映画の感想

    「無防備都市」再見

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     これで何度目になるか忘れたが、「無防備都市」を見た。ブログDEロードショーである。

     何度見てもいい映画だ。「戦火のかなた」も「ドイツ零年」もいい映画だったが、やはりわたしにはこの「無防備都市」のほうが合っている。

     イタリア降伏後、ドイツ統治下にあるローマで、ドイツに対してレジスタンス活動をする人間たちの悲劇を描いた、正直いって救いというものがない話なのだが、緩急自在の脚本で、これがめっぽう面白いのだ。シリアスなシーンと思わせておいてギャグを入れたりと、ロッセリーニ監督の戦争三部作の中ではいちばん話としてバランスが取れているだろう。

     この映画が面白いということは何度も語ってきたし、スター俳優のそれぞれの熱演ぶり(アルド・ファブリッツィの演じる神父さんとアンナ・マニャーニの演じる再婚を控えた寡婦の演技は見事のひとこと)もいいのだが、ここではあえて別なところから迫ってみたい。

     ナチス将校をやったあの俳優さん、よくもあんな悪魔のような顔をした人を見つけてこられたものだ。ハリー・ファウストという、アンナ・マニャーニの舞台でダンサーをしていた人だそうだが、もうすさまじいまでの悪人顔で変態顔である。悪人顔といっても粗暴というよりは高い知性を持つネチネチとした悪人顔だ。この人がドラキュラ伯爵をやったらぴったりだろうなあ。

     そしてその懐刀ともいえる、バイセクシャルで正体不明の女工作員、この人もよくもあんな毒の花みたいな顔をした人を見つけてこられたものだ。ジョヴァンナ・ガレッティさんという人だが、これまたすさまじいまでの悪人顔で変態顔である。いやメイクのせいもあるだろうけど、出てきたとたんに「あっ、こいつ変態の悪人だ」とわかるオーラが漂っているのはすごい。この作品に出てブレイクしたのか、いろいろと映画に出ていたらしく、のちに変名で「呪いの館」というホラー映画で怪異の黒幕である邪悪な男爵夫人をやっていたそうだ。見たいような見たくないような。

     伝説によれば、あの映画でプロの俳優は前述のアルド・ファブリッツィとアンナ・マニャーニを含め四人しかおらず、あとは素人かアマチュア劇団から引っ張ってこられたそうだが、ローマってああいう顔の人間のストックもあったのか。つくづく底が知れない世界である。

     1945年制作のレジスタンスもの映画であるから、政治的なメッセージが当たり前のようにあるが、このふたりが鞭とかペンチとかの拷問用具を持ってこっちに迫って来たら、どんな口の堅いレジスタンス闘士でも洗いざらい吐いてしまいそうである。

     そういう面からでも楽しめてしまうので、イタリア・ネオレアリズモ、奥が深い……(そうか?)

     また後で見よう。
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    ~ Comment ~

    Re: ボーさん

    ベルクマン少佐とイングリッド・バーグマンの名前の一致はたぶん偶然でしょうけれど、もしかしたらイングリッド・バーグマン本人には天の啓示に思えるほど映画への感激が激しかったのかもしれませんね。

    この映画についてはいろいろと伝説があり、どれが虚でどれが実なのかもわからなくなってきます。

    最初に借りたDVDの解説では、女優のマリナを演じたマリア・ミーキは、ナチスの手からフィルムや監督を守ったプロの女優、ということだったのに、英語版ウィキペディアでは、もとは法律関係のタイピストで、映画関係者の恋人だったから映画に抜擢された、とか書いてあってどちらを信じればいいのか(^^;)

    まあそれだけ魅力的な映画でありますね。

    イタリアの寝返りに対しては、中学生のころ歴史の教師が、イタリア人に「お前のところは第二次大戦で一番最初に負けたじゃないか」と冗談で言ったらえらい怒られた、とか話していましたが、そのイタリア人の気持ちもよくわかるであります。あそこらへんの中世以来続くごたごたは根深いどころのレベルじゃありませんからねえ……。

    ナチ将校

    こんばんは。
    あの将校の役名がベルクマンとか?
    イングリッド・バーグマンと同じじゃないですかー!と、それで彼女はなおさら感銘したのか! なんて妄想もしました(笑)。
    イタリアはコロリと寝返っていたのか!?と勉強にもなりましたっ。

    Re: 白くじらさん

    あの神父さんはカッコよかったなあ。アルド・ファブリッツィさんの代表作になりましたね。

    あの人多才な人で、映画監督や脚本、それに本業のコメディアンもやっていたみたいです。ビートたけしみたいな人なのかな。

    イタリアでは「Totò, Fabrizi e i giovani d'oggi」のイメージも強いそうですが、見たことやDVDの存在はおろか、日本で上映されたのかどうかすら知りません……。

    Re: 白くじらさん

    時代的に、あの「無防備都市」がその後山ほど作られるレジスタンスものの映画のサディスティックで無慈悲な、鞭を持って「吐け~!!」とかいっている悪魔みたいなナチス将校の原型になったのかもしれません。

    怖かったですからねえ……。

    • #16935 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2016.02/02 22:30 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 鉦鼓亭さん

    あそこでマンフレディを売る女優さんはマリア・ミーキさんといって、同じくこの映画がデビュー作だそうですが、いかんせんガレッティさんの「顔」のインパクトには勝てなかった感があります。

    マリア・ミーキさんは「戦火のかなた」でもヒロインのひとりとしていい演技をしているのですが、いまいちリアリズム映画には不向きな女優さんじゃないかな。そんなことを見ていて思ったであります。

    それにしてもアンナ・マニャーニが撃たれるシーンは何度見ても壮絶……。

    こんにちは。

    本当にドイツ将校とあの女性の美しさと冷たさは怖かったですね。少し作られた演出のような気もしましたが、確かに当時のイタリアの人がゲシュタポを感じる感覚が映像化されたのかもしれませんね。日本人の言葉でいうと「まさに鬼のような形相して…」かも。

    神父さんは、玉蹴りや彫像などのシーンでコミカルなところもあってほっとできる人だっただけに、最後のシーンはやっぱりショック。
    肩を落とす子供たちに、彼の言葉を贈りたい。

    トラックバックさせて頂きました。

    NoTitle

     ポール・ブリッツさん、こんにちは
     昨日はコメントありがとうございました

    アンナ・マニャーニの演じる再婚を控えた寡婦>
    彼女が射殺されるシーンの生々しさ、まさにリアリズム的描写だったと思います。

    >ジョヴァンナ・ガレッティ
    ポールさんが仰るとおり「毒の花」という感じでしたね。
    かなりインパクトがありました、彼女に較べれば売った女優など子供に等しい。
    ああいう「毒の花」って何処かで見たかなと思い出してみると、「愛の嵐」で落剥した貴族夫人(お婆さん)を演じたイザ・ミランダも、あんな毒々しい感じでしたね、彼女の役はもっと小さく重要じゃない役でしたが。

    子役も含め下手、浮いてる役者が居ないのはノンプロを大勢使っているのに凄い、監督の力量と当時の人たちの脂質が窺い知れます。

    機会を提供してくれて、ありがとうございました。

    Re: miss.keyさん

    あまり知られていないけどイタリアは建前上は戦勝国。1944年にクーデターを成功させ、革命政府のバドリオ政権が1944年10月にドイツと日本に対し宣戦布告を行っているから。その結果としてドイツはイタリアを占領し、無防備都市宣言したローマで戦うパルチザンが主役なのがこの映画。そのくらいしたたかじゃないととても国際外交なんてやってられないです。日本は逆立ちしても政治的にイタリア人に勝てません。ヒトラーがムッソリーニ奪還なんていう余計なことをしなければ、ムッソリーニは戦後も長く刑務所で生きて回想録でも書いていたかも。

    それと同じことをやろうとして失敗したのがドイツのアプヴェールのカナリス提督であり、有名なヒトラー暗殺未遂事件。もしカナリス一派がクーデターに成功していたら、ドイツ革命政府は即座に西側連合軍に降伏して日本に対して宣戦布告し、建前上は戦勝国になっていた可能性が高い。日本もこのくらいしたたかじゃないと国際外交なんかやってられないですほんと。

    ポツダム宣言が出されて原爆二発も落とされてソ連まで参戦してきても、若い将校が「降伏せずに最後のひとりまで戦う!」などというクーデターを起こそうとしていた日本なんて国は、政治的にどうこう、というよりも、バカ、というよりも、国全体が揃って基地外になっていたとしか思えません。東京裁判があれほどヌルい結果に終わったのも、基地外だから温情が加えられたのだと思ってます。

    ドイツは何時も悪者

     ああ、かわいそう。日本も同じ立場ですから気持ちは良く分かる。が、解らないのがイタリアだ。何でイタリアだけは敗戦の暗さが無いのだろう。ま、見えてないだけかも知らんけど。
     ところで「好敵手」と言うイタリア映画が有ります。前に書いたかも知らんけど一押し。

    Re: ROUGEさん

    いわゆる「元気が出る」タイプの映画ではないので、見るときはお気をつけて。

    こういう映画の「面白さ」がわかってきたってことは、歳をとったんだな、と自分でもしみじみと……。

    Re: 宵乃さん

    ほんと面白い映画なんですよ。

    アルド・ファブリッツィがユーモアを交えて演じるドン・ピエトロ神父を見るだけでもこの映画を見る価値があると思います。

    レジスタンスものの常として、結末は相変わらずやるせないですが(^^;)

    NoTitle

    コメントありがとう~
    映画の話が出て来て
    そういえば最近、映画見てないなぁと思いました。
    見てもアニメばかりよ。
    イタリア映画、あまり馴染み無いけど見てみようかな♪

    NoTitle

    おはようございます。
    本当にお好きな作品なんですね。コミカルな部分もあるようで、観やすそうです。
    レジスタンス映画といえば、アンジェイ・ワイダ監督の三部作を思い出すけど、そちらはコミカルな印象ないからなぁ…疲れました(汗)
    最近の作品と比べて、この時代は骨太の役者さんが多い気がします。悪魔のような顔…見てみたいかも。
    三作目もご参加ありがとうございました♪

    Re: LandMさん

    万一国家が存亡の危機に陥ったときに備えて、「アリバイ作り」のためでもいいから国内に反体制活動家を飼っておくくらいの余裕は、国として持っていたほうがいいと思いました。

    日本なんてそういったものをことごとく根絶やしにしてしまったから、アリバイが作れずに右往左往。あのドイツだってヒトラー暗殺未遂を起こしてるのに、日本じゃかえって終戦の録音盤がどうしたこうしたの話だからなあ。救われんというか幼い国であります。

    NoTitle

    ふーむ、レジスタンスものの映画なのですね。
    昔の時代を反映してますよね。
    政治を変えるために、色々なレジスタンスが言論・暴力で訴えた時代ですからね。。。
    そういう映画を・・・私も見ないとなあ。。。
    と思いながら、見てない自分がいる。
    ポールさんのを見て勉強してます。
    _(._.)_
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    無防備都市

    希望を捨ててはいけない。何があっても。 1945年(ROMA,CITTA,APERTA/OPEN CITY)製作国:イタリア監督:ロベルト・ロッセリーニ原作:セルジオ・アミディ、アルベルト・コンシリオ製作:ペッピーノ・アマート製作総指揮:脚本:フェデリコ・フェリーニ、セルジオ・アミディ…
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