「ショートショート」
    SF

    わたしはお茶をこぽこぽと入れる

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     わたしはお茶をこぽこぽと入れる。

     テーブルの上には微生物が見える。ふっとひと吹きすると、微生物はわらわら逃げていく。

     お茶くらい邪魔されずに飲みたいものだ。

     空を見ると赤色巨星が輝いている。オレンジ色の大気がまぶしいのでわたしは障子を閉めようかと、ちらりと思う。

     お湯は湯呑みの八分ほど。急須を置き、わたしは湯呑みを手に取る。

     湯呑みの中はぐらぐらと煮立っている。

     熱すぎただろうか。手に持った感じはむしろうっすらと冷たいのだが。

     湯呑みを口に持って行き、目をつぶってひと口飲む。

     ぬるい牛乳の味がした。コンデンスミルクも混じっているらしい。妙に甘ったるい味だ。

     わたしの目指す味はこれではない。とはいえもったいないので全部飲むことにする。

     気を取り直して急須にもう一度湯を注ぐ。せっかくの宇治の玉露なのだ。

     縁側から、鼻毛を伸ばしに伸ばした大きな鼻が、トンボのような翼を広げて、わたしの顔をかすめ、部屋を通り抜け、北の壁をぶち抜いてどこかへ飛んで行った。

     やれやれ。破れた壁の穴からは、ブロードウェイの目のくらむような灯りが入ってくる。無粋だ。

     いつまでも腹を立てていてもしかたがない。そろそろいいだろうか。わたしは湯呑みにお茶をこぽこぽと注ぐ。

     お茶がなんとなくどす黒く見える。

     飲んでみると、黒く見えたのも当然だった。よく冷えたコーラだったのだ。

     わたしは炭酸がきいていたほうがいいのだが、このコーラは気が抜けている。あまりうまくはない。こんなものを喜んで飲むのはグラップラーなんとかくらいのものだろう。

     冷たいだけ運がいいほうか。

     玉露は三煎目がいちばんうまいという。それに期待をかけ、わたしは急須に熱いお湯を注ぐ。

     ふっと障子の外を見る。赤色巨星は地に没したらしく、縁側から見えるのは雲ひとつないすかっとした青空だ。太陽がどこにも見えないのが画龍に点睛を欠くというか物足りないところだが、お茶の味には関係あるまい。

     わたしはお茶をこぽこぽと注ぐ。

     それにしても、「サイバーパンクを現実化する!」という政府のあの時代を何十年も間違っている宣伝は、もうちょっとどうにかならなかったものか。なにが一億総電脳化社会だ。

     サイバー攻撃ひとつでデータがぐちゃぐちゃになるような脆弱なセキュリティしやがって。

     うっかり流行に乗って脳をネットとリンクさせてしまったわたしをはじめ無数の人間が、電脳世界においてこのような「感覚の迷子」になっているのだ。システムの修復は急ピッチで進められているらしいが、データの破壊は拮抗、もしくはわずかに上回るスピードで進んでいるらしい。

     わたしはお茶を飲んだ。どぶろくの味がした。

     目の前に画面が開いた。

    『システム修復中です』

     わかったよ。

    『システム修復中です』

     わかったってば。

    『システム修復中です』

     わかったっていってるだろ……。
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    ~ Comment ~

    Re: 涼音さん

    チェスタトンの名作「木曜の男」に、忘れられないやりとりがありました。無政府主義者の男とその友人の詩人が議論するのですが、

    無政府主義者「ぼくたちの国の列車は、行き先なんか決まっていない。ロンドン行きの列車でも、今日はバーミンガム、明日はランカスター、どうだい、毎日がわくわくするじゃないか!」
    詩人「(しばらく考えてから)いや、ぼくはロンドン行きの列車はロンドンに行く方が絶対にいいと思うんだけど」

    ……詩人のいう通りだと思いましたほんと(^^;)

    Re: LandMさん

    こちらはウーロン茶をがぶ飲みしながらキーボードを……叩いてもネタが浮かばぬこの頃か(^^;)

    リフレッシュもセキュリティも滞っているなあ我ながら(^^;)

    NoTitle

    今日は。

    読んでいて、注ぐ度に好きなものの味になったらいいなぁと思いました。
    今紅茶飲みたいんですが、お茶注いだら紅茶味になったら素敵なのに・・・・。
    でも、何か分からないのもそこが良かったり♪

    でも、何か怖いぞ^^;
    セキュリティは定期的にしておかないといけませんね。
    私も今から起動しよう(笑)

    NoTitle

    かなり話がそれますが。
    私はお酒を飲み、ふー、と一息立ててから。
    頭のメンテナンスをしてから書いております。
    何事にもセキリティとメンテナンスは必要ですね。

    Re: 鍵コメcさん

    わかりました。まあ、また気が向いたら、みたいな感じでいればそのうち気が向くこともあるんじゃないか、と思いますです。

    また小説読みに行きます。大河小説だからゆっくり読みます。(^^)

    Re: 椿さん

    フィリップ・K・ディックがよく書いたいわゆる悪夢世界というやつで、いったい現実とはなにか、からスタートしなくちゃならんでしょうね。

    人間の電脳化ってえのは宇宙開発以上にリスクが高いんじゃないかと思ってます。

    Re: ダメ子さん

    そんなことを考えていると、ピーナツバターがマーマイトの味になっても知りませんからね(笑)

    Re: 黄輪さん

    地球規模で続発する伝染病相手に人類を守ろうとする「パンデミック」ってボードゲームがありますが、あれをやっていると、どんな形であれ「壊れたものを修復する」のは大変なことだと痛感します。

    しかも人間の脳とコンピュータがリンクしてるんだもんなあ(^^;)

    どうやって治すかすらわからないです(^^;)

    Re: miss.keyさん

    合成たんぱくにそんな味をつけることができたら、火星移民とかの食料として最適のような気がする(^^)

    Re: 山西 サキさん

    「わたしはお茶をこぽこぽと入れる」という文章からどれだけとんでもない話が書けるか挑戦してみました。

    面白く思ってくださってありがとうございます(^^)

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    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    NoTitle

    修復されても修復されたと認識できなそうですね(^_^;)
    そもそも、誰が修復しているんだろう?

    修復している人は脳をリンクさせていないのだろうか。
    それともシステム自体が自己修復しているのだろうか。
    だとしたら、修復する人は可能なのだろうか。

    すごく考えてしまいました。

    NoTitle

    でも運が良ければ、ただのお湯が松茸の土瓶蒸しになったり
    私の体がスタイル抜群になったりするんですよね
    今からサイバー攻撃の勉強をしておかなきゃ

    NoTitle

    「MGSV」と言うゲームにあった、作中におけるウイルスの影響で世界が極彩色に変色してしまう、……というシーンを思い出しました。
    そのゲームでは即座にウイルスを検知してすぐ復旧してましたが、この世界のエンジニアも見習ってほしいですね……。

    仮想現実おそるべし

    そのうち食べ物もバーチャルになるかもしれませんな。今日はうなぎ、明日はステーキ。その実食べていたのは合成タンパク質のかたまりだったとか。いやだいやだ。

    こんばんは。

    おお!これは凄い!そして恐い!!!

    赤色巨星、素敵ですね。
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