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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 2-19-1

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    19

    「遥さん!」
     わたしは鍵を開いて扉を開けた。コート姿の遥美奈が、疲れ果てたような足取りで入ってきた。開けっ放しでは物騒なので、再びドアに鍵をかける。誤解されたかとも思ったが、気がついていないようなのでそのまま診察室へとうながす。
     椅子を勧める。なにか口にするものを探そうとして、飲み物がクリスタルガイザーしかないことに気がついた。
     向かい合って座り、気にかかっていたことを訊ねる。
    「どうしてここに」
     遥美奈は弱々しい笑みを浮かべた。
    「ご相談できるかたが誰もいないので、お邪魔かとは思いましたが、足が自然にこちらに向いてしまったんです、すみません、先生」
    「マスコミにつかまりませんでしたか」
    「今はいなくなったようです」
     そうだろうか。写真週刊誌なんかはいそうな気がする。しかし、それよりも。
    「どうしてマンションにじっとしていらっしゃらなかったんです」
    「え……やはり、お邪魔でしたか」
    「そういうことではありません。いいですか、野村香さんがこの近くにいるかもしれないのです」
    「香さんが!」
     遥美奈の顔がパッと明るくなった。
    「会わせてください、先生」
    「…………」
     わたしの顔色を見たのか、遥美奈の声のトーンが落ちた。
    「やっぱり、先生も……」
    「ばかな!」
     とはいったものの、顔に出たのだろうか、遥美奈は真っ青な顔で叫んだ。
    「香さんがやったと思っているのですか!」
     否定できなかった。
     嘘でもいいから否定すべきだった。
     代わりに、わたしは。
    「遥さん……落ち着いて聞いてください。今の香さんは、あなたの知る香さんではありません」
    「聞きたくありません! 香さんは、香さんです!」
    「あなたの気持ちはわかります。しかし、ストリゴイに取り憑かれた香さんは、二十も若返っているらしいのです!」
    「嘘です!」
    「わたしは夢で見たんだ!」
    「それは先生が間違っているんです!」
    「冷静になってください。この近くで香さんらしい人を見たらしいかたがいるのです。あなたがここにいらっしゃったことで、遥さんの身に危険が……」
     そこまでいいかけたとき、戸口のほうで、バン、と、物がぶつかるような強い音がした。
    「なんだ?」
     わたしは立ち上がり、遥美奈をかばうようにして待合室へ続く扉を細めに開けた。
     のぞく。
     先ほど鍵をかけたばかりの、玄関のドアがみしみしいっていた。
    「先生、なにが?」
    「下がっていてください」
     椅子を逆さに持って身構えた。なにが来るのかは知らないが、こちらに対する害心がないとはとても考えられない。普通好意をもって訪れるやつは、扉を破ろうなどとは思わないものだからだ。
    「遥さん、携帯はお持ちですね? それで大至急、警察に連絡をお願いします」
    「は、はい!」
     遥美奈がハンドバッグから携帯を引っ張り出したとき、扉が吹き飛ぶ、破裂するような音がした。
     診察室と待合室とを分ける、薄い扉のすりガラスごしに人間の影が浮かぶ。男とも女ともわからない。
     あいにくとこの扉には鍵がついていなかった。
     わたしの目の前で、扉を押し破って影が入ってきた!
    「小野瀬君!」
     影の正体は、確かに小野瀬孝史だった。玄関を破るときに傷を負ったのか、血まみれの姿をしている。その目はうつろだった。何者かに思考をコントロールされているのだろうか。
     考えている暇はなかった。
     無言のまま、小野瀬孝史がわたしの身体に手を伸ばしてきた。
     わたしは叫びながら椅子を振り下ろした!
     だが、小野瀬孝史は素早かった。さっと伸ばされた手に、椅子はものの見事に受け止められた。そのままぐっと力をこめられる。高校生とは思えない、ものすごい力だ。わたしの手からあっという間に椅子がもぎ取られ、部屋の隅に放り出された。金属パイプを組み合わせた安物ではあったが、椅子のフレームはぐにゃりと曲がっていた。
     脳裏に戸乱島での最後の日、変わり果てた遥流子のイメージが浮かんだ。
     わたしはわめきながらパンチを繰り出した。ナイトメア・ハンターとして、なにか格闘技を学んでおくべきだったと、心の底から後悔しながら。
     ガキのどつきあいに毛が生えた程度のこんな攻撃が、通用するはずもなかった。わたしのこぶしは空を切る。それだけではない。バランスを崩してたたらを踏んだところで、小野瀬孝史に内ふところに飛び込まれたのである。
     下腹部にきつい一発を浴びた。いわゆるキドニー、腎臓というやつだ。
     痛いどころの話ではなかった。わたしは、身体をエビのように折り曲げ、床をのた打ち回った。
    「先生!」
     遥美奈が大声を出した。大丈夫だ、といって立ち上がろうとしたが、声も肉体もいうことを聞いてくれそうになかった。
     視界の隅で、遥美奈が部屋の隅に追い詰められているのが見えた。くそっ、なんとかしなければ……精神力のありったけをかき集めて、立ち上がろうとする。
     立てない。精神力などで、肉体の弱さをカバーすることなど、並みの人間には不可能なのか。
     スピノザが正しければ、理性の力だけで肉体をコントロールすることも可能なはずだ。解釈は間違っているかもしれないが、そう信じた。もう一度やってみる。
     立て……!
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    そう簡単にクローズはしない(^_^)

    小野瀬くんには、まだまだ働いてもらわなくちゃならんので(←鬼かわたし(^_^;))

    今、三年後に備えてプロットを組んでいる最中ですが、そのとき日本はのんきに小説を発表できる世の中か、政府自民党の言動を見てるととても安心はできません……。

    NoTitle

    小野瀬くん、彼のケースは無事クローズしたと思った途端に……。
    これですよ(^_^;)

    緊張→弛緩→更なる緊張!
    この繰り返し……読むのがやめられないじゃないですか。

    いや苦情じゃないです。まんまと思うツボにはまってるだけです(笑)

    >せあらさん

    ピンチですね~。今回の事件、腕は折られるわ腹は殴られるわと桐野くんもたいへんですな。(^^)
    次回をお楽しみに。

    桐野せんせピンチですねv
    ↑緊迫感なくてスミマセンが、展開がますます楽しみになってきました^^
    次話を楽しみにしてます♪
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