吸血鬼を吊るせ 2-20

２０

　一週間が過ぎた。テレビは戸乱島の四人死亡事件、練馬の五人殺害事件、そして八王子の診療所襲撃事件のつながりを求める番組でいっぱいだった。被害者であるにもかかわらず、わたしや遥美奈の映像が次から次へと流れ、週刊誌は書きたい放題だった。匿名掲示板など、見る気にもなれない。
　わたしはワンルームの前で終始うろうろしているだろう記者を思い、診療所の扉と天井の修理代を大野龍臣に頼まなければならないだろうことを思い、遥美奈と野村香のことを思い、どんどん深刻な気分になっていった。こんなことではこれからどうする、とも思ったが、現実の前にはどうしようもない。
　時計を見た。ちょうど正午。買い置きのラーメンはとうに尽きていた。この一週間、部屋からろくに出ないでラーメンばっかり食べていたせいである。腹を悪くしたのか、口内炎もできていた。
　パソコンの電源を入れ、メールボックスを開く。どうせまともなメールは来ていないだろう、と思われたが、やれることもないのだ。マスコミがこの調子では診療所を再開するのは当分の間無理であるだろうし。
　ずらずら並んだ、スパムと見も知らぬ人からのメールを見るだけで、うんざりだった。
　それでも待っているものが……来た。
　待ちに待っていた、探偵事務所からのメールが来たのだ。
　調査がある程度進展したので、事務所で報告をしたいという。
　わたしはパソコンから、遥美奈の携帯に（この間の事情聴取の後、遥美奈はその足で携帯ショップへ行き、今まで使っていたのとは別の携帯を買ったのだった。貧乏なわたしにはできない相談である）メールを打った。次に坂元開次のアドレスにメールを打つ。
　坂元開次に遥美奈を乗せてきてもらい、わたしとは森村探偵事務所で落ち合おうという寸法だ。海外から戻ってきたら、一ヶ月は遊んでいる坂元開次（やつの名誉のためにいっておくと、遊んだ後の十一ヶ月は過酷なアルバイトに精を出し、一年後には貯めた資金でまた海外に飛ぶのである）からはすぐに返事が来た。十分後には遥美奈からも届く。いずれも、ＯＫ、だった。
　さらにメールを打ち、二人と予定をつめてから、森村探偵事務所宛てに、これから行くとのメールを打った。
　これから、久しぶりに愛車に乗ることにしよう。最近ごぶさたなので、壊れていたり、発信機が取り付けられていたりしないことを祈った。