ささげもの

    ハイスコアに挑戦してみる

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    「scribo ergo sum 66666企画参加」をしたので、八少女 夕さんのお題に答えてみた。ただ答えてもしかたがないので、わたしもハイスコアに挑戦してみた。

    八少女さん。あとはまかせた(笑)


    選択ワード:
    「テディーベア」
    「天才」
    「禁煙」
    「ピラミッド」
    「中国」
    「バンコク」
    「飛行船 グラーフ ツェッペリン」
    「桃の缶詰」
    「名探偵」
    「蚤の市」
    「赤い月」
    「マロングラッセ」
    「エリカ」
    「オクトーバーフェスト」
    「ロマンティック街道」
    「ピアノ協奏曲」
    「アルファロメオ」
    「進化論」
    「彗星」
    「野良犬」
    「マフラー」
    「博物館」
    「遊園地」
    「羽」
    「いろはうた」
    「鏡」
    「シャープ」
    「にんじん」
    「モンサンミッシェル」
    「ガラス細工」
    「楓」
    「金魚鉢」
    「古書」
    「WEB」
    「モンブラン」


    シュタイナ中佐の幻想

     モンブランを越えたのはずいぶん昔のような気がする。絵葉書にもあるような都、ローマが視界に入った。ドイツ帝国陸軍の軍人であるシュタイナ中佐は、双眼鏡を目から外した。この高度からコロッセオを見下ろせるなんて、胸が躍っていいはずだが、中佐はそんな気にはなれなかった。胸が躍るなんて贅沢がいえるのは平時の話だ。W・E・Bの三本の信号旗が続けて旗艦バルバロッサに上がるのを確認し、中佐は飛行船グラーフ・ツェッペリンの乗組員全員に戦闘準備の指令を出した。信号旗の意味はこうだった。西の微風、視界良好、障害物なし。作戦を中止する理由はどこにもない。

     ツェッペリン式飛行船。いくつものヘリウムのタンクを、桃の缶詰よろしくアルミの外郭で覆った、文字通りの空の王者だ。そして積んでいるものはヘリウムガスのタンクだけではなかった。毒ガスの原液を詰めた爆弾も、山のように抱えているのだ。

     故郷ではそろそろオクトーバーフェストが始まるころか。生きて帰れたらビールを金魚鉢で飲んでやる。博物館で見るガラスのケースのような、でっかい金魚鉢で、目の前のものが、人間だか、テディーベアとかいう娘の大事にしている人形だか、わからなくなるほどに。そうでもしないとやりきれない。

     娘とは満足に遊園地にも行ってなかった。エリカの咲き乱れるリューネブルガーハイデの光景など、あれには想像もできまい。買ってやったのは、件のテディーベアと、蚤の市で手に入れた、彗星が表紙に描かれたサイエンス・ロォマンスの古書と……。これから寒くなるというのに、おれはマフラーすらも女房にまかせきりで……。

    「中佐どの!」

     シュタイナ中佐は我に返った。そこでは、副官のフランツ大尉が敬礼していた。くせの強い栗色の髪をこてこてに固めているので、皆からマロングラッセとあだ名されている男だ。

    「本艦はいつでも爆撃可能であります! ローマはいつでも死体の山にできます!」

     今日の大尉はマロングラッセではなかった。にんじんだった。それほどまでに、大尉の顔は誇らしさで紅潮していた。それに対しおれは……と中佐は言葉にせずに呪った。を見れば野良犬よりもみじめな顔をしているに違いない。誇り高い軍人にあるまじきこんな攻撃法などを立案した自分を、殴って殴って殴り殺したいところだ。

     渇きを覚えた中佐は反射的に煙草入れを探ったが、船内は禁煙だった。いくらヘリウムを使っているとはいっても、飛行船が火を出したらそれだけで一巻の終わりである。

     そもそもの始まりは酒保でビールを飲んでいた時だった。誰だかが、なんとかいう流行作曲家の書いたピアノ協奏曲を変奏曲にしてかき鳴らしていた。シャープが不必要なほどやたらと使われている変な曲だった。それがおれをおかしくさせたのかもしれない。何杯目のジョッキを空にした時だったか、おれは飛行船の使用法に対して熱弁をふるっていた。飛行船は偵察にしか役立たない? バカいえ、飛行船は山ほど爆弾を積めるじゃないか。戦争だって進化論にのっとってるんだぜ。地を這う獣からを生やした鳥が生まれたように、戦争も三次元的に進化するんだ。考えても見ろ、飛行船で艦隊を組み、マスタードガス弾を山ほど積んで、防空気球のないところを爆撃したとする。街が一つ、まるまる壊滅するぜ。ローマなんてどうだ? 攻撃されるなどとは連合軍の誰もが考えていない戦略拠点だ。陸軍や海軍の追いつけない速さで、山を越えて飛んでいくんだ。ロマンティック街道アルファロメオで突っ走るよりも楽に行ける。成功したらすごいことになるぜ。いずれは中国へでもバンコクへでも、なんならエジプトのピラミッドでも、どこだって爆撃できるぞ。どうだこの天才的な思いつき。問題点は、正義と自由のために戦う我が軍においては、そんな民間人の虐殺など、もとから許されるはずがないということだけさ。なーんてな!

     ジョークのつもりだった。しかしまさかそれが将軍たちや参謀本部の耳に入るとは。おれは少佐から中佐に昇進し、この飛行船の艦長として、卑劣千万な虐殺をしようとしている……。あの参謀長は、「戦略爆撃」だなどといっていたが、これが、こんなものが、「戦略」なのか?

     旗艦の信号旗が変わった。中佐は奥歯を噛んだ。ドイツの軍人にとって、抗命罪で有罪になるのは死よりもひどい屈辱なのだ。

     中佐は叫んだ。

    「爆撃開始!」



     ……中佐ははっと目を覚ました。夢か。おれは飲みすぎて眠ってしまったんだろう。

     空には赤い月が出ていた。赤い月?

     身を起こした。ぱちぱちと火がはぜる音がする。四方を見ると、一面の焼け野原だった。自分のもたれていた、この焼けた切り株は、だろうか? それにしても、ここは、どこだ? 中佐は目をこらして、炎の中に浮かぶ、もとは城塞だったろう廃墟のシルエットを見て、慄然とした。

     モンサンミッシェルじゃないか! ここはフランスなのか?

     ほかの建物は皆、ガラス細工のように粉砕されてしまったらしい。

     中佐は空を見上げた。移動していく、無数の巨大な飛行船の灯りが見える。編隊を組んでどこかに向かっているのだ。なにをするつもりなのかは、名探偵でなくとも想像はついた。目的地はいったいどこだ? ロンドンか? マドリードか? また町を死体置き場に変えるつもりか?

     これは……。

     これはおれのせいなのか?

     なにかの詩句が頭をよぎった。それが遠い異国、日本で「いろはうた」だと呼ばれているものであることを、中佐は知る由もなかった。

     色は匂えど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ 憂いの奥山 今日越えて 浅き夢見し 酔ひもせず…… 

     中佐は叫んだ。

    「神だろうと悪魔だろうと、どっちでもいい! 飛行船による戦略爆撃など、なかったことにしてくれ! 飛行船を戦争から外してくれ! かわりにおれの魂を持って行け!」

     誰かがその願いを聞いたらしい。中佐は、この世から、いなくなった。



     そして飛行船は戦略爆撃に使用されることはなくなった。人類は、もっと便利で新しいおもちゃ、『飛行機』を手に入れたからだ。

     いまや飛行機は歴史に赫々たる武勲を残している。広島。長崎。重慶。ドレスデン。東京……。

     次は?
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    飛行機の存在しない平和な世界ですよ。ぜひ一度いらしてください(そうか?)

    NoTitle

    改めて見ると海外や西洋的なキーワードが多いんですね
    私もヨーロッパに行ってみたいものです
    (この小説の世界は除く)

    Re: 山西 サキさん

    短い話の中にこれだけ取り込めるというよりは、

    「短い話しか書けない」というべきか(^^;)

    短編にせよもちっと長い話を書いて、おのおのワードをプロットの中で有機的に関連させられれば理想的なのでしょうが、そうもいかず、ちょっとかなり無理してます。(^^;)

    ほんとにこんな怖い話はもう書くまいと思っていたのですが、うーん、まだネガティブ思考みたいです(^^;)

    Re: 八少女 夕さん

    ツェッペリン型飛行船、といったら、このネタしか思いつきませんでした。実際、ヒンデンブルグ号の爆破墜落までは、連合国軍、とくにイギリスはツェッペリン式の飛行船によるロンドンへの戦略爆撃を恐れていたのはほんとうです。ヒトラーがそれをやらなかったのは、急降下爆撃を行える戦闘爆撃機と、高速で移動できる戦闘機が実用化されて、飛行船が軍事目的に使用されるには時代遅れになってしまったからです。もしも、ドイツ空軍の最高司令官に無能なゲーリングではなく、まともな戦略眼を持つ人間がいたら、無数の戦略爆撃機によってイギリスは大戦末期の日本みたいな焼け野原になり、ドイツがヨーロッパを制していたかもしれません。実際にそれができる戦略爆撃機の機体もあったのです。

    しかしこのノリでキーワードを消化していって、最後のほうで「WEB」という言葉を見つけたときはほんと心臓が止まりそうになった(笑) 科学技術レベルは1930年代だぞ! インターネットがあるわけがない!(笑) 何とかごまかしたけど反則じゃないかと思ってます(^^;) WEBって言葉がないかどうかドイツ語ウィキペディアを検索してみたり大慌てでした(^^;)

    書いてみたらものすごく暗い話になってしまい反省もしてます(汗)

    おはようございます

    指定されたワードを使おうとすると、どうしてもヨーロッパが舞台になるんでしょうか。使い回しの効きそうにないワードにヨーロッパ関係が結構ありますからね。しかもその中にアジア系の物がちりばめられているし。難しいですよ。
    でも凄いです。この短い話の中にこれだけを取り込んでしまえるなんて。
    ポールさんが作られた世界、恐いですけれど頭の中にリアルに浮んてしまいます。

    な、なんと!

    こんばんは。

    ここにも35名詞コンプリートとか、とんでもないことをやってのけるお方が……。さすがだなあ……。
    え。任されても、どうしようもないんですけれど。
    私は大人しく、四つに分けた掌編でちまちまと消化中でございます(笑)

    そして、よくもまあ。35名詞コンプリートするのって、使える世界がかなり限られるはずなんですけれど、ポールさんが作るとこういう世界になるのですね。ふうむ。

    ちょっと怖い幻想だけれど、中佐にとって地獄を見る前に消えていなくなったのは幸せだったのかも。本当のドイツの飛行船は、ヒンデンブルグみたいに、水素ガスしか使えなくて、燃えちゃったし……。

    相変わらずの無茶っぷりでのご参加、ありがとうございました!
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