ささげもの

    limeさんのイラストからのショートショート!

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    ゼロ

     ぼくはいらいらとそこらを歩き回った。

     狭い部屋だ。そして大きなガラス窓が一枚。その向こうからは、どうひいき目に見ても人間とは思えない生物が、面白そうにこちらを覗いているのだった。

     向き直って、ガラスを叩いた。思い切り叩いたが、ガラスにはひびひとつ入らなかった。

    「ぼくがお前らに何をした! 早くここから出せ! 動物園の見せ物じゃないぞこんちくしょう!」

     狐と人のあいのこのようなその生物は、ぼくの反応が面白いらしかった。なにかいっているようだったが、こちらには何も聞こえない。こちらの声も、向こうに届いているかどうか疑わしい。

     ディッシュのSF小説かよ。ぼくは嘆息した。アメリカのSF作家トマス・M・ディッシュに、「リスの檻」という短編小説がある。細かいことはさっぴくが、ぼくは自分がその小説の主人公である、不条理な独房に閉じ込められた囚人になった思いだった。違いはひとつ、あっちのほうがこうして露骨に覗かれていないだけ、まだいくらかマシだ、ということである。

     待てよ。

     ぼくはこの生物に覗かれているのか。覗いている何者かが、他にもいるのではないか。そいつはぼくがこうしてここに閉じ込められて、奇妙な生物と向き合っているのを、どこからか、冷静な目で見つめているのではないのか。

     冷静にではないかもしれない。もしかしたら、ぼくがここにこうしているのを、『愉しみながら』見ているのかもしれない。

     それを考えると、ぼくはいたたまれなくなってきた。人間の持っている科学でも、パッと見てわからないように監視カメラを取り付けることくらいはできる。そしてぼくは見られていることに抵抗できない……。

     いや。待て待て。

     ぼくを覗いている誰かがいたとすると、もしかすると、『そいつも誰かから覗かれている』のではないか? 無限に果てしなく続く、見られるものと見るものとの、入れ子構造がそこにあるのではないか?

     ぼくは窓の外の生物から視線をそらした。

     あの生物も、ぼくとは反対方向にいる誰かから覗かれているのかもしれない。そちらも無限の入れ子構造があるとしたら、ぼくとこのなんだかわからない生物がいるこの地点が、数直線における、プラスとマイナスが逆転する特異点、「0」なのではないだろうか?

     とすると……特異点としてのぼくは、なにかこの宇宙において重要な役割を果たしているのではないだろうか?

     ぼくはもう一度、勇気を奮い起こして窓の外の生物と視線を合わせた。

     生物は笑ったようだった。バカにされたのかどうかはわからない。


    元リンク http://yoyolime.blog83.fc2.com/blog-entry-981.html
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    ~ Comment ~

    Re: あかねさん

    limeさんの絵から生気を感じたので、一瞬額の中の絵には見えなかったという……。

    SFも難しいであります。

    あかねさんの作品も読みますね~。

    絵ではないのですね

    ああ、そっか、これはまた盲点でした。
    先に読ませてもらっていたら影響を受けそうで、私も絵じゃないというふうに書きたくなっていたでしょうね。
    相当なインパクトでした。

    精神的SFって感じですよね。
    ほんとにみなさん、いろんな発想をされますよね。
    とてもいい企画で、勉強にもなりました。

    Re: miss.keyさん

    どうやら人間動物園ネタは昔のアメリカのSF作家ポール・W・フェアマンの短編「Brothers Beyond the Void」にまでさかのぼるみたいですね。

    さすがに読んだことはありませんが(^^;)

    檻の中と外

     さて、どちらが観察者なのでしょう。檻の中の猛獣を見る。見られているのは猛獣だというのは外にいる者の勝手な思い込みだろう。サファリパークでバスに乗る。人間は猛獣の自然の姿を眺めている積りでも、猛獣たちは見世物のゴンドラが走って来たと思っているかも知らん。いや、何時あの餌箱を開けてくれるのかとわくわくして待っているのかも知らん。

    Re: 山西 サキさん

    わたしはこの描かれている絵の余白が、ガラス越しの空気感に見えて、それ以来窓にしか見えなくなってきたという。

    だったらこの青年は囚人になってもらおう、と反射的に。

    これでうまくオチとかつけられると最高なんですが、なかなか(^^;)

    修行します。

    Re: マウントエレファントさん

    limeさんのイラストには魅力がありますからね。

    そんな一枚のイラストのもたらすイメージに自分の小説は太刀打ちできるか、と考えたらちと茫然と(^^;)

    がんばります。

    Re: ROUGEさん

    わたしは絵が描けないもんで、もっぱらお題に好き勝手なことを書いてます(^^;)

    こういう話をもっと書けるといいんですが、どうもアイデアが(^^;)

    がんばります~。

    Re: limeさん

    ガラス窓と見るのは絶対誰かやってくる、と思っていましたが、誰もやってなかったのでしめしめと(笑)。

    われわれを観察している誰かがいる、という発想はちょっと病的かもしれませんが(それをものすごいアイデアの短編にしたのがハミルトン「フェッセンデンの宇宙」です)、観察していない「われわれ」は特異点じゃないか、と逆に持ち上げてみました。

    しかしそれにしても我ながら変な妄想小説です(^^;)

    NoTitle

    ポールさんはこっちの方向に持っていきましたか。
    このイラストは妖狐が絵だ、という時点で束縛を感じていましたが、窓と考えると別の広がりが出てきますね。盲点でした。
    でもサキには窓には見えなかったなぁ。
    グルグル感がとても面白かったです。

    NoTitle

    そんな感覚にとわられるくらい素敵な絵ですね。
    センスあります。
    それをうまく文章化する膂力も流石です。

    NoTitle

    素敵な絵ねぇ~
    イラストから創作意欲がわくでしょ。
    これからもこういう作品希望♪

    よかった~

    ディッシュのSF小説は読んでいないけど、この世界観が分かりました(ほっ)
    ちょっと筒井康隆風な感覚もあって^^
    この青年の、ぐるぐるぶりが伝わります。

    この絵をガラス窓と見たのも、新しい発想の始点ですよね。
    閉じ込められてるのはこの青年かあ。
    閉じ込められて精神を病んで来ると、ただひたすら不毛な想像の世界に取り込まれてしまうから危険です。

    本当は美術館のただの絵で、すべてこの狐が見せている一瞬の妄想……だったりしても、面白いですよね^^ 『特異点?ケッ』とか思ってたりしてw(ぜったいそんな絵、いらない)

    いろんな妄想を抱かせてくれる楽しい(危険な)SS,ありがとうございました。
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