ミステリ・パロディ

    ヨークの悲劇

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     電話が鳴った。

    「はい、こちら『ランドスケープ』編集部……なんだ、ヨークじゃないか!」

     ヨークのやつとはこの三年は会っていない。さして仲がいいというわけではないが、旧友からこうやって電話をもらうとうれしいものだ。仕事中でなければだが。

     そして文芸雑誌の編集者ともなると、「悪い予感」というものを感じずにはいられない。

    「小説を書いた? ……なるほど、それでぼくのところへ」

     悪い予感は的中である。

    「どんなもの? え? ミステリ?」

     悪い予感はどんどん当たる。ちらりと机を見た。うずたかくうずたかく積まれている投稿の山。その大半が、自分こそ第二のS・S・ヴァン・ダインになろうとする輩の書くミステリなのだ。

    「短編かい? ……長編?」

     頭を抱えた。短編だったらまだ読む気にもなるが、長編ともなると……。まあ、タイトルだけは聞くか。

    「『ヴァニラ殺人事件』?」

     天を仰いだ。どうしようもないほどありきたりで、創造性のかけらもないタイトルである。こんなタイトルの本、読もうというやつはいやしまい。

     ヨークのやつはさらにこんなことまでいってきた。

    「いやね、ヨーク、いくらなんでも、ペンネームに『ミス・テリー』ってのはちょっと……」

     言葉を選び選び話すのにも限界がある。タイトルとペンネームのセンスから、読まなくていいクズ作品であることがビンビンに伝わってくる。かといって『ボツ』というのもあまりに残酷だろう。よし、ここは間をとって……。

    「それなんだけども、うちはほら、文芸誌だろ。だから、きみのようなミステリは、別な雑誌の方が向いているんじゃないかと思うんだ。大衆誌だけど、『ブラッディ・マスク』誌というところに……いやたしかにパルプ誌とかいわれてるけど、うん、うん。まあ、そういうことだから。それじゃ」

     電話を切った。どうやらヨークはパルプマガジンは嫌いらしい。あれ向きの小説ではないことは確かだが、かといって『ヴァニラ殺人事件』じゃあねえ。

     それよりもやることがある。ぼくは途中になっていた身辺整理と荷造りを始めた。来週にはイギリス行きの船に乗るのだ。義兄の会社が人手を求めているのだ。編集者なんていう先の見えない仕事よりはずっとましだ。

     クリスマスはロンドンで過ごすことになるだろう。



     ……………………



    「完全な精神状態でわたしは自殺する。 Y」(二月、トロール漁船が引き上げたヨーク・ハッターの溺死体とともに発見されたその遺書)
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    ~ Comment ~

    Re: 野津征亨さん

    そこまで悲観的にならんでも。在庫は次の即売会へ持っていくなり誰かに委託販売を頼むなり会場で人と交換するなりしたらいいのでは、と、末期は10部刷って5部売れて喜んでいたわたしは思うのでありますが。



    この小説はミステリのパロディですから、エラリー・クイーン「Yの悲劇」を読んでおかないとどこで笑っていいのかわからないと思います。

    このヨーク・ハッタ―という男ですが、

    この人がかわいそうな人でねえ……。

    詳しくは「Yの悲劇」を読んでください。ショッキングな真相が待っている傑作ミステリです。

    Re: limeさん

    うーむ、クイーンファンのlimeさんにもネタが不発だったか……(^^;)

    「Yの悲劇」は読み直してもぞくぞくしましたので、limeさんも思いきって読み直してはいかが。(……って、あれって殺人的に分厚い本だったなあ(汗))

    このヨーク・ハッターという人物は、まま自分のことですね。
    彼(いえそれとも彼女でしょうか)のように、自分も近いうちに溺死体となって、そこらを流れるドブ川の底からヘドロ塗れの状態で引き揚げられるかもしれません。
    まさに自惚れ、思い上がり、「欲張った」がために。

    あ、今日職場に荷物届きました。
    まだ開封しておりませんので、後日ゆっくり拝読させていただきますね。
    今回は色々とありがとうございましたm(_ _)m

    NoTitle

    ヨークさん・・・だれだったっけと、焦りましたが(だって中一の時に読んだきりで><)、なるほど、ハッタ―さんでしたか。思い出した!(たぶん)
    『ヴァニラ殺人事件』、って…あれを書いちゃったんですね。
    タイトルがもうちょっとセンス良ければ、読んでもらえたかな?

    でも、なんか、書きながらちょっと辛くなる気持ち、わかります・・・。
    ギャグなのに、なんかしんみり。
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