ささげもの

    111111ヒット記念「十万匹わんちゃん大行進!」

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    「ハーメルンの笛吹男の話は知っているか」

     そういいながら、遊園地にしつらえられたベンチに腰掛けた稲井粉人警部は、犬の着ぐるみ姿の男が、子供たちに風船を売るのをぼんやりとした表情で眺めた。

     そんな警部に缶コーヒーを差し出した、相方の若い刑事は目をぱちくりさせた。

    「は? あの、警部?」

    「嫌な怪談だ。ハーメルンの街にやってきた笛を吹くネズミ獲りの男が、金を払ってくれなかった腹いせか、笛を吹いて町中の子供たちを連れ去り岩山に消えてしまう。オチなんてないあの不条理な結末。明るくてそして不気味、そんなところが、あの話が現代まで生きのびてきた秘訣だろうな」

    「お話がよくわかりませんが……われわれは、この遊園地で起きたホームレスの連続失踪事件についての捜査を」

    「コーヒーを飲んでひと休みする間くらい、馬鹿話をしたっていいだろう。太陽はさんさんと輝き、あの横断幕は翩翻とひるがえっている。この平和を満喫するためにも、少しくらい上司の無駄口につきあえ」

    「はあ……」

     刑事は横断幕に、自信なさげな視線を向けた。紅白のコントラストも鮮やかに、『十万匹わんちゃん大行進!』と書かれている。十万はオーバーだろう、と刑事は思った。

    「警部。たしか、ハーメルンの笛吹男事件というのは、実際に起こった事件だそうですね」

    「そう来なくっちゃな。大学でしっかりよけいなことまで勉強したようでおれは嬉しいよ。そう、あれは実在の事件が元ネタになっているようだ。一二八四年六月二十六日に、まだら模様の服を着た笛を吹く男がハーメルンに現れて、百三十人の子供を連れ去り、そして姿をくらましたらしい。いまだに何が起こったのかについては仮説しか存在しない」

    「ネズミはどうなったんですか?」

    「あれは後世に付け加えられた話だ。十六世紀終わりのことだな」

     刑事は自分のぶんのコーヒーを飲んだ。

    「はあ。とするとネズミは無関係……」

    「でもないんじゃないかとおれは思っている。ネズミの話は、どうしても付け加えられねばならなかったんだ、と」

    「どういうことですか?」

    「ハーメルンじゃそのままだから、大阪の猫男、というものを考えてみよう。猫男はおれだ。ある日、市との間で、大量の三味線を作るため猫を捕まえられるだけ捕まえてくれ、という契約をする。おれは悪人だからな。で、笛を吹いて猫を集めたが、市は金を払ってくれなかった。悪人のおれは意趣返しに子供を大量にさらうことにする。しかしここではたと困る。子供をどうやって、目立たぬように連れていったらいいのか」

    「どうするんです?」

    「悪人のおれには天啓がひらめく。悪人だけど別に天啓がひらめいたっていいだろう。子供たちの姿を変えればいいんだ。例えば猫に。猫捕りが猫を大量に連れまわしていても、誰も驚きはしない。そのままゆうゆうと街を出ていけばいい。のちの人間がどんな伝説を作るかなど、おれの知ったことじゃない」

     刑事は笑った。

    「それじゃ、ファンタジーの上にファンタジーを重ねるようなものですよ。魔法じゃないですかそれじゃ」

    「だから馬鹿話だといったろう」

     稲井警部は缶コーヒーを飲み干すと立ち上がった。

    「鈴畑のゴロさんを知っているな」

    「え? もちろんです。探している失踪人で……」

    「この近くで、おれは野良犬を見かけた……その野良犬の右目は潰れていた……ゴロさんと同じ白内障だった」

    「…………」

    「十万匹だか、111111匹だか知らないが、この出し物といっしょに大量の犬が連れられて行っても、誰も不思議には思わんだろう。捨てとけ」

     若い刑事はあわてて抛られた空き缶を受け取った。

    「馬鹿話は終わりだ。仕事に戻るぞ」

     ゴミ箱に駆けていった刑事は、紅白の横断幕を見た。

     『十万匹わんちゃん大行進!』

     そしてその日を境に、この町から子供の声は消え去った。
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    ~ Comment ~

    Re: 涼音さん

    最近考えることが鬱々としたことばかりで(^^;)

    睡眠時間の影響だなこりゃ(^^;)

    「ハーメルンの笛吹男」って、グリム童話にも採用されているメジャーな童話だと思ってましたが、意外とマイナーだった(^^;)

    オチも教訓もない怪談話だからあまりやらないのかなあ。

    ハーメルンでの謎の失踪事件のことはほんとです。ウィキ「ハーメルンの笛吹男」参照。高校の頃の世界史の先生は、授業で「少年十字軍説」を力説してました。どうしてるかな先生(^^)

    おめでとうございます♪

    遅くなりましたが111111ヒットおめでとうございます。

    「ハーメルンの笛吹男」の話を知らないので、最初はもしかしてファンタだと思ってましたが……。
    何々?最後怖いじゃん><;
    消えたのは犬?それとも子供?人の子が犬になって……消えた??
    どっちにしても怖いです><;

    やっぱりホラーは苦手です^^;
    何故って?怖いのダメなんです。ビビりだから(笑)

    とにかく、111111ヒット、おめでとうございました。

    Re: LandMさん

    ホラーを書こうと思って書いたもので(^^;)

    だって111111匹の犬を出せってお題ですよ。SFになるかファンタジーになるかホラーになるかしかないじゃないですか。(笑)

    その中からホラーを選ぶわたしもわたしですけれど(^^;)

    NoTitle

    むしろこっちのほうがホラーに近い。。。
    犬なのか、ヒトなのか。
    わんわんわん。
    11万1111ヒット。
    何はともあれおめでとうございます。
    <m(__)m>

    Re: ダメ子さん

    昔、東京ディズニーランド行ったときあのミッキーのカチューシャをしているやつを見て「アホちゃうか……」思ってましたが、そう考えた時点で社会不適応だったのかもしれません。

    「ちょうどミッキーが通るらしいからパレードを見よう!」に対して「それよりもアトラクションの券を消化したほうが」と発言した時点でさらなる社会不適応が……。

    とほほほ。

    NoTitle

    みんな一緒に犬になってしまうならそれはそれで…

    そう言えば修学旅行のとき、とあるランドではクラスメイトが皆ネズミに…私はあまり楽しめず、結局は世間の行進からも追い出されました
    あの時、きちんと一緒に行進できていれば…

    Re: ROUGEさん

    いやなんというか辻褄を合わせるためにいろいろと無理をしてショートショートにしてますのでそうお褒めにあずかるとなんだかこそばゆいです(^^)

    エアコン……善処します(^^;)

    Re: 新参者さん

    あれを最初に聞いたとき、笛吹きの男がネズミを退治するところは面白く聞いていたんですが、後半の展開は、もう、怖がるべきなのか、どうなのか、呆然とするしかなかったのを覚えています。

    終始明るい陽光のもとで話が進むのがかえってドライで。

    江戸川乱歩のいう「奇妙な味」短編というものの先駆的存在じゃないかと思うこともあります。

    西洋の人が「浦島太郎」を読んだときも同じような、「どうにも居心地が悪い感じ」を覚えるのかなあ……。

    Re: 大海彩洋さん

    次は123456ヒットか……遠いな……。

    そのときまでには精神状態が一新されていればいいのですが。こんな泥沼ではなくて(^^;)

    もっと楽しいこと考えるか(笑)

    Re: けいさん

    「遊園地で犬の被り物をしている人」と「111111匹の犬」ということを重ね合わせると、鬱々したやり切れん気持ちのわたしにはこういう展開以外考え付かなかった、という……。

    まことに危うい精神状態です。気を落ち着けるためにソフトバンクの優勝が懸かった試合を見てます。どちらのチームにもそれほど思い入れがないので楽しく見られます。

    延長ありかなあ……。

    Re: 野津征亨さん

    精神状態がどうしても自分にギャグやコメディを書かせてくれませんでしたので。暗いことしか考えられんような有様です。

    明日のブログDEロードショーは明るい映画を見ようかな。

    Re: ツバサさん

    稲井警部が出ると渋いミステリになるはずなんですが、今回はちとホラーに。いや渋めの警察関係者がほかにいないもので(^^;)

    鰓井恵来(エライエライ)博士譚と稲井粉人(イナイコナヒト)警部譚もまとめるかなあ。どちらも5本くらいしかないけど……。

    Re: misaさん

    もっとたーんと食べていきんさい(笑)

    Re: カテンベさん

    「いやGは一度グレゴール・ザムザってやつで試してみたんですけどバカでかくなりすぎて目立つな、という結論に達しまして」
    「お前誰やねん」

    ……(^^;)

    Re: 椿さん

    正直どうしようかと(^^;)

    でも普通に三題噺やったほうがよかったかな(^^;)

    NoTitle

    なるほど!と思ってしまったわ。
    そうよね、童話とかって教訓も兼ねていたりするから
    こういう事も有得たり・・・
    素晴らしい記念作品だわ(*^_^*)

    ※エアコン掃除、した方がいいですよ~
    今回、機種の機能に甘えてましたが
    もうゾッとしましたもの。

    NoTitle

    ハーメルンの笛吹き男の事をよく知らず、今一度wikipediaで調べましたが、怖い話!
    知る前と知った後で読み比べて、二回楽しめました。
    ゾロ目達成、おめでとうございます!

    おめでとうございます

    111111って何だかとっても幸先の良い数字ですね。
    でもそこへちょっとこわ~いこのお話。ポールさんらしいなぁ~って(^^)
    これからもますますのご発展、お祈りしておりまする!

    NoTitle

    111111ぞろ目ヒットおめでとうございます。
    ワンなお話かと思いきや・・・
    最後の印象深い一行までさすがです。
    今後もますますのご活躍を!

    恐怖の十万匹ワンちゃん大行進でした。
    まさかこんなお話になろうとは。
    改めまして、111111hitおめでとうございました!

    NoTitle

    111111ヒット、おめでとうございます♪
    確かにそのまま連れて行けば怪しまれても、
    別の姿にして連れて行けば何ら変ではないですもんね~。
    連れて行かれても誰にも気が付かれないというのは怖いですね(-ω-;)

    NoTitle

    ぞくぞくっ

    あー、こわかった。

    ごちそうさまでした。

    こわいこわい

    けど、10万の犬の行進、て壮観なんやろねぇ

    何にでも変えてしまえるんなら
    黒光りする嫌われ者のGに変えてしまえば
    連れ去らなくても姿を見かけないやろし
    一匹みつけると、こんなにいたのか、てなる恐怖が待ってそう、て思てもうたわ

    連れ去られてるから、よくはないんやろけど、犬でよかった

    111111ヒットおめでとうございます!

    「全部盛り込め」の戦犯でございます(^_^;)
    しかし、予想の上をいく見事なまとめ方で感服いたしました。
    すごい!
    そして……コワイ!!
    おつかれさまでした!


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