偉大な男のものがたり(長編児童文学・完結)

    偉大な男のものがたり 終章

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    終章 長い旅の終わりに



     夕焼けがきれいだった。

     保は自分の家へ向かって歩いていた。

     なにか、長く長く、果てしなく長い旅をしてきたような気もするが、気のせいだろう。学校から家までは一キロメートルくらいしかない。普通に歩いて三十分だ。

     保は家の鍵を開けた。今日は、母は帰りがいくらか遅くなる、ということだった。PTAのどうしても抜けられない用事、ということだったが、内容までは保の知るところではない。

     手を洗い、うがいをしてから、保は自分の部屋にランドセルを置いた。

     ふと、その視線が止まった。

    『偉大な男のものがたり』ポール・ブリッツ著。

     なぜだか、その本を手に取っていた。

     ページを開いた。

     片目にアイパッチをした船長風の男のイラストが、見開きで描かれていた。

     保の手は理由もなく、わなわなと震えだした。

     なぜだろうか。

     涙が止まらなかった。

     涙を止めることが、どうしてもできなかった。

     さして印象的な絵であるわけでもない。一度読んだだろうとは思うが本のストーリーも忘れてしまった。

     だが、記憶の奥底、ふだんなら覗き込みもしなければ存在すら気にもしていないところから、そのわけのわからない感情はあふれてくるのだった。

    「パッチ……」

     ようやく思いだした、その偉大な船長の名前をつぶやいてから、保は本を本棚へと戻した。

     宿題も、ゲームも、テレビも、とりあえず今だけは横に置いておこう。

     そして考えよう。

     この心の中でうねっている、いいようのない不思議な感情について、とことん考え抜いてやろう。

     そしてなにかの形にするのだ。歌になるのか、絵になるのか、文になるのかわからないが、とにかく自分の思いを人にぶつけて、見てもらうのだ。

     人がなんらかの自分にしかできない「やるべきこと」を見つけ出そうと考え始めることが、「大人になる」ことだとしたら、保はその第一のステップを登り始めたのかもしれなかった。

     保は考える。

     オレンジ色に染まった部屋で、ただひたすら、形容しようもない何かに向かって考える……。



    (了)


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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    いや、コンテストが行われている間のうちに終わらせておこうと思って(^_^;)

    そのせいかやたらと苦労しました。難産の極みです(^_^;)

    しばらくは「でかい構想」のものは書かないようにしようと思います(^_^;)

    Re: 椿さん

    最初からこういう結末になる予定だったのに、どうしてここまで時間が(^_^;)

    まあいろいろありましたけど、感想ありがとうございました。あの数々のコメントがなかったらまず確実に座礁していたと思います。

    それにしても虚脱感ひどいす~(^_^;)

    NoTitle

    どんなに規模が小さくても子どもには壮大な冒険に見えるんだ。。。(;つД`)しかし、一気に掲載したなあ。。。
    読むのが大変だったじぇ。。。
    お疲れ様でした。('◇')ゞ

    Re: ROUGEさん

    120枚で大作ってのもなんですけど、かなりの難産でした。おかげで虚脱状態になりブログ放り出して五日(^_^;)

    そろそろ復帰します(^_^;)

    NoTitle

    おつかれさまでした。
    最後、すごく良かったです。↓このシーン涙ぐんだ
    保くんの心の中にこみあげてきたものを思う時、彼はいい冒険をしたな、って思いました。

    覚えてなくても、記憶の底に沈んでしまっていても、次に踏み出す礎になれば、それは彼の大切な体験。
    いい児童文学でした、ありがとうございました。

    NoTitle

    大作、お疲れ様でした(*^_^*)

    そしてコメントありがとう~
    私もそう思って書いたのだけど
    理解してくれない人が多くてチョット困った(^^;
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