吸血鬼を吊るせ 2-21

２１

　森村探偵事務所は、八王子の隅にある、八王子にしては規模の大きな探偵事務所である。
　駐車場の空きスペースに、わたしは愛車のフォルクスワーゲン・ビートルを止めた。坂元開次の車はまだ来ていない。
　しばらく待った。煙草を吸わないたちなので、やれることといったら、行きがけに買ってきたカツサンドを食べ、クールミントガムを噛むことくらいしかない。
　サンドイッチを食べ終わり、クールミントガムの三枚目を口に入れたところで、坂元開次が遥美奈を連れてやってきた。十年一日のごときミラ。あいつはガタイが大きいくせに、なぜか軽自動車が大好きなのだ。戸乱島で４ＷＤを転がしていた遥美奈はきっとつまらなかっただろう。
　わたしは車から降りると、二人に向かって手を振った。ミラが止まり、窮屈そうに二人が出てくる。
「ここに来るのはひさしぶりだな」
「わたしだってそうだよ」
「先生、ここは……？」
「口は堅いから大丈夫です。というより、傍からはなにを探っているかわからないような依頼だから心配いりません」
「そうでしたね、先生」
「おれは外していたほうがいいか？」
「そうだな。遥さんはどう思います？」
「坂元さん、送っていただいてすみませんけれど」
「気にしてないですよ。ところで桐野、おれにもなにが起こりつつあるのか教えてくれよな。この一週間、新聞と週刊誌、それにネットの情報しか得てないのでイライラしてるんだ」
「話したいのはやまやまだが、すべては遥さんのお心次第だ」
「香さんが見つかったら、すべてをお話しいたします。どうかそれまでは」
「しかたねえ、いや、しかたないな。それもこれもカメラマンなんて仕事をしているせいか。仲良く行ってくれ。おれは独りカヤの外、だ」
　わたしは遥美奈をうながして探偵事務所の中に入った。