東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ29位 血の収穫 ダシール・ハメット

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     近頃とんと見ないし、図書館にもないし、これは取り寄せてもらわなければならんかな、と思ったら、閉架にあったといわれて、かなり古い訳ではあるが喜んで読むことにした。なにせ主人公の一人称が「わたし」である。コンティネンタル・オプでなくとも、ハメットの一人称は「おれ」じゃなきゃダメだろ。まあ読めただけマシか。これも読んだのは高校の時以来になるなあ。

     黒澤明「用心棒」を始めとする数々の映画やミステリでシチュエーションが使われているから、だいたいの筋は覚えていたが、25年の時を経ていざ読んでみると、さすがハードボイルドというか、文章自体は淡泊である。淡泊なままあっさり目に進むのかと思ったら、淡泊なままいきなり人が死ぬ。人が死んだと思ったらあれよあれよという間に大抗争に発展し、唖然としているうちに死体の山ができて、唖然としているうちに終わる。自分が今読んでいたのはなんだったんだろう、と思うほどスピーディだ。今読んでこうだから、発表時の1929年当時としてはショッキング以外の何物でもなかったんだろうなあ。

     主人公のコンティネンタル・オプ(名前がこうなのは、「血の収穫」以外にもいくつもの短編に登場しているのだが、名前が不明で、「コンティネンタル探偵社の探偵(オプ)」ということしかわからないからである)は、黒澤明「用心棒」的なスーパーヒーローではない。一見したところ腹の出っ張った中年男で、戦士というよりは、目的のためなら手段を選ばぬ、恐るべき謀略の使い手、策士と呼ぶべき人物だ。この男が動き回ることにより、疑心暗鬼が街の顔役たちの間に広がっていき、そして抗争へ。むろん本人は、私立探偵として法の下に働かないといけないから、自分では手を汚さない。「周りで勝手に殺し合っているだけ」といつでも抗弁できるのだ。冷静に考えると、ずいぶんとイヤな奴である。

     それにしても奇妙な小説だった。痛快で過激なお祭り騒ぎのような小説でありながら、その表層をひとつはがすと、そこにあるのはただ虚無だけである。舞台となったこの町でこれだけ人が死んでどうなったかであるが、また何事もなかったかのように別のギャング団が入ってくるに違いない。そのアメリカの抱えている、これからも抱え続けるであろう虚無を、この小説は描いているのではないか、そんな風にも感じられた。もしこの読みが正しいのであれば、ハメットの先見性はやはり卓越したものがある。

     でも日本人としては、もうちょっと「人情」というものがあってもいいのではないか、あるいは感動的なラストシーンとか……と思ってしまうのも事実。読んでいるうちが面白ければそれでいい、というのもまた事実だが。このシチュエーションだったら船戸与一先生の「山猫の夏」のほうが日本人にはしっくりくるのではないかと思うなあ。
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