東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ33位 寒い国から帰ってきたスパイ ジョン・ル・カレ

     ←1979年(2) →1979年(3)
     小学生のころ、押入れで発掘。そのときは「映画のようなスーパースパイ」が出てくる作品だと思って読み始めたところ、猛烈な退屈感に襲われて挫折。

     高校生のころ、ミステリファンとしての教養をつけるために読む。ストーリーはわかったものの、読後猛烈な疲労感を覚える。

     そしてそれから二十五年。いい歳をした人間になってからこの本を読んでみると。

     これほど面白い小説もない。筋も結末もトリックも全部知っているのにそれでもすいすいと読めてしまうリーダビリティの高さ。完全な大人向けの小説であった。ガキがわかるような世界じゃないのである。

     読みどころはもちろん、主人公リーマスの東独潜入作戦を、ディテールを積み重ねてドイツ人みたいなリアリズムで地味に地味に語っていくところなのだが、むろんそれだけでは情報戦の恐るべき暗黒の世界を再現することはできない。それだけ闇は深いのである。この小説の最後で作戦の全貌が明らかになったとき、残酷なまでに非情なトリックに戦慄すると同時に、ほんとうにこれが作戦の全貌なのだろうか、もしかしたらさらに裏が……と思わせる第二の不気味な戦慄を感じるであろう。その間も、スパイたちは単なる消耗品のごとく使い捨てられていくのだ。

     とにかく第一ページ目から作者は読者を欺きにかかっており、その欺きかたは謎解きミステリのそれをもある意味凌駕している。読み終えてから最初の節を読み返すと、二重の意味で悲しくなってくる。

     そこに描かれているのは単なるスパイの姿ではない。このどうしようもない現代社会における、どうしようもないわれわれの、いや、どうしようもない国家の姿でもあるのだ。ル・カレの慧眼が見出したそんなわれわれの写し絵が正しいことは、この五十年間でいやというほど見せつけられてきた。

     確かに冷戦は終わった。今のベルリンに壁はない。だがそれでどうなったか。スパイたちの住む世界がよくなったとは思えない。そしてそれはわれわれの住む世界も同じなのである。

     最終ページで人間性を取り戻そうとするリーマスの決死の抵抗に涙。
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