旅路より(掌編シリーズ)
旅路より・トミ
風呂に入りたくなったので、列車を降りて一夜の宿を求めることにした。
富、と書かれた駅を出ると、夕暮れ時だったせいか、オレンジ色の光が、道を紅く染めていた。
わたしはごくりと息をのんだ。
宿を探そう、それも風呂がある宿だ、なんなら銭湯でもいい。
影になっていて読みにくい看板を探していくと、「旅館 とみのや」と書かれたものに行きついた。
引き戸を開けようと手をかけた。ひやりとした。ためらいつつも、結局、引き戸を引いた。
「あのう、すいません」
どうやら留守の時に来てしまったらしい。ぼんやりとした灯り。かすかにぶーんと音を立てている自動販売機。
わたしはしばしそれらを凝視していた。
五秒が限界だった。
わたしは悲鳴を上げて駅へ向かって走り出した。切符を見せて改札をくぐり、ちょうど止まっていた列車に飛び乗った。
背後でドアが閉まり、わたしは空いていたシートに座って息をついた。
額に手をやって、びっしょり汗をかいているのにようやく気がついた。
列車は走り出した。
わたしがこの駅で降りることは二度とあるまい。
理由などわからない。だが、「怖い」とは、結局はそういうことではあるまいか……。
富、と書かれた駅を出ると、夕暮れ時だったせいか、オレンジ色の光が、道を紅く染めていた。
わたしはごくりと息をのんだ。
宿を探そう、それも風呂がある宿だ、なんなら銭湯でもいい。
影になっていて読みにくい看板を探していくと、「旅館 とみのや」と書かれたものに行きついた。
引き戸を開けようと手をかけた。ひやりとした。ためらいつつも、結局、引き戸を引いた。
「あのう、すいません」
どうやら留守の時に来てしまったらしい。ぼんやりとした灯り。かすかにぶーんと音を立てている自動販売機。
わたしはしばしそれらを凝視していた。
五秒が限界だった。
わたしは悲鳴を上げて駅へ向かって走り出した。切符を見せて改札をくぐり、ちょうど止まっていた列車に飛び乗った。
背後でドアが閉まり、わたしは空いていたシートに座って息をついた。
額に手をやって、びっしょり汗をかいているのにようやく気がついた。
列車は走り出した。
わたしがこの駅で降りることは二度とあるまい。
理由などわからない。だが、「怖い」とは、結局はそういうことではあるまいか……。
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~ Comment ~
Re: miss.keyさん
口を開くだけで気味悪がられます。口を開かないともっと気味悪がられますorz
笑顔なのに
にこにこしてても怖い人います。にこにこしてるほど怖い人もいます。黙っているだけでいたたまれなくなる人もいます。怖いとは理屈ではないのであります。あ、わたしは黙ってると怒っている様に見えるらしいです。にこにこしてると気味悪がられますorz
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Re: 鍵コメKさん
まあ形だけでも元気にと思って(^_^)