ゲーマー!(長編小説・連載中)
1979年(1)
1979年
修也は、自分が生まれたところはI県のM市であることは理解していた。だが、それ以上のことはよくわからなかった。知っていたのは、自分の家のすぐ近くにはバス停があり、そこからバスに乗ると、デパートや本屋といったものが並ぶ、商店街があり、終点には駅があること。駅からさらに電車に乗れば、東京にも行けるが、東京までは果てしなく長い時間がかかるため、めったなことでは行かないということ。
そして……デパートの屋上には、ゲームコーナーがあった!
修也は飽きずにゲームコーナーを見て回った。別に遊ぶわけではない。テーブルタイプの筐体の前で空いた席に座り、レバーを倒し、ボタンを押したりしてみたが、それでどうとなるものでもなかった。
だいいち、修也に百円玉などあるわけがなかった。
百円玉の購買力は、来月から小学校に上がろうという子供には多大なものがあった。なにしろ、百円あれば安いプラモデルが一個買え、ジュースが飲め、怪獣消しゴムが当たるガチャガチャを五回も回すことができるのだ。親がおいそれと渡すわけがないし、それは修也も理解していた。
しかしそれにしても、音と光の目のくらむようなショーだった! スペースインベーダーの魔力はまだかすむ気配もなかった。さまざまな色のビニールが貼られたゲームが次々と並ぶさまは、サラリーマンを誘うネオンサインよりも、修也の心を幻惑した。海底で宝探しをするゲームがあった。ピエロをシーソーで飛ばして風船を割るゲームがあった。カーレースがあり、拳銃で対決するゲームがあり、そして目をテレビゲームから外せば、そこにはありとあらゆる種類のメダルゲームがあり、ピンボールがあり……およそ子供の心をわしづかみにするにはじゅうぶんすぎるほどのゲームがあった。
いくらか世間知というものをわきまえてきていた修也は、名残惜し気にそのゲームたちを見やってから、ゲームコーナーを出て、エスカレーターに乗り、下に降りた。
そのころのデパートというものは、ふつう、屋上に遊具を備えた子供向けの遊び場とゲームコーナーがあり、その下に食堂街があった。
父が待っていた。
「どこにいたんだ、お母さんが探してたぞ」
父はいらだったようにいった。
「もうすぐ入学式だ。一年生になるんだぞ。しっかりしなくちゃな」
エスカレーターから母が上がってきた。
「修也! おもちゃ売り場にもいなかったから、もう心配で……どこにいたの?」
「うえ」
修也は答えた。
修也は、自分が生まれたところはI県のM市であることは理解していた。だが、それ以上のことはよくわからなかった。知っていたのは、自分の家のすぐ近くにはバス停があり、そこからバスに乗ると、デパートや本屋といったものが並ぶ、商店街があり、終点には駅があること。駅からさらに電車に乗れば、東京にも行けるが、東京までは果てしなく長い時間がかかるため、めったなことでは行かないということ。
そして……デパートの屋上には、ゲームコーナーがあった!
修也は飽きずにゲームコーナーを見て回った。別に遊ぶわけではない。テーブルタイプの筐体の前で空いた席に座り、レバーを倒し、ボタンを押したりしてみたが、それでどうとなるものでもなかった。
だいいち、修也に百円玉などあるわけがなかった。
百円玉の購買力は、来月から小学校に上がろうという子供には多大なものがあった。なにしろ、百円あれば安いプラモデルが一個買え、ジュースが飲め、怪獣消しゴムが当たるガチャガチャを五回も回すことができるのだ。親がおいそれと渡すわけがないし、それは修也も理解していた。
しかしそれにしても、音と光の目のくらむようなショーだった! スペースインベーダーの魔力はまだかすむ気配もなかった。さまざまな色のビニールが貼られたゲームが次々と並ぶさまは、サラリーマンを誘うネオンサインよりも、修也の心を幻惑した。海底で宝探しをするゲームがあった。ピエロをシーソーで飛ばして風船を割るゲームがあった。カーレースがあり、拳銃で対決するゲームがあり、そして目をテレビゲームから外せば、そこにはありとあらゆる種類のメダルゲームがあり、ピンボールがあり……およそ子供の心をわしづかみにするにはじゅうぶんすぎるほどのゲームがあった。
いくらか世間知というものをわきまえてきていた修也は、名残惜し気にそのゲームたちを見やってから、ゲームコーナーを出て、エスカレーターに乗り、下に降りた。
そのころのデパートというものは、ふつう、屋上に遊具を備えた子供向けの遊び場とゲームコーナーがあり、その下に食堂街があった。
父が待っていた。
「どこにいたんだ、お母さんが探してたぞ」
父はいらだったようにいった。
「もうすぐ入学式だ。一年生になるんだぞ。しっかりしなくちゃな」
エスカレーターから母が上がってきた。
「修也! おもちゃ売り場にもいなかったから、もう心配で……どこにいたの?」
「うえ」
修也は答えた。
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~ Comment ~
デパートといえば お子様ランチw
母の買い物につき合わされ よく行った記憶が
上階のレストランで食事して 屋上で遊んで
そんな記憶がありますw
上階のレストランで食事して 屋上で遊んで
そんな記憶がありますw
- #17363 フラメント
- URL
- 2016.06/11 18:51
- ▲EntryTop
Re: miss.keyさん
当時は金がなくても、見ているだけで面白かったもんです。なんかこう背徳感みたいなものがあって。ああいったいい意味での「見せ物小屋感」があまり感じられなくなってしまったのは、残念ですね。
単に大人になったからかもしれませんが。
単に大人になったからかもしれませんが。
Re: LandMさん
当時、安価で「遊園地」気分を満足させてくれるデパートの屋上は、地方都市の住人にとってはありがたい空間だったのではと思います。
もちろん茨城県水戸市にも観覧車等のある遊園地はあったのですが、なかなか行く機会が作れませんで。
わたしが中学に上がるころかな、経営不振でそこがつぶれたの……。ジェットコースターがなかったのが痛かったんでしょうね。
もちろん茨城県水戸市にも観覧車等のある遊園地はあったのですが、なかなか行く機会が作れませんで。
わたしが中学に上がるころかな、経営不振でそこがつぶれたの……。ジェットコースターがなかったのが痛かったんでしょうね。
Re: blackoutさん
基本的にゲームセンターは「対戦」をするところではなかったですからね。仲間うちのスコア争いくらいで。
後になりますが、最初にそうした「同一画面でゲームを二人で遊ぶ」というコンセプトで面白さを感じたのは、任天堂のマリオブラザーズでした。プレイ次第で敵にも味方にもなるという、あのゲームバランスは絶妙でした。いまだにやっても面白い(^^)
後になりますが、最初にそうした「同一画面でゲームを二人で遊ぶ」というコンセプトで面白さを感じたのは、任天堂のマリオブラザーズでした。プレイ次第で敵にも味方にもなるという、あのゲームバランスは絶妙でした。いまだにやっても面白い(^^)
NoTitle
昔はデパートがあって、屋上には遊園地みたいなものやゲームセンターがあって、そこの雰囲気やゲームを楽しんでいた記憶があります。懐かしいものです。
NoTitle
自分が小学生だった頃も、まだデパートの屋上に遊具やゲームコーナーがありましたな
そしてゲーセン(もはや死語?)は、ガラ悪い連中の溜まり場っていうのもまだありましたw
今は対戦モノだったら、オンラインでやるっていう時代だと思うので、その手のものはほとんど見かけなくなった気がします
そしてゲーセン(もはや死語?)は、ガラ悪い連中の溜まり場っていうのもまだありましたw
今は対戦モノだったら、オンラインでやるっていう時代だと思うので、その手のものはほとんど見かけなくなった気がします
Re: 椿さん
1979年は激動の年でした。
いまだに続く「あれ」が始まりましたから、修也少年はテレビに釘付けに(^_^;)
いまだに続く「あれ」が始まりましたから、修也少年はテレビに釘付けに(^_^;)
NoTitle
デパートの屋上に遊具やゲームコーナーがあった時代……懐かしいです。
うちの親はゲームコーナーは手をつないで素通りさせ、30円入れると動く馬とかの遊具に乗せてくれましたね(笑) 子供にゲームコーナーをじっくり見せる暇も与えない見事な手際でした。
このお話、ノスタルジックでいいなあ(←年齢)
しかしお金の価値も変わったものです……。
さて修也くん、一年生になってどんな試練が、はたまた誘惑が待ち構えているのでしょうか。そろそろあのブームが来るかな?
うちの親はゲームコーナーは手をつないで素通りさせ、30円入れると動く馬とかの遊具に乗せてくれましたね(笑) 子供にゲームコーナーをじっくり見せる暇も与えない見事な手際でした。
このお話、ノスタルジックでいいなあ(←年齢)
しかしお金の価値も変わったものです……。
さて修也くん、一年生になってどんな試練が、はたまた誘惑が待ち構えているのでしょうか。そろそろあのブームが来るかな?
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Re: フラメントさん
ライフスタイルの変化というものは恐ろしいものがあります。好きだったものが無限のかなたへ飛んでいく……。