映画の感想
「雪之丞変化」(1936年版)見る
「雪之丞変化」は「忘却エンドロール」で宵乃さんが1963年版の、五十を過ぎた長谷川一夫が主演するカラーのリメイク版を見て辛めの評価をされていたので、それなら同じ長谷川一夫でも二十五年前の若いころに、衣笠貞之助監督が撮った白黒版を見てみることにした。Youtubeに動画が上がっていたのである。たぶん80年近く前の作品で版権切れだからというわけで有志がUPしたんだろうな。
感想。
……なんでこんな面白い映画が、今はズタズタの総集編しか残ってないんじゃオラァ!
いや、これだったらリメイクするのもわかる。役者のセリフのやりとりも、剣戟シーンも、ひとつひとつがスリル満点。小さい画面ではあるがどきどきしながら見入ってしまった。
青空文庫に出ている原作小説もとりあえず読んだが、もともと復讐譚である「雪之丞変化」というのは理不尽な話である。主人公が復讐するのに並行して罪もないヒロインも哀れな最期を遂げるのだ。作劇的にはしかたないのだが、今の視点ではちょっと……というところがけっこうある。悪徳商人に復讐するのはいいけれど、そこに奉公していた奉公人とかにはどう責任を取るというのだ、かなりの大店じゃないか、などと考え出すと止まらない。まあ時代劇だし、当時の常識もあるし、考える方が悪いなこれは。
長谷川一夫(このときは林長二郎という芸名だった)の演じる雪之丞は、女形役者として、終始女装して登場する。そこになんというか妖しげな魅力が出てくるのだ。美輪明宏みたいなそういう魅力ではなく、「女形役者として女のようにふるまっている剣の達人の美青年」を演じるという、二重にも三重にも顚倒した魅力である。
同時に長谷川一夫は、江戸の怪盗、闇太郎としても登場する。一人二役というやつである。これがまた、なんともいい男なんだよなあ。妙な色気というか。怪盗とはいうが殴り合ってもやたらと強い。
ついでにいえばこの映画では、長谷川一夫は回想シーンと幻想シーンにおける「雪之丞の母親」役もやっている。一人三役。イケメンは得だ。
この映画はそうした「長谷川一夫を愛でる映画」と考えるべきなのだが、自分としてはちょっとうれしいこともあった。サブヒロインの悪女として、伏見直江氏が出ていたことである。この人は「忠次旅日記」や「御誂次郎吉格子」でも印象深いヒロインを演じておられた。今回も、気の強い悪女を嬉々として演じておられて実に楽しい。
悪役はそれぞれ名の通った人なのだろうが、そこまで詳しくないのでよくわからん。
肝心のストーリーなのだが、先にも書いたとおり、「なんで完全版が残ってないんだ!」である。編集するのはいいのだが、なんで雪之丞に対して思いを寄せるメインのヒロインが、「ワンカットしか映っていない」のだ。それが無性に悔しい。
初上映時は三部構成だったそうなのだが、かなりの部分がばっさりカットされ、「ナレーターの説明」でつながれる。そのカットの量たるや、黒澤明監督の「姿三四郎」とはレベルが違うのだ。だから脳内補完しないといけない。けっこう疲れる。
しかし豪華なセット、現役の歌舞伎役者でもあった長谷川一夫による美しく緊迫した舞台シーン、音楽その他、見ないで済ませるにはまことに惜しい作品。
面白かった。
感想。
……なんでこんな面白い映画が、今はズタズタの総集編しか残ってないんじゃオラァ!
いや、これだったらリメイクするのもわかる。役者のセリフのやりとりも、剣戟シーンも、ひとつひとつがスリル満点。小さい画面ではあるがどきどきしながら見入ってしまった。
青空文庫に出ている原作小説もとりあえず読んだが、もともと復讐譚である「雪之丞変化」というのは理不尽な話である。主人公が復讐するのに並行して罪もないヒロインも哀れな最期を遂げるのだ。作劇的にはしかたないのだが、今の視点ではちょっと……というところがけっこうある。悪徳商人に復讐するのはいいけれど、そこに奉公していた奉公人とかにはどう責任を取るというのだ、かなりの大店じゃないか、などと考え出すと止まらない。まあ時代劇だし、当時の常識もあるし、考える方が悪いなこれは。
長谷川一夫(このときは林長二郎という芸名だった)の演じる雪之丞は、女形役者として、終始女装して登場する。そこになんというか妖しげな魅力が出てくるのだ。美輪明宏みたいなそういう魅力ではなく、「女形役者として女のようにふるまっている剣の達人の美青年」を演じるという、二重にも三重にも顚倒した魅力である。
同時に長谷川一夫は、江戸の怪盗、闇太郎としても登場する。一人二役というやつである。これがまた、なんともいい男なんだよなあ。妙な色気というか。怪盗とはいうが殴り合ってもやたらと強い。
ついでにいえばこの映画では、長谷川一夫は回想シーンと幻想シーンにおける「雪之丞の母親」役もやっている。一人三役。イケメンは得だ。
この映画はそうした「長谷川一夫を愛でる映画」と考えるべきなのだが、自分としてはちょっとうれしいこともあった。サブヒロインの悪女として、伏見直江氏が出ていたことである。この人は「忠次旅日記」や「御誂次郎吉格子」でも印象深いヒロインを演じておられた。今回も、気の強い悪女を嬉々として演じておられて実に楽しい。
悪役はそれぞれ名の通った人なのだろうが、そこまで詳しくないのでよくわからん。
肝心のストーリーなのだが、先にも書いたとおり、「なんで完全版が残ってないんだ!」である。編集するのはいいのだが、なんで雪之丞に対して思いを寄せるメインのヒロインが、「ワンカットしか映っていない」のだ。それが無性に悔しい。
初上映時は三部構成だったそうなのだが、かなりの部分がばっさりカットされ、「ナレーターの説明」でつながれる。そのカットの量たるや、黒澤明監督の「姿三四郎」とはレベルが違うのだ。だから脳内補完しないといけない。けっこう疲れる。
しかし豪華なセット、現役の歌舞伎役者でもあった長谷川一夫による美しく緊迫した舞台シーン、音楽その他、見ないで済ませるにはまことに惜しい作品。
面白かった。
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NoTitle
観ましたよ~。
さすが、若かりしイケメンの長谷川さん、女形も闇太郎もみごとに演じてました。
お母さんにいたっては、年齢的にも違和感なくて気付きませんでしたよ(汗)
あと、ちらりとしか映らないヒロインより、サブヒロインの方がよっぽど可愛かったです。元から出番はサブヒロインの方が多いのかな?
ただ、やはり台詞がききとり辛くて、BGMや背景の音があると何を言ってるのかまったくわかりませんでした。そうなると集中力も続かず…。
画面の構図とか見せ方とか、良い映画だというのは伝わってきたので、きちんと観られず残念です。
いつか奇跡的に失われたフィルムが発見されたりして、デジタルリマスターで音声もきれいに復元!とかないかなぁ…。
教えて下さってありがとうございました!
さすが、若かりしイケメンの長谷川さん、女形も闇太郎もみごとに演じてました。
お母さんにいたっては、年齢的にも違和感なくて気付きませんでしたよ(汗)
あと、ちらりとしか映らないヒロインより、サブヒロインの方がよっぽど可愛かったです。元から出番はサブヒロインの方が多いのかな?
ただ、やはり台詞がききとり辛くて、BGMや背景の音があると何を言ってるのかまったくわかりませんでした。そうなると集中力も続かず…。
画面の構図とか見せ方とか、良い映画だというのは伝わってきたので、きちんと観られず残念です。
いつか奇跡的に失われたフィルムが発見されたりして、デジタルリマスターで音声もきれいに復元!とかないかなぁ…。
教えて下さってありがとうございました!
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Re: 宵乃さん
お初を演じた伏見直江さんは、鉄火肌の女をやらせたらあの人以上の女優はいませんね。なんたって、無声映画時代の傑作「忠次旅日記」で忠次の愛妾である『姐さん』みたいな役、『極道の妻たち』なら岩下志麻さんがやるような役を演じた時、まだ19だったそうですから。そして初めて声を聴きましたが、もう色っぽくて、さらにファンになってしまいました。あの人の人生はまさに波乱万丈で面白いのですが、本人はたいへんだったろうな(^^;)
完全版がデジタルリマスターされたら絶対見に行くなあ……フィルムセンターあたりに誰か持ち込まないかなあ。