルさん

    あっはっは(汗)。←意味深な笑い

    先生がいれば元気百倍!!

    みたいなw

    また何個かしたい画増えないよう・・・

    願っております。

    >うつさん

    実際はどうなんでしょう。警察で朝から晩までぎゅうぎゅうに質問攻めにされたら、解放されたときメシでも食わなければやっていられないんじゃないかと思って書いたのですが。
    それとも、疲れ切ってメシどころじゃなく、倒れて眠りたいだけなのかなあ。
    絞られた経験がないのでよくわかりませんが……。

    今回の話

    なるほど。警察署から出た後に
    食事ですか。うーむ、これは素人がどうも疎かに
    しがちな演出ですね。こういう細かい部分設定の
    配慮にも力点をいれるのがプロとしての技量なんですね。
    登場人物や世界観を読者の脳内のイメージでしか
    把握出来ない小説の中なればこそ、
    こういう登場人物にも現実のわたしたちのような
    生活感を滲ませる小道具を登場させる事が
    必要なんですね。
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