東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ36位 モルグ街の殺人 エドガー・アラン・ポー

     ←1979年(5) →1979年(6)
     ミステリがミステリとして産声を上げた記念碑的作品。であるが、ポー先生はきっと「怪奇小説」を書くつもりであったんだろうなあ、と思えてならぬ。名探偵デュパンの暮らしぶりから日ごろ吐くひとことひとことまで、完全に怪奇小説のそれだ。ついでにいえば、事件の情景から真相まで怪奇小説しているのであるから。

     そんなことを考えながら再読したら、意外とすらすら読めて面白かった。設定と真相が怪奇的なのはいいとしても、ストーリーそのものは極めて合理的に進む。デュパンのもったいのつけすぎも魅力というか、妙な愛嬌がある。

     ポーは怪奇幻想小説の評価がやたらと高いが、ユーモア小説や風刺小説も結構書いていて、「×だらけの社説」なんて大好きなのだが、そうした恐怖とギャグのすれすれの線を歩くことができた天才だからこそ、この魅力的な話が書けたのだろうか。

     いつぞやの「このミス」を読んでいたら、ポーのこの作品こそ「バカミスの元祖」であり、ミステリはバカミスから始まったのだ、などという冗談記事が書いてあって大笑いしたが、実際にその通りなのだろう、としみじみ思う。エキセントリックなキャラクターと読者を煙に巻く会話、そして笑うしかない真相、それがあるから「モルグ街の殺人」と「盗まれた手紙」、そしてデュパンのシリーズではないが「黄金虫」は、百年以上経った今でも、われわれのツボをついて面白がらせてくれるのではないか。

     ポーは「マリー・ロジェの謎」でもデュパンによる謎解きとドキュメントとしての実際の事件を合体させるという前代未聞の創造的な試みをしていたが、残念ながらあれには「笑うしかない真相」が欠落していた。もし、現実の事件より魅力的な「笑うしかない真相」を生み出すことに成功していたら、と考えると残念である。冤罪をかけられた人はえらい迷惑をこうむるとは思われるが……。

     アルコール依存症と貧窮の中、ポーは謎の死を遂げるが、その死すら、彼はエンターテインメントに変えてしまった気がする。彼は怪奇と幻想の中で死んだのか、論理と即物性の結末として死んだのか、そのような疑問をわれわれに突き付けて。ジョン・ディクスン・カーをはじめとするさまざまな人間が、作品や論文で、その謎を解こうとしてきた。それらは魅力的な仮説だが、ポーはそんな人々に苦笑いしているかもしれない。自分の死は、小説のようなロマンチックなものではなく、論文のような無味乾燥なものでもない。それはあきれるまでに単純で、聞いたら笑うしかないような、新聞記事で「メルツェルの将棋指し」の謎を解いたときのような滑稽な真相によるものなのだよ、と。
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    ~ Comment ~

    Re: かえるママ21さん

    乱歩のあのねばりつくようなくどいまでの会話と語感はありませんが、それだけによりサスペンスフルでもあります。

    もし、怪奇味の薄い作品がお好きなら、「盗まれた手紙」がベストでしょうね。名探偵デュパンの分析能力を怪奇方面に向けたのが「モルグ街」だとしたら、ユーモア方面に向けたのが「盗まれた手紙」だと思います。冒険方面に向かうと「黄金虫」になります(デュパンは出てきませんが)。

    間違っても最初に「陥穽と振子」なんて拷問小説を読んではいけません。小学生の時にうっかりあれを読んでしまっておびえきり、しばらくポーには手も触れようとしなかった根性なしがいうんだから間違いない(笑)

    乱歩も「二銭銅貨」や「心理試験」とか怖くない知的であっと驚くサスペンス短編を書いていますので、青空文庫で読んでみてはいかがでしょうか。

    Re: 猫団子さん

    お恥ずかしい話ですが、まだ「ポーの一族」読んだことがないであります(^_^;)

    そのくせ小ネタは知っていて、「そうだ私は彼らのことを書くこともできる」(笑)

    どうも少女漫画に出てくる人間関係は苦手であります(^_^;)

    いてかは読もうと思ってるんですけど(^_^;)

    こんばんは

    江戸川乱歩が怖かったので、本家のエドガーアランポーは一度も読んだことがないのです。
    どちらが怖いのでしょうか?

    比較論などもリクエストします。

    ここでお礼を述べるのはとっても明後日なことなんですけど

    夏の世を涼しく過ごす一冊頂きました。
    ありがとうございます。

    …ポーの一族に寄せて

    Re: 面白半分さん

    ポオって人は、耽美ものを書いてもギャグを書いても、ミステリを書いても冒険小説を書いてもSFを書いても、詩を書いても詩論を書いても、

    「カルト作家」

    になるという不幸な人だったと思います。

    だからどちらかといえば乱歩というよりは足穂のほうに近かったのかも……。

    Re: blackoutさん

    当時はまだミステリが市民権すら得ていない時代でしたから、「新青年」編集部はいろいろと苦労したみたいです。

    乱歩も乱歩で複雑な人でしたから、耽美的で退廃的な作品を多く残しましたし。なにせ乱歩が自作で一番気に入っている作品が、ファンタジー小説「押絵と旅する男」っていうんですから屈折は並大抵じゃありません。

    それでもミステリの火を消さぬため通俗スリラーをばんばん書いて、日本の名探偵といえば明智小五郎、というところまで持って行ったんですからすごいもんです。

    いまだに読むと面白いもんなあ。

    NoTitle

    実際読んだことはなくとも存在や大まかな内容など知られてる作品ってありますがこれなんかその代表格かも。
    私も小学生の時に予備知識ありつつ読んでいます。
    一年位前短編集をまた読みましたがミステリに限らず全部面白かったです。
    Nevermore

    NoTitle

    乱歩先生のあのペンネームは、この人から来てるみたいですが、改めて乱歩先生を読んでみると、怪奇的な作風の影響も大いに受けている気がします

    本人は、本格派ミステリーで売りたかったみたいですけどね

    たぶん、クリスティおばさんやドイルおじさんのように

    いかんせん犯罪者視点とか人間の醜い欲望に焦点を当てた作品が多すぎですね(汗)

    しかし、それが深夜枠でアニメとして放映されたり、装いも新たに文庫本やkindleで電子書籍化されたりしている、この平成という時代は一体どうなってるのか?

    そんなことを思わずにはいられない今日この頃
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