東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ24位 ブラウン神父の童心 G・K・チェスタトン

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     いまさらいうまでもない名作。この作品がベスト10に入っていないというのが納得いかない。短編集だから不利になったのだろうか、と思ってさかのぼってみたら、たしかに10位に「シャーロック・ホームズの冒険」が入っていただけだった。ホームズ先生ならばしかたもあるまい。

     最初に読んだブラウン神父譚は、この「童心」には入っていない「ムーン・クレサントの奇蹟」の児童向けリライトだった。学研だったかな。まことに幸運だったというしかない。ハッタリかました密室殺人ものとしては最高の作品だったからである。のちに「このミス」で「バカミス」として紹介されていたときには怒ると同時に、「それもそうだな」と納得してしまった。バカミスが大好きなのはこの衝撃ゆえだろう。

     その次に読んだブラウン神父譚は、あかね書房の児童向けリライトだった。その本では「ブラウン神父の秘密」から4編が選んであった。今考えると渋すぎるチョイスだ。特に「泥棒天国」はなぜ小学生にあれを読ませようと編集部が考えたのかさっぱり理解できない。「クレイ大佐のサラダ」では、イギリス人の底意地の悪いユーモアを知った。

     その次に読んだ児童向けリライトによって、初めて「ブラウン神父の童心」の珠玉の傑作に触れた。「青い十字架」! 「奇妙な足音」! 「飛ぶ星」! くだらないギャグにげらげら笑っていると、思わぬところからパンチが飛んできて仰天することになる。ギャグと逆説と変なアイデアをまじめに実行する精神。そして非常にファンタジックで、ときにものすごく怖いのだ。

     ブラウン神父譚でもっとも「怖い」作品は、わたしは「ブラウン神父の秘密」に収録されている「マーン城の喪主」だろうと思う。城の中から世捨て人である城主が出てくる瞬間の恐怖と、結末で神父が語るひとことの強烈な言葉。わたしが死刑制度というものに漠然と抱いていた嫌悪感を、ひとことでビシッと明確にしてくれたすさまじい短編だった。

     とにかく、「童心」だけではなく、どの短編集のどのページを開いても、ひとことはどきっとするような名言が載っているといって過言ではないシリーズである。未読のかたはだまされたと思って「童心」だけでも手に取ってほしい。怪盗フランボウが「大チロル乳業社」を経営した見事なまでのやり口に腹を抱えて笑えれば、チェスタトンの、あまりにも奇妙であるがゆえにその裏にはあまりにも筋の通った論理が貫かれている、逆説に満ち満ちた宇宙を旅するに不都合はない。「おとぎの国を訪れるのは例外なく悪いことだなんていってません。例外なく危険だといったまでです」(サラディン公の罪)
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ブラウン神父のシリーズは、どれをどこから読んでも面白いですしね。「あからさまに残念」なトリックやロジックの作品もありますが、絶妙な比喩や会話で読ませてしまう。

    「巨人級の才能の持ち主」ってのもうなずけます。

    NoTitle

    ブラウン神父……懐かしい。
    ずっと読み返していなかったですが、読みたくなりました。
    図書館に行けばあるかなあ。
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