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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 2-15

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    15

     この調子で夜まで聞き込みを続けたが、それ以上のことはわからなかった。
     わたしはとぼとぼと帰宅の途についた。
     野村香によく似た若い娘とはいったい誰なのだ。子供がいても、確かにおかしくない齢だったが、遥家の住み込みを長年勤めていたことからその可能性は薄い。
     他人の空似か、それとも。
     わたしはぶるぶると首を振った。
     まさか、ストリゴイの力で若返ったのか。
     ありえない話ではなかった。半年間寝たきりの人間を、人間とは思えないほどの怪力とスピードで動かしてしまう相手である。過剰な生命力が、中年女の外見を一変させてしまったとしても、あながちおかしいともいえない。
     わたしにできることは警察がそれに気づかぬよう祈ることだけだった。なんとしても警察より早く野村香を見つけなければならない。
     そうでなければ、野村香は……。
     考えているうち、ワンルームについた。わたしを待つものはいなかった。こいつはニュースにならないというように判断が変わったらしい。
     素晴らしいことだ。これが油断を誘うための偽装退却でなかったら、の話だが。
     わたしはひとりごちながら鍵を開けた。郵便受けは常に三倍するような数の郵便物でいっぱいだった。
     机に持ってきてひとつずつチェックした。取材の要請と診察の依頼が主だった。前者をゴミ箱に投げ入れ、後者で明らかに筋違いと思われるもの(「統合失調症と診断されて病院に通っている息子がおります。最近になって薬を飲まなくなりました。先生のお力でなんとかなりませんか」etc)に対して返事を書き(「残念ですが、わたしにはなにをしてあげることもできそうにありません。むしろ主治医のかたとご相談して、お子さんが薬をきちんと飲むように説得するか、または持続性のある注射剤に切り替えるかすることをお奨めします」)、緊急性が薄そうなものには、当分診療所を閉めるのでほかを当たってくれと返事を書いた。緊急性が高そうな依頼の手紙はなかった。返信用切手や葉書を同封していないものについてはなにも書かなかったのはいうまでもない。投函するのは明日になるだろう。
     ついでパソコンの電源を入れた。
     メールボックスをチェックする。公開もしていないのにどうしてこんなに来るんだか。
     遥美奈からのメールがあった。さっそく開く。
     それは、こう始まっていた。

    『桐野先生。
     ニュースを見ました。警察が香さんの写真を公開したのを知り、愕然としました。つねづね初動捜査の遅れを指摘されている警察が、この事件にかこつけて失地回復をはかるというのは理性ではわかりますが、感情の面からはなかなか納得しがたいものがあります。先生もごらんになったでしょう、運転免許証から取ったとおぼしきあの顔写真を。あの香さんが、いかにも残忍非道な殺人鬼であるかのように写されていました。
     先生のおっしゃるとおり、警察とマスコミの情報収集力の前に、わたしたちが太刀打ちできるわけがないと思えてきます。それではいけない、香さんを助けなければという気持ちには変わりはないのですが。
     先生のほうでは香さんについてなにかわかりましたか?
     ごめんなさい。まだ2日しか経っておりませんでしたね。いくら先生でも、それだけの時間でなにがわかるということもありませんね。
     西方先生は学芸員としての仕事があるため、戸乱島を離れられません。ですから、今は先生だけが頼りなのです。あの事件以来、友人知人と距離を置こうと東京へ来たつもりが、その友人知人が恋しくなるとは。
     だめですね、つい愚痴がこぼれてしまいます。
     マスコミの目もありますし、先生もお忙しいでしょうが、また近いうちお会いしたいと思います。その折が来たら、またメールを差し上げます。
     それでは。

     美奈』

     わたしはパソコンの前で座りなおすと、遥美奈に返事を打ちはじめた。
     こちらにもマスコミやスパムメールが犬に食わせるほど来ているということや、しばらく診療所を閉めることなどを書く。
     迷ったが、野村香の情報については書かないことにした。遥美奈に会ったときに話せばいいだろう。

    『……遥さんと会う日でしたら、わたしはいつでもかまいません。お話ししたいこともありますので、出来る限り早く会いましょう。また、その時にはいくばくかのお金を要求するかもしれません。それも頭にいれておいてください。
     以上です。

     桐野 俊明』

     としめくくり、ためらった後で「送信」ボタンをクリックした。
     コンピュータがいやいやをするかのような一秒くらいの空白の後、メールは無事に送信された。
     もう一通、書くところが残っている。
     わたしはなじみの探偵社にメールを打った。

    『森村探偵事務所様

     桐野だ。力を借りたい。人体程度の大きさの怪しげな荷物を保管している冷凍倉庫の情報が欲しい。捜査の範囲は過去一週間以内。できるだけ早い調査を望む。手付金は明日の朝、いつもの口座に振り込む。
     返事を乞う』

     これで遥美奈にぜひとも会わなくてはならない理由がひとつ増えた。
     女からカネをむしりとる元精神科医か。
     最低だ。
     自分にいやけがさしてきたのでその日は早く寝ることにしたかったが、いつまでもメールの内容を確認しないで放っておくわけにもいくまい。わたしは昨日からの未読メールのうち、安全そうなものをひとつひとつチェックし始めた。
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    ~ Comment ~

    >ネミエルさん

    いや、続きは書いてあるというかもう完成してるんです。小説自体を書き上げたのは3年くらい前ですから。

    今は、この次のシリーズをどうしようかと。いちおう、そこでは桐野くんがとある女性と大恋愛をすることになっているのですが、わたし恋愛小説を書いたことが一回もないので……(^^;)

    先生、追い込まれているみたいですね・・・

    勉強とかで進展がないとイライラします、僕も。

    だから、先生もがんばってくださいね!

    ポールさんもがんばって続きをおねがいしますねb
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