偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)

    偉大な男のものがたり 1,000,000,000日目 3

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     シルクの言葉に、そうかもしれない、とパッチは思った。船長の甘言に乗ってライブラリに無茶な接続をして、片目と、意志の自由を失ったときから、ふたたび自由を取り戻すまでの数万年間に、おれは心の奥底まで冷笑的になっていたのではないだろうか。

     それが同じようにどこか虚無的で冷笑的になっていた皆をまとめる原動力になるとしたら、ひねくれたユーモア精神というものもそう悪くはないのかもしれない。

     パッチはまた、『そしてタモツは行ってしまった』と書いた。

     かなりのためらいの後、パッチは回想録を進めた。

    『そしてタモツは行ってしまった。自分から親指の焦点核を取り外したのだ。タモツは行ってしまった。精神がまだひとつのまとまりとして残っているのかも、残っていたとしたら今はどこでなにをしているのかも見当すらつかない』

    「ようやく進んだか」

    「また消すかもしれん」

     パッチは自分の書いた文を読んだ。

    「……たぶん、また消すだろうな」

    「それでもええ。わずかに前進したら、また後退してプラスマイナスゼロという結果になっても、前進できたという実績は残り、それが積もり積もって自信になっていく」

    「悪かったな書くのが遅くて」

    「で、タモツについての記述はそれだけかな?」

    「そんなわけないだろ」

    「じゃあ続きを書くんじゃな」

     パッチは糸をにらんでから、続きを書き始めた。

    『船長を殺したあの部屋で、タモツが焦点核を取り外す、といったとき、おれは止めようとした。どう考えてもまともじゃない。焦点核がなかったら、精神は希釈されて消えてしまうのだから。

     止めるおれに、タモツは答えた。

    「この船に乗っていても、そしていくら旅をしても、ぼくの目的地にはたどり着かないよ。ぼくの目的地は、この小説の外にあるんだから」

     おれは理解できなかった。

    「だが……デミウルゴスは消えたが、おれたちにとって、唯一の現実はここであることに違いはないんだぜ!」

     タモツはさびしそうに笑った。

    「現実って、なんなんだろう? ぼくにとって、この世界は現実じゃなかったし、この世界にいることでぼくにとっての現実に近づけるわけじゃない。ぼくはぼくなりの現実を探すよ。ぼくがぼくとしての当たり前の生活ができる現実を。それすらも、ポール・ブリッツの手のひらの上のことにすぎないのかもしれないけれど」』

     おれはどう答えたらいいのかわからなかった、と、パッチはそう続けた。


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