東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ27位 Xの悲劇 エラリー・クイーン

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     これもまた中学生の時に図書室に入ってきた。角川版であったが、読めるならそれに越したことがない、というわけで借りて読んだ。

     取りつかれたようにページをめくり、ひと晩で読んだ。面白かった。いまだにバーナビー・ロス名義のクイーン作品では最高傑作だと思っている。とにかくスピーディーに事態が変化し、犯人の罠がこれでもかというくらいに炸裂する。謎解きシーンにおいては、そのひとつひとつが、「自分はどこに目をつけていたのか」と思わされるほど明白な論拠をもって名探偵ドルリー・レーンに指摘されていくのだ。もう目を見開きっぱなしである。

     日本では「Y」のほうが人気が高い。あのあっと驚く結末のせいだろう。だが、「X」も結末で同じくらい驚かせてくれるうえに、「Y」に比べて後味が断然いいのだ。そのぶん響かない、という人もいるだろうからまあ趣味の問題であるが。

     しかしパロディ小説にも書いたが、ドルリー・レーン先生、第一幕で自分の推理を警察に率直に話していたら、ひとりくらいは命が助かったのではないかと思うのだけどねえ。警察組織の組織としての捜査力をまったく信じてない謎解きミステリの名探偵だから仕方ないのだけれど。

     ドルリー・レーン先生の特技に、耳が聞こえないというハンディを乗り越えるための「読唇術」という能力があるが、どうしてレーン先生は手話を使わなかったのか。実はそこには、恐ろしいほど根深い偏見の歴史がある。当時の欧米では、手話を使うのは「社会にとってふさわしくないから厳禁」されており、聴覚障害者には強制的に読唇術が学ばせられた。真似してやってみたらわかると思うが、読唇術って、相手の唇の動きを神経を極度に集中させて観察する必要があり、ほんのちょっとでも離れると、相手がなにをいっているのかさっぱりわけがわからなくなるのだ。不都合極まりないので、聴覚障害者たちは手話を認めさせるため社会運動を繰り広げた。その結果として今のアメリカでは四番目に使用者の多い公共語として「手話」が使われているまでになった。手話の文法は英語とは違い、より障害者に使いやすくなっている。話を戻すと、当時のアメリカではドルリー・レーンのような社会的に身分のある人が手話なんかを使うのは「はしたない」「すべきでない」行為にあたるのだ。ウィキペディアにも手話の歴史が載っているが、手話の再評価のきっかけになった論文が出版されたのが1960年代、というから、もう、「なんといったらいいのか」としかいいようがない。

     まあ、それでも、かっこいいよ、ドルリー・レーン。全部「Z」が悪いんや。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    わたしが読んだバージョンでは、「X」をシンボル化した妙な鳥のイラストが描いてあったと記憶してます。

    創元の方が趣味がいい表紙だな、と思いました(^^;)

    手話のほうはもう、ウィキペディアの歴史の記事を読んでるとひたすらブルーになってきます。どうして調べようと思ったのかは忘れましたが……。

    NoTitle

    私はこのシリーズは全て角川文庫で読みました。
    暗い配色のカバーだった気がします。

    手話にこのような歴史があったとは知りませんでした。
    勉強になりました。。

    NoTitle

    私はこのシリーズは全て角川文庫で読みました。
    結構暗くて汚い配色のカバーだった気がします。

    手話にこのような歴史があったとは知りませんでした。
    勉強になりました。。

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