「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
3 吸血鬼を吊るせ(完結)
吸血鬼を吊るせ 2-11
11
……『次は、新宿、新宿です』
アナウンスに、わたしは読んでいた『マンモスの発掘』という本から目を上げた。夜の山手線は、酔客と、酔っていない客と、酔っているかいないかわからない客とでいっぱいだった。
自分にできることは野村香を追うことだ、と思って電車に乗ったものの、どこへ行けばいいのかわからない。結局、自分のワンルームに帰るしかなかった。
本を閉じて、鞄にしまう。窓の外を見た。ビル街の明かりが、右から左へと流れて消えて行く。もうすぐ、新宿だ。京王線の電車はまだあるだろうか。
そのまま窓の外を眺め続ける。流れ去りはするものの、変わらない風景。
変わらない風景?
窓ガラスに顔を押し付けた。風景は進み、流れ行く。それでいて、気がつけば少しも動いていないのだ。おかしい。アナウンスからすればすでに駅についていてもおかしくないのに!
「それはね……」
どこかで聞いた声が、わたしの耳元でささやいた。誰の声だっただろうか?
声は続ける。
「この列車に乗っている者は、永遠に天国へも地獄へも行けずに立ち止まっている運命にあるからなのよ!」
振り向いた。
遥流子の血まみれの顔が、わたしの目の前にあった。
「わっ!」
わたしは遥流子、遥喜一郎、宮部看護師、田島信夫に取り囲まれていた。四人の亡者は、うつろな目でわたしを見下ろしていた。
遥流子の頭が、戸乱島で撃たれたときと同じようにはじけた。
わたしは血と脳漿を頭からかぶった。
「あなたのせいよ、あなたのせいよ、あなたのせいよ、あなたのせいよ……」
遥流子の声だろうか、四人の声だろうか、それとも他のなにかの声だろうか。
わたしを包んで責め立てる声は、いつの間にか単調な音の繰り返しとなって……。
……わたしは目を覚ました。いつものように時計のアラームを十時にセットしたまま、解除を忘れて寝てしまったのだ。
身を起こす。ひどい寝汗だ。二度も三度も着替えるのが面倒だったので着たきりスズメのまま寝てしまったが、これでは取替えるほかあるまい。
衣服を脱いで洗濯機に放り込み、バスルーム(ユニットだ)に入ってシャワーを浴びた。冷たいシャワーには、季節的にまだ早すぎるということが骨身にしみてわかった。
新しいシャツとスラックスを身につけて頭がはっきりしたところで、腹が減っていることに気づいた。
コンロに火を起こしてまたもラーメンを煮た。すばらしい栄養のバランスぶりだ。週刊新潮の食事の採点コーナーに相談したら何点つくだろうか。
そんなことを考えている場合ではあるまい。
昨日まともに洗わなかった丼をざっと流水にくぐらせ、水気を切って、鍋のラーメンを丼に移す。机まで持っていき、食べながら考えた。
わたしは私立探偵でも刑事でもない。司法当局の捜査能力に正面から挑んでも、警察の先を越して野村香に会うのは至難、というより絶対に無理だ。
だが、わたしは是が非でも野村香に会わなければならない。
腹を決めるべきだった。
ナイトメア・ハンターなら、ナイトメア・ハンターらしく事件にアプローチするのが筋というものだ。
わたしはスープを最後の一滴まで飲み干して、流しに立った。
探索の前に洗い物を片付けなければ。腕をまくってスポンジを手にした。
……『次は、新宿、新宿です』
アナウンスに、わたしは読んでいた『マンモスの発掘』という本から目を上げた。夜の山手線は、酔客と、酔っていない客と、酔っているかいないかわからない客とでいっぱいだった。
自分にできることは野村香を追うことだ、と思って電車に乗ったものの、どこへ行けばいいのかわからない。結局、自分のワンルームに帰るしかなかった。
本を閉じて、鞄にしまう。窓の外を見た。ビル街の明かりが、右から左へと流れて消えて行く。もうすぐ、新宿だ。京王線の電車はまだあるだろうか。
そのまま窓の外を眺め続ける。流れ去りはするものの、変わらない風景。
変わらない風景?
窓ガラスに顔を押し付けた。風景は進み、流れ行く。それでいて、気がつけば少しも動いていないのだ。おかしい。アナウンスからすればすでに駅についていてもおかしくないのに!
「それはね……」
どこかで聞いた声が、わたしの耳元でささやいた。誰の声だっただろうか?
声は続ける。
「この列車に乗っている者は、永遠に天国へも地獄へも行けずに立ち止まっている運命にあるからなのよ!」
振り向いた。
遥流子の血まみれの顔が、わたしの目の前にあった。
「わっ!」
わたしは遥流子、遥喜一郎、宮部看護師、田島信夫に取り囲まれていた。四人の亡者は、うつろな目でわたしを見下ろしていた。
遥流子の頭が、戸乱島で撃たれたときと同じようにはじけた。
わたしは血と脳漿を頭からかぶった。
「あなたのせいよ、あなたのせいよ、あなたのせいよ、あなたのせいよ……」
遥流子の声だろうか、四人の声だろうか、それとも他のなにかの声だろうか。
わたしを包んで責め立てる声は、いつの間にか単調な音の繰り返しとなって……。
……わたしは目を覚ました。いつものように時計のアラームを十時にセットしたまま、解除を忘れて寝てしまったのだ。
身を起こす。ひどい寝汗だ。二度も三度も着替えるのが面倒だったので着たきりスズメのまま寝てしまったが、これでは取替えるほかあるまい。
衣服を脱いで洗濯機に放り込み、バスルーム(ユニットだ)に入ってシャワーを浴びた。冷たいシャワーには、季節的にまだ早すぎるということが骨身にしみてわかった。
新しいシャツとスラックスを身につけて頭がはっきりしたところで、腹が減っていることに気づいた。
コンロに火を起こしてまたもラーメンを煮た。すばらしい栄養のバランスぶりだ。週刊新潮の食事の採点コーナーに相談したら何点つくだろうか。
そんなことを考えている場合ではあるまい。
昨日まともに洗わなかった丼をざっと流水にくぐらせ、水気を切って、鍋のラーメンを丼に移す。机まで持っていき、食べながら考えた。
わたしは私立探偵でも刑事でもない。司法当局の捜査能力に正面から挑んでも、警察の先を越して野村香に会うのは至難、というより絶対に無理だ。
だが、わたしは是が非でも野村香に会わなければならない。
腹を決めるべきだった。
ナイトメア・ハンターなら、ナイトメア・ハンターらしく事件にアプローチするのが筋というものだ。
わたしはスープを最後の一滴まで飲み干して、流しに立った。
探索の前に洗い物を片付けなければ。腕をまくってスポンジを手にした。
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~ Comment ~
ふふっふーv
なんて興奮する夢なんでしょう!
これが夢オチではなく現実だったら……あはw
にしても先生! ちゃんと丼は洗ってください!
おかしな菌でも入ったら……た い へ ん!!!(ロ´|||)
なんて興奮する夢なんでしょう!
これが夢オチではなく現実だったら……あはw
にしても先生! ちゃんと丼は洗ってください!
おかしな菌でも入ったら……た い へ ん!!!(ロ´|||)
>ネミエルさん
思い出をアンインストールすると、桐野くんは商売にさしつかえてしまうのです(^^;)
哀しいですねナイトメア・ハンター(^^;)
思い出をアンインストールすると、桐野くんは商売にさしつかえてしまうのです(^^;)
哀しいですねナイトメア・ハンター(^^;)
そんな思い出はアンインストールだ!
先生、大丈夫!
僕が思い出なんてアンインストールしてあげますよっ!
ほら、これをどうぞ!
つ『ウォッカ』
これで心も体もすっきり爽快!
先生、大丈夫!
僕が思い出なんてアンインストールしてあげますよっ!
ほら、これをどうぞ!
つ『ウォッカ』
これで心も体もすっきり爽快!
- #478 ネミエル
- URL
- 2009.11/05 02:20
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一人暮らしが長いとささいな菌ではびくともしなくなるのです(^^)
そういうものです。
ところで、あんな夢見ると……たしかに血圧は上がるでしょうが……ううむ(^^;)