東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ26位 三つの棺 J・ディクスン・カー
カーの作品の中でも、一読してわかりにくいトリックとシチュエーションが出てくる、つまらん作品で、「密室講義」によりマニアにウケているだけだろ? と、中学生のころ図書室に入れさせた早川文庫の旧訳を読んだときは思っていた。間違っていた。訳が悪かったのだ。三十年過ぎて新訳版を読んだら、そのあまりの面白さに夢中で読みふけってしまった。もし、この文春の「東西ミステリーベスト100」が編まれたころに新訳版が出ていたとしたら、「火刑法廷」と順位は逆転していたのではないかと思われる。とにかく面白い。旧訳版しか読んだことがないのであれば、本屋にダッシュして早川文庫を買ってくることをおすすめする。今ならまだ手に入るはずだ。10年後には足元を見た古本屋がバカみたいな高値をふっかけてくるぞきっと。
謎解きミステリの常として、冒頭から読者をダマしにかかってくるわけだが、騙しかたもきちんと必然性に基づいているのがなんともすばらしい。細かいことは省くが、ひとつひとつが伏線みたいなもので、真剣に謎を解こうと思ったらページを繰るごとに眼光紙背に徹すみたいな感じで読み進める必要がある。実際、すべての手がかりはフェアに提出されているのだ。無頼派作家の代表である坂口安吾はそうしたミステリのゲーム的な楽しみ方に固執していた人であったが、当時手に入った日本語テキストのあまりにもひどい悪訳のせいでカーとこの作品をボロクソに罵っている。もしこのときこの新訳版が出ていたとすれば……ってそれはムチャでしたな。
まあ坂口先生みたいな頭脳を酷使する読み方は普通の人間にはつらいのでおすすめしない。われわれ凡俗の読者はただ単にカー先生のしかけたマジックを楽しめばいい。それだけでも十分楽しい。なぜならいつものとおり、カー先生は本作品でも過剰なまでにサービス精神が旺盛なのだ。酒場に突如入ってきた「奇術師 ピエール・フレイ」と名乗る謎の男、「身を守るために」絵を買ってくるという不可思議な行動に出たオカルトの専門家グリモー教授、東欧での因縁話、そして起こる不可能犯罪……。テンポがよくてどんどん読めてしまう。
有名な「密室講義」は……カー先生のサービスが大爆発。あれはさすがにちょっとやり過ぎの感があるなあ、と思える。エッセイでやることだろ、あれ。大半の謎解きミステリファンだったらにやにやして読むのだろうけれど、「不連続殺人事件」を書いた探偵小説ファンとしての坂口安吾先生はたしかに激怒するなあ。よく考えたら、坂口先生が読んだのが「三つの棺」だったからまだあれで済んだのであって、先生の逆鱗をぴたりぴたりと狙ったように針で突いてくる「火刑法廷」だったらどれだけ罵倒がひどかっただろうか、などと想像してミステリファンはにやにやするのである。病気だな。
謎解きミステリの常として、冒頭から読者をダマしにかかってくるわけだが、騙しかたもきちんと必然性に基づいているのがなんともすばらしい。細かいことは省くが、ひとつひとつが伏線みたいなもので、真剣に謎を解こうと思ったらページを繰るごとに眼光紙背に徹すみたいな感じで読み進める必要がある。実際、すべての手がかりはフェアに提出されているのだ。無頼派作家の代表である坂口安吾はそうしたミステリのゲーム的な楽しみ方に固執していた人であったが、当時手に入った日本語テキストのあまりにもひどい悪訳のせいでカーとこの作品をボロクソに罵っている。もしこのときこの新訳版が出ていたとすれば……ってそれはムチャでしたな。
まあ坂口先生みたいな頭脳を酷使する読み方は普通の人間にはつらいのでおすすめしない。われわれ凡俗の読者はただ単にカー先生のしかけたマジックを楽しめばいい。それだけでも十分楽しい。なぜならいつものとおり、カー先生は本作品でも過剰なまでにサービス精神が旺盛なのだ。酒場に突如入ってきた「奇術師 ピエール・フレイ」と名乗る謎の男、「身を守るために」絵を買ってくるという不可思議な行動に出たオカルトの専門家グリモー教授、東欧での因縁話、そして起こる不可能犯罪……。テンポがよくてどんどん読めてしまう。
有名な「密室講義」は……カー先生のサービスが大爆発。あれはさすがにちょっとやり過ぎの感があるなあ、と思える。エッセイでやることだろ、あれ。大半の謎解きミステリファンだったらにやにやして読むのだろうけれど、「不連続殺人事件」を書いた探偵小説ファンとしての坂口安吾先生はたしかに激怒するなあ。よく考えたら、坂口先生が読んだのが「三つの棺」だったからまだあれで済んだのであって、先生の逆鱗をぴたりぴたりと狙ったように針で突いてくる「火刑法廷」だったらどれだけ罵倒がひどかっただろうか、などと想像してミステリファンはにやにやするのである。病気だな。
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NoTitle
この間本屋でハヤカワ新訳版みかけて欲しかったのですが
高くて手がでませんでした。
文庫は300円前後のイメージが抜けず(30年前だ)なのでなかなか買えません。
高くて手がでませんでした。
文庫は300円前後のイメージが抜けず(30年前だ)なのでなかなか買えません。
- #17132 面白半分
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- 2016.04/03 05:21
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Re: 面白半分さん