「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
3 吸血鬼を吊るせ(完結)
吸血鬼を吊るせ 2-22
22
アシスタントの若いのに案内され、応接室へ通された。
昔来たときは出がらしのお茶しか出てこなかったが、なんと今日はコーヒーが出てきた。インスタントだろうが、クリームと砂糖もついている。遥美奈を連れてきたせいだろうか。やっぱり美人といると得だ。
「調査を担当した北村が参ります。しばらくお待ちください」
そういって若いのは出て行った。
「先生、もう一度お聞きしますが、香さんは本当に、冷凍倉庫に?」
「わたしの夢はそういっています。それで納得してください。もし、わたしみたいな素人にも摑めるような物証があるのだったら、今頃は警察のほうが、遥かに早く香さんを見つけていますよ」
「そうでしょうか」
「遊びで、白昼に女性をこんなところに呼び出したりはしません。それに、人を騙すのだったら、もっとマシなヨタを考えますよ」
沈黙。わたしは耐え切れずにコーヒーを口に含んだ。
五分後、分厚いファイルを手に、北村が入ってきた。
「遥美奈様ですね。はじめまして。北村と申します。桐野様もお久しぶりです」
北村は、NHKニュースのアナウンサーでもやったほうが似合いそうな、会う人全てが信用してしまいかねない真面目そのもののツラをした男である。依頼人に報告をするのにも、潜伏調査をするのにも、警察やヤクザと交渉するのにも便利な顔だった。この男が凄腕の探偵だということは、森村探偵事務所を何度か利用したものなら誰でも知っていた。ならば北村探偵事務所でもよさそうなものだが、所長の森村は同等以上の調査の腕を持っているうえ経営の才能もあるという事実の前にはそれは夢物語である。
「お調べになっている冷凍倉庫と申しましてもいろいろございまして……」
北村は手にしたファイルを開け、地図のコピーを取り出した。地図のあちこちに、赤で印がつけられている。
「桐野様の診療所の近辺から、ということでしたので、そのように調査いたしました」
「それで?」
わたしと遥美奈は二人して地図の上に顔を寄せた。
「ここに赤で記しましたのが、人間ほどの大きさと重さとを備えた荷物の保存の注文を受けた倉庫で、脇に書きましたのがその荷物が運び込まれました日時です」
「意外と少ないな」
「主な冷凍倉庫は基本的に企業の専用でして、個人の荷物も扱うようなところは案外とないものなのですよ」
北村はわたしたちを意味深な目で見た。
「お差しつかえなければ、なにを探しているのかお教え願えませんか? 秘密は厳守しますし、教えていただくことでこちらもよりお力になれるかもしれません」
遥美奈と目を合わせる。視線の交錯は一秒にも満たなかったが、いいたいことは充分に伝わった。
「あんたの思っているとおりの物だよ、といっておこうか」
わたしは立ち上がった。
「情報を感謝する。ありがとう。報酬は……」
「あたしが払います」
隣で、同じく腰を浮かせた遥美奈が、しっかりとした声でいった。
「小切手でよろしいでしょうか?」
アシスタントの若いのに案内され、応接室へ通された。
昔来たときは出がらしのお茶しか出てこなかったが、なんと今日はコーヒーが出てきた。インスタントだろうが、クリームと砂糖もついている。遥美奈を連れてきたせいだろうか。やっぱり美人といると得だ。
「調査を担当した北村が参ります。しばらくお待ちください」
そういって若いのは出て行った。
「先生、もう一度お聞きしますが、香さんは本当に、冷凍倉庫に?」
「わたしの夢はそういっています。それで納得してください。もし、わたしみたいな素人にも摑めるような物証があるのだったら、今頃は警察のほうが、遥かに早く香さんを見つけていますよ」
「そうでしょうか」
「遊びで、白昼に女性をこんなところに呼び出したりはしません。それに、人を騙すのだったら、もっとマシなヨタを考えますよ」
沈黙。わたしは耐え切れずにコーヒーを口に含んだ。
五分後、分厚いファイルを手に、北村が入ってきた。
「遥美奈様ですね。はじめまして。北村と申します。桐野様もお久しぶりです」
北村は、NHKニュースのアナウンサーでもやったほうが似合いそうな、会う人全てが信用してしまいかねない真面目そのもののツラをした男である。依頼人に報告をするのにも、潜伏調査をするのにも、警察やヤクザと交渉するのにも便利な顔だった。この男が凄腕の探偵だということは、森村探偵事務所を何度か利用したものなら誰でも知っていた。ならば北村探偵事務所でもよさそうなものだが、所長の森村は同等以上の調査の腕を持っているうえ経営の才能もあるという事実の前にはそれは夢物語である。
「お調べになっている冷凍倉庫と申しましてもいろいろございまして……」
北村は手にしたファイルを開け、地図のコピーを取り出した。地図のあちこちに、赤で印がつけられている。
「桐野様の診療所の近辺から、ということでしたので、そのように調査いたしました」
「それで?」
わたしと遥美奈は二人して地図の上に顔を寄せた。
「ここに赤で記しましたのが、人間ほどの大きさと重さとを備えた荷物の保存の注文を受けた倉庫で、脇に書きましたのがその荷物が運び込まれました日時です」
「意外と少ないな」
「主な冷凍倉庫は基本的に企業の専用でして、個人の荷物も扱うようなところは案外とないものなのですよ」
北村はわたしたちを意味深な目で見た。
「お差しつかえなければ、なにを探しているのかお教え願えませんか? 秘密は厳守しますし、教えていただくことでこちらもよりお力になれるかもしれません」
遥美奈と目を合わせる。視線の交錯は一秒にも満たなかったが、いいたいことは充分に伝わった。
「あんたの思っているとおりの物だよ、といっておこうか」
わたしは立ち上がった。
「情報を感謝する。ありがとう。報酬は……」
「あたしが払います」
隣で、同じく腰を浮かせた遥美奈が、しっかりとした声でいった。
「小切手でよろしいでしょうか?」
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~ Comment ~
す、すご…
小切手とか……さっと出せるってどんだけσ(^ω^;)
NHKのアナということは、井上二郎か、それとも、きれいどころで登坂淳一さん……
うんv どっちでも素敵ですd(^^○)
小切手とか……さっと出せるってどんだけσ(^ω^;)
NHKのアナということは、井上二郎か、それとも、きれいどころで登坂淳一さん……
うんv どっちでも素敵ですd(^^○)
>せあらさん
まあそこらへんの処理は今後を(^^)
いつかいってみたいですね、「小切手でよろしいでしょうか?」ってセリフ(^^)
「カードでいい?」よりもかっこいいと思います(^^)
まあそこらへんの処理は今後を(^^)
いつかいってみたいですね、「小切手でよろしいでしょうか?」ってセリフ(^^)
「カードでいい?」よりもかっこいいと思います(^^)
果たして、冷凍倉庫に香さんはいるのでしょうか?!
桐野先生の夢を疑うわけではありませんが(何と言ってもナイトメアハンターだし♪)、ドキドキなところですからね^^
何だか「小切手でよろしいでしょうか?」と言った美奈さんが、とても格好良く見えてしまいました(爆)
桐野先生の夢を疑うわけではありませんが(何と言ってもナイトメアハンターだし♪)、ドキドキなところですからね^^
何だか「小切手でよろしいでしょうか?」と言った美奈さんが、とても格好良く見えてしまいました(爆)
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なにしろ家がでかいですので(^^)
北村さんの顔に特にモデルはありません(ホントかよ(爆))