「ショートショート」
その他
選択
町にはジングルベルが流れ、イルミネーションがまたたく。
クリスマスイブだ。一杯きこしめしたわたしは、いい気持ちで二軒目のバーの入り口をくぐった。くぐった瞬間、「店を間違えた」ことに気がついた。真っ暗な部屋に、ろうそくの灯りがぽつんと灯っていた。引き返そうと思ったが、ドアにノブはなかった。
「選択せよ……」
ろうそくを挟んだ向こう側で、誰かがいった。
「誰だ」
「選択せよ……」
ろうそくに近寄ると、なにかの壁にはばまれたように、わたしの足はぴたりと止まった。
「選択せよ……」
「誰だ、お前は!」
「今年は何年だ?」
「二〇一五年だ」
「ならば、それだけの数の兄弟がいるものだ、と思えばいい」
どこかで聞いたことがある。それもクリスマスがらみで……。
わたしは息を呑んだ。思い出したのだ。ディケンズの、「クリスマス・キャロル」。そこに出てきた……。
「わたしはスクルージほど悪業をしてきていないぞ」
「そんなことはどうでもいい。お前は選択をしなくてはならぬ」
「なにを選べばいいんだ」
「『クリスマス抜きのサンタクロース』と、『サンタクロース抜きのクリスマス』。どちらを選ぶ、人間の子よ?」
なんだそんなことか。わたしは拍子抜けするのを覚えた。
「答えたらどうなる?」
「知らぬ。これより先の兄弟たちが決めることだ」
「わたしの意見は参考意見ということか」
「そうだ。ただひとつの参考意見だ」
妙にずしっと来る声だった。
「なぜわたしが選ばれた」
「偶然だ。しかし必然ともいえる。そういう意味で、お前は選ばれたのだ。答えよ、『サンタクロース抜きのクリスマス』と『クリスマス抜きのサンタクロース』、お前はどちらを選ぶ?」
「どちらも嫌だよ」
「それは答えとして認められぬ。選択をせよ、といっているのだ」
そんなこといったって……人間は、クリスマスを求めているのか? サンタクロースを求めているのか?
もし、わたしが「サンタクロース抜きのクリスマス」と答えたとする。そうすれば、クリスマスは一年に一度行われるだろう。復活祭などと同じように、キリスト教徒の間だけで。プレゼントもなければ、コスプレをしたホットパンツのお姉ちゃんもいない。祈りと平穏。ただそれだけ。そういう可能性がある。
対して、わたしが「クリスマス抜きのサンタクロース」と答えたとする。そうすれば、一年中、サンタクロースが出てきていいわけだ。人間は常にプレゼントを求め、物欲が支配することになるだろう。物欲はさらなる物欲を生み、サンタクロースはしだいにその重要性を失い、単なる資本主義の歯車のようになっていく。そういう可能性がある。
どちらを選んでもロクなことになりそうもない。
「やっぱりどちらも選べない。ここから出してくれ」
「それはできぬ。お前は選ばなければならぬ」
「だけどさあ……」
そのとき、わたしはふっと理解した。わたしは声に聞いてみた。
「もしかして、あんた……そうとう、疲れてるのか?」
……………………
わたしは盛り場の路上に立っていた。なにか夢でも見ていたらしいが、ぼんやりとしか思い出せなかった。何か重大な選択で、どちらかを選んだ覚えはあるのだが、それが思い出せないのだ。
なんとなく白けた気分で、わたしは夜の町を歩いた。
毎年毎年この時期になると聞く、うんざり気味の曲が流れてきた。わたしは口ずさみながら、背中を丸めて歩いて行った。
「雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう……」
いつから流行り出したんだっけ、この曲……。
クリスマスイブだ。一杯きこしめしたわたしは、いい気持ちで二軒目のバーの入り口をくぐった。くぐった瞬間、「店を間違えた」ことに気がついた。真っ暗な部屋に、ろうそくの灯りがぽつんと灯っていた。引き返そうと思ったが、ドアにノブはなかった。
「選択せよ……」
ろうそくを挟んだ向こう側で、誰かがいった。
「誰だ」
「選択せよ……」
ろうそくに近寄ると、なにかの壁にはばまれたように、わたしの足はぴたりと止まった。
「選択せよ……」
「誰だ、お前は!」
「今年は何年だ?」
「二〇一五年だ」
「ならば、それだけの数の兄弟がいるものだ、と思えばいい」
どこかで聞いたことがある。それもクリスマスがらみで……。
わたしは息を呑んだ。思い出したのだ。ディケンズの、「クリスマス・キャロル」。そこに出てきた……。
「わたしはスクルージほど悪業をしてきていないぞ」
「そんなことはどうでもいい。お前は選択をしなくてはならぬ」
「なにを選べばいいんだ」
「『クリスマス抜きのサンタクロース』と、『サンタクロース抜きのクリスマス』。どちらを選ぶ、人間の子よ?」
なんだそんなことか。わたしは拍子抜けするのを覚えた。
「答えたらどうなる?」
「知らぬ。これより先の兄弟たちが決めることだ」
「わたしの意見は参考意見ということか」
「そうだ。ただひとつの参考意見だ」
妙にずしっと来る声だった。
「なぜわたしが選ばれた」
「偶然だ。しかし必然ともいえる。そういう意味で、お前は選ばれたのだ。答えよ、『サンタクロース抜きのクリスマス』と『クリスマス抜きのサンタクロース』、お前はどちらを選ぶ?」
「どちらも嫌だよ」
「それは答えとして認められぬ。選択をせよ、といっているのだ」
そんなこといったって……人間は、クリスマスを求めているのか? サンタクロースを求めているのか?
もし、わたしが「サンタクロース抜きのクリスマス」と答えたとする。そうすれば、クリスマスは一年に一度行われるだろう。復活祭などと同じように、キリスト教徒の間だけで。プレゼントもなければ、コスプレをしたホットパンツのお姉ちゃんもいない。祈りと平穏。ただそれだけ。そういう可能性がある。
対して、わたしが「クリスマス抜きのサンタクロース」と答えたとする。そうすれば、一年中、サンタクロースが出てきていいわけだ。人間は常にプレゼントを求め、物欲が支配することになるだろう。物欲はさらなる物欲を生み、サンタクロースはしだいにその重要性を失い、単なる資本主義の歯車のようになっていく。そういう可能性がある。
どちらを選んでもロクなことになりそうもない。
「やっぱりどちらも選べない。ここから出してくれ」
「それはできぬ。お前は選ばなければならぬ」
「だけどさあ……」
そのとき、わたしはふっと理解した。わたしは声に聞いてみた。
「もしかして、あんた……そうとう、疲れてるのか?」
……………………
わたしは盛り場の路上に立っていた。なにか夢でも見ていたらしいが、ぼんやりとしか思い出せなかった。何か重大な選択で、どちらかを選んだ覚えはあるのだが、それが思い出せないのだ。
なんとなく白けた気分で、わたしは夜の町を歩いた。
毎年毎年この時期になると聞く、うんざり気味の曲が流れてきた。わたしは口ずさみながら、背中を丸めて歩いて行った。
「雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう……」
いつから流行り出したんだっけ、この曲……。
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
Re: blackoutさん
というか、わたしがこれまで書いてきたクリスマス小説って、クリスマスではなくてサンタクロース小説ではないかと思えてきた(^^;)
サンタクロース万歳。プレゼント万歳(^^;)
サンタクロース万歳。プレゼント万歳(^^;)
Re: LandMさん
サンタクロースのないクリスマスなんてクリープのないコーヒーみたいなもんじゃないですか。
……ないほうがいい、という意見もありますな。クリープについては(^^;)
……ないほうがいい、という意見もありますな。クリープについては(^^;)
NoTitle
サンタクロースなしのクリスマスでいいと思います
もともとキリスト教徒の祭りだったはずなので
それがいつしか、日本では商売のために利用されるようになってますからね
もともとキリスト教徒の祭りだったはずなので
それがいつしか、日本では商売のために利用されるようになってますからね
NoTitle
う~~む、流石ポールさん。
クリスマス一つでもここまで考えられるとは。。。
確かにどちらがなくても、
今の・・・日本のクリスマスはないですからね。
別に私はサンタクロースなしのクリスマスでもいいですけどね。
クリスマス一つでもここまで考えられるとは。。。
確かにどちらがなくても、
今の・・・日本のクリスマスはないですからね。
別に私はサンタクロースなしのクリスマスでもいいですけどね。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
管理人のみ閲覧できます