東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ7位 樽 F・W・クロフツ

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     正直にいう。クロフツの「樽」が7位というのは、オールドファンが多いとはいえあまりに過大評価ではないのか。そんな気がしてならない。

     まあ、文春「東西ミステリーベスト100」の投票者が、今から考えれば30年前の、しかもその時点でもオールドファンが多かったことを思えば、「足の探偵」の代名詞であった「樽」が上位に来るのもわからないではないが、それにしても同じクロフツでももっと面白い長編はあるだろう、といいたくなる。

     それほどまでに、「樽」は重苦しく暗く退屈な小説である。

     腰を据えて再読した大学時、創元の訳文の古さもあり、読んでいるのが苦痛でならなかった。

     今読めばまた違うかもしれないが、クリストファー・ブッシュの「完全殺人事件」を読んだときのような退屈さを感じるだろうな、と思うと読み返す気にもなれない。

     本格ミステリファンは「アリバイ派」と「密室派」に分かれるというが、その意味であればわたしは完全に「密室派」である。

     アリバイトリックは、よほどうまく書かないかぎり、それも人間の盲点を巧みにつかないかぎり、「やられた!」という背負い投げの快感を味わえないと思うのだ。崩しても崩しても立ちはだかるアリバイを、時刻表を見ながら追いかける、という小説のどこが面白いのかいまだに見当がつかぬ。鉄道や道路の事情が変わっただけで、「同じことを何度も何度も繰り返しやっていてよく飽きないことだなあ」とすら思う。

     東野圭吾先生は名著「名探偵の掟」の中で登場人物に、「密室」を「またか」といわせ、「同じ現象を起こす手品を、トリックが違うからといって何度も何度も何度も何度も見せられている感じである」と喝破していたが、わたしにとってはアリバイ崩しは「ささいな違いしかない現象を起こす手品を、同じトリックで何度も何度も何度も何度も見せられている感じ」なのである。

     違う現象が起こるならいいではないか、というかもしれないが、こちらはたねあかしを楽しみにしているのだ。単純に「アリバイが崩れました。おわり」では面白くもなんともないのである。

     「東西ミステリーベスト100」では「リアリズム警察小説の元祖」とも評していたが、そういうことは登場する警察官を魅力的に描いてからいってくれ、だ。なんともまあ、歴史的価値としても面白さとしても実に微妙な感じしか覚えない。

     いろいろとボロクソに書いたが、クロフツの作品は退屈なものばかりではない。少年向けリライトでしか読んでないが、「マギル卿最後の旅」などはフレンチ警部が足の捜査で犯人の行動を逐一シミュレートするのがスリル満点であるし、短編集「殺人者はへまをする」では凡人探偵といわれるフレンチ警部が犯人のわずかな失策から真相を見抜く名探偵ぶりを見せつけてくれる。日本では膨大な作品が創元推理文庫を中心に邦訳されているので、たまには重点的に読んでみるか、という気に、は、なれんなあ……。

     と書いた翌日、駅の本屋へ行ったら「樽」の新訳版が同じ創元で出ていたことに気づいた。あまりにボロクソに書いてしまったか、と後ろめたい気持ちもあって、金をドブに捨てるつもりでえいやっと買い、読み始めた。

     ……普通に面白かった。すらすらとあの厚いのを三時間で読み終えてしまった。

     だけど7位は過大評価だと思うであります。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    思ったよりは読みやすくて面白かったです。読み直してよかった、と思いました。初めから警察が主役の作品にしていたら、70位くらいには上げてもいいと思いますが、ちょっと最後の処理がなあ……クロフツがフレンチ警部という探偵役を得たのはクロフツにとっても読者にとっても幸運でありましたなあ。

    同じ日にカーの「三つの棺」の新訳版もついでにえいやっと買って読んだのですが、これがまたべらぼうに面白い……中学生のころ読んだ旧訳のハヤカワ文庫版では何がどうなってどう面白いのかさっぱりわかりませんでしたが、なるほど、これなら「火刑法廷」並みのベスト作品、というのもわかるなあ、と思ったであります。

    NoTitle

    さすがに今、「樽」ってことはないようなあ、なんて思っていて
    まさに手元にあるのですが読んでいません。
    (昔読んでます)

    でもいま普通に面白かったってことは7位でなくとも20位くらいには
    いてもよさそうですね

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