偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)

    偉大な男のものがたり 1,000,000,000日目 1

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    1,000,000,000日目



    『……そして、タモツは行ってしまった』

     パッチはそう書いてから、いつものように今書いたものを消した。そして再び、『そしてタモツは行ってしまった』と書いて、また消した。

     無理もなかった。あれから二百五十万年ほどの時間が流れている。

    「書くことが不可能なものは、たとえ二百五十万年経ったからといって原理的に書けるわけがないぞ」

     文章をひねり出そうとするパッチに、シルクもと副長がふわふわと漂いつつ、面白がるような声でいった。

    「うるさいな。回想録くらい、静かに書かせろよ」

     パッチもシルクも、船を降り、引退生活に入っていた。この二百五十万年の間というもの、それこそ働き通しに働いてきたのだ。休みたくもなる。

    「タモツのくだりはさっさと飛ばして、お前さんの成し遂げた仕事について書いたほうがいいのではないかな」

    「おれにとってはあれがターニングポイントなんだ。この宇宙にとっても。飛ばすことなんかできないね」

    「ま、わしの回想録ではなくて、あんたの回想録だ。わしさえかっこよく書いてくれれば後は何もいわんよ」

    「嘘つけ」

     パッチはふっと息を吹いた。糸はふらふらと揺れた。

    「こら、老人で遊ぶでない」

     糸はふわふわと漂っていたが、やがて天井に張りついた。落ち着いたらしい。

    「それにしても、過去にあったものの数億分の一でしかないが、お前さんはよくやったよ。三万年間誰もがもうあきらめていたことを、見事やってのけたのだからな」

    「デミウルゴスにだけはなりたくなかったんだ。おれもあんたと同様、ごく当たり前の人間だからな」

     パッチは目をつぶった。

     そうだ、気が遠くなるほど昔、おれがやったことは、ひとつのことを始めた、ただそれだけのことなんだ。

     シルクはなおも語り続けた。

    「お前さんが船長を殺した、と聞いたとき、わしらは、正気か、と思ったもんじゃ。そしてその後にお前さんがいった言葉を聞いて、わしらは、さらにお前さんの正気を疑った。わしらが従ったのは、お前さんがああいう物騒なものを持ってエンジンルームに立てこもったからじゃが、物事を正しく考えることができていたのは、お前さんだけじゃった。正気じゃないのはわしらのほうじゃった」

     シルクはひと呼吸置いた。

    「まさか船にあるブリッツ砲を全門廃棄するとはのう……」


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