東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ35位 ユダの窓 カーター・ディクスン

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     浪人中に古本屋で買った。トリックは知っていたが、読んで非常に面白かったことだけは覚えていた。

     あれから四半世紀、内容を忘れかけてきたので、この企画のためだけに本屋に並んでいたものを買って読んでみたが、やはりむやみやたらと面白かった。メイントリックの奇抜さだけがクローズアップされがちなこの作品だが、この小説がここまで面白いのは、話術と盛り上げ方が抜群にうまいからなのだと気づいた。名探偵の謎解きよりも、丁々発止の法廷サスペンスの部分がとにかく迫力満点なのである。

     ディクスン・カーがカーター・ディクスン名義で発表した作品ではおなじみの名探偵、ヘンリ・メリヴェール卿が、本職の弁護士として大活躍する。裁判は証拠の面でも動機の面でも被告人が圧倒的不利。傍聴人はみんな被告人に死刑判決が出るのを期待しているという絶望的な状況だ。被告人を信じているのは彼のうら若き婚約者だけ。そして彼らにも、どうしてヘンリ卿があそこまで自信満々なのかわからない。

     もちろん新事実が次々とわかり、アクロバティックな弁護が行われ、単純と見えた事件はどんどん混迷の様を……呈さないのがカーのすごいところである。あくまでもシチュエーションもトリックもシンプルなのだ。それでいてページをめくるのがもどかしくなるほど面白いのだ。クリスティの「検察側の証人」も法廷サスペンスを語る上では外せない意外な展開をみせる傑作だが、ワンアイデアでどこまで書けるかでは「ユダの窓」のほうが上であろう。

     そういえば同じカーの「皇帝のかぎ煙草入れ」もワンアイデアで書かれた法廷もの長編だったなあ。「ユダの窓」同様、普通は短編で使うようなトリックなんだが……と書いていて不意に気がついたが、「ユダの窓」のトリックも、「皇帝のかぎ煙草入れ」のトリックも、『短編では使いようがないトリック』ではないか! これらを短編で使ったとしても、「ふざけとるんかワレ」としか思えないだろうな。長編を手に汗握って読ませるストーリーテリングの自信があるから、これらのトリックを有効に使うことができたんだろう。例えば、日本でも島田荘司が「占星術殺人事件」のメイントリックで短編を書いたらたぶん駄作にしかならなかっただろうな。

     そう考えると、ストーリーテラーとしてのカーがさらに偉大に見えてきた。うむむ、カーの昔の作品、電子書籍に落ちないかなあ。かつて電子書籍の悪口を山ほどいったことは謝るからさあ……。
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    ~ Comment ~

    Re: こみさん

    「空中の足跡」と「ホット・マネー」は創元の「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」に入ってますよ。

    古典と呼べる「空中の足跡」はともかく、「ホット・マネー」の金の隠し場所は、スコットランドヤードはバカぞろいかっ! と叫びたくなる脱力ものでしたなあ……(^_^;)

    NoTitle

    内容はあまり覚えてないんですが、トリックより小説として面白かったと思った記憶があります。
    私がカーで初めて読んだのが『皇帝のかぎ煙草入れ』
    フェル博士もH・Mも出てないのだけど、初めてだからその不思議さもわからなかったなあ。
    ただ、もうそのタイトルに惹かれて手に取ったのでした。
    ああ、そんなタイトル出されるとまた読まなきゃならなくなる……

    Re: 面白半分さん

    そもそものトリックがギャグすれすれですからねえ……。

    それを意外な人間関係とか、徐々に明らかになる凶器とか、微に入り細を穿ちしてサスペンスフルな展開としたのは、カー先生の面目躍如でしょう。

    これが同じカー先生のワンアイデアでも「空中の足跡」だったらどうやっても短編にしかならない!(笑) 「ホット・マネー」とか!(笑)

    NoTitle

    ワンアイデアを長編というフォーマットで有効に使い切ったという事なんですね。
    ”ストーリーテリングの自信があるから”ってなるほどなあと思いました。
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