東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ36位 モルグ街の殺人 エドガー・アラン・ポー
ミステリがミステリとして産声を上げた記念碑的作品。であるが、ポー先生はきっと「怪奇小説」を書くつもりであったんだろうなあ、と思えてならぬ。名探偵デュパンの暮らしぶりから日ごろ吐くひとことひとことまで、完全に怪奇小説のそれだ。ついでにいえば、事件の情景から真相まで怪奇小説しているのであるから。
そんなことを考えながら再読したら、意外とすらすら読めて面白かった。設定と真相が怪奇的なのはいいとしても、ストーリーそのものは極めて合理的に進む。デュパンのもったいのつけすぎも魅力というか、妙な愛嬌がある。
ポーは怪奇幻想小説の評価がやたらと高いが、ユーモア小説や風刺小説も結構書いていて、「×だらけの社説」なんて大好きなのだが、そうした恐怖とギャグのすれすれの線を歩くことができた天才だからこそ、この魅力的な話が書けたのだろうか。
いつぞやの「このミス」を読んでいたら、ポーのこの作品こそ「バカミスの元祖」であり、ミステリはバカミスから始まったのだ、などという冗談記事が書いてあって大笑いしたが、実際にその通りなのだろう、としみじみ思う。エキセントリックなキャラクターと読者を煙に巻く会話、そして笑うしかない真相、それがあるから「モルグ街の殺人」と「盗まれた手紙」、そしてデュパンのシリーズではないが「黄金虫」は、百年以上経った今でも、われわれのツボをついて面白がらせてくれるのではないか。
ポーは「マリー・ロジェの謎」でもデュパンによる謎解きとドキュメントとしての実際の事件を合体させるという前代未聞の創造的な試みをしていたが、残念ながらあれには「笑うしかない真相」が欠落していた。もし、現実の事件より魅力的な「笑うしかない真相」を生み出すことに成功していたら、と考えると残念である。冤罪をかけられた人はえらい迷惑をこうむるとは思われるが……。
アルコール依存症と貧窮の中、ポーは謎の死を遂げるが、その死すら、彼はエンターテインメントに変えてしまった気がする。彼は怪奇と幻想の中で死んだのか、論理と即物性の結末として死んだのか、そのような疑問をわれわれに突き付けて。ジョン・ディクスン・カーをはじめとするさまざまな人間が、作品や論文で、その謎を解こうとしてきた。それらは魅力的な仮説だが、ポーはそんな人々に苦笑いしているかもしれない。自分の死は、小説のようなロマンチックなものではなく、論文のような無味乾燥なものでもない。それはあきれるまでに単純で、聞いたら笑うしかないような、新聞記事で「メルツェルの将棋指し」の謎を解いたときのような滑稽な真相によるものなのだよ、と。
そんなことを考えながら再読したら、意外とすらすら読めて面白かった。設定と真相が怪奇的なのはいいとしても、ストーリーそのものは極めて合理的に進む。デュパンのもったいのつけすぎも魅力というか、妙な愛嬌がある。
ポーは怪奇幻想小説の評価がやたらと高いが、ユーモア小説や風刺小説も結構書いていて、「×だらけの社説」なんて大好きなのだが、そうした恐怖とギャグのすれすれの線を歩くことができた天才だからこそ、この魅力的な話が書けたのだろうか。
いつぞやの「このミス」を読んでいたら、ポーのこの作品こそ「バカミスの元祖」であり、ミステリはバカミスから始まったのだ、などという冗談記事が書いてあって大笑いしたが、実際にその通りなのだろう、としみじみ思う。エキセントリックなキャラクターと読者を煙に巻く会話、そして笑うしかない真相、それがあるから「モルグ街の殺人」と「盗まれた手紙」、そしてデュパンのシリーズではないが「黄金虫」は、百年以上経った今でも、われわれのツボをついて面白がらせてくれるのではないか。
ポーは「マリー・ロジェの謎」でもデュパンによる謎解きとドキュメントとしての実際の事件を合体させるという前代未聞の創造的な試みをしていたが、残念ながらあれには「笑うしかない真相」が欠落していた。もし、現実の事件より魅力的な「笑うしかない真相」を生み出すことに成功していたら、と考えると残念である。冤罪をかけられた人はえらい迷惑をこうむるとは思われるが……。
アルコール依存症と貧窮の中、ポーは謎の死を遂げるが、その死すら、彼はエンターテインメントに変えてしまった気がする。彼は怪奇と幻想の中で死んだのか、論理と即物性の結末として死んだのか、そのような疑問をわれわれに突き付けて。ジョン・ディクスン・カーをはじめとするさまざまな人間が、作品や論文で、その謎を解こうとしてきた。それらは魅力的な仮説だが、ポーはそんな人々に苦笑いしているかもしれない。自分の死は、小説のようなロマンチックなものではなく、論文のような無味乾燥なものでもない。それはあきれるまでに単純で、聞いたら笑うしかないような、新聞記事で「メルツェルの将棋指し」の謎を解いたときのような滑稽な真相によるものなのだよ、と。
- 関連記事
-
- 海外ミステリ37位 あなたに似た人 ロアルド・ダール
- 海外ミステリ36位 モルグ街の殺人 エドガー・アラン・ポー
- 海外ミステリ35位 ユダの窓 カーター・ディクスン
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
Re: 猫団子さん
お恥ずかしい話ですが、まだ「ポーの一族」読んだことがないであります(^_^;)
そのくせ小ネタは知っていて、「そうだ私は彼らのことを書くこともできる」(笑)
どうも少女漫画に出てくる人間関係は苦手であります(^_^;)
いてかは読もうと思ってるんですけど(^_^;)
そのくせ小ネタは知っていて、「そうだ私は彼らのことを書くこともできる」(笑)
どうも少女漫画に出てくる人間関係は苦手であります(^_^;)
いてかは読もうと思ってるんですけど(^_^;)
こんばんは
江戸川乱歩が怖かったので、本家のエドガーアランポーは一度も読んだことがないのです。
どちらが怖いのでしょうか?
比較論などもリクエストします。
どちらが怖いのでしょうか?
比較論などもリクエストします。
ここでお礼を述べるのはとっても明後日なことなんですけど
夏の世を涼しく過ごす一冊頂きました。
ありがとうございます。
…ポーの一族に寄せて
ありがとうございます。
…ポーの一族に寄せて
Re: 面白半分さん
ポオって人は、耽美ものを書いてもギャグを書いても、ミステリを書いても冒険小説を書いてもSFを書いても、詩を書いても詩論を書いても、
「カルト作家」
になるという不幸な人だったと思います。
だからどちらかといえば乱歩というよりは足穂のほうに近かったのかも……。
「カルト作家」
になるという不幸な人だったと思います。
だからどちらかといえば乱歩というよりは足穂のほうに近かったのかも……。
Re: blackoutさん
当時はまだミステリが市民権すら得ていない時代でしたから、「新青年」編集部はいろいろと苦労したみたいです。
乱歩も乱歩で複雑な人でしたから、耽美的で退廃的な作品を多く残しましたし。なにせ乱歩が自作で一番気に入っている作品が、ファンタジー小説「押絵と旅する男」っていうんですから屈折は並大抵じゃありません。
それでもミステリの火を消さぬため通俗スリラーをばんばん書いて、日本の名探偵といえば明智小五郎、というところまで持って行ったんですからすごいもんです。
いまだに読むと面白いもんなあ。
乱歩も乱歩で複雑な人でしたから、耽美的で退廃的な作品を多く残しましたし。なにせ乱歩が自作で一番気に入っている作品が、ファンタジー小説「押絵と旅する男」っていうんですから屈折は並大抵じゃありません。
それでもミステリの火を消さぬため通俗スリラーをばんばん書いて、日本の名探偵といえば明智小五郎、というところまで持って行ったんですからすごいもんです。
いまだに読むと面白いもんなあ。
NoTitle
実際読んだことはなくとも存在や大まかな内容など知られてる作品ってありますがこれなんかその代表格かも。
私も小学生の時に予備知識ありつつ読んでいます。
一年位前短編集をまた読みましたがミステリに限らず全部面白かったです。
Nevermore
私も小学生の時に予備知識ありつつ読んでいます。
一年位前短編集をまた読みましたがミステリに限らず全部面白かったです。
Nevermore
- #17370 面白半分
- URL
- 2016.06/12 01:54
- ▲EntryTop
NoTitle
乱歩先生のあのペンネームは、この人から来てるみたいですが、改めて乱歩先生を読んでみると、怪奇的な作風の影響も大いに受けている気がします
本人は、本格派ミステリーで売りたかったみたいですけどね
たぶん、クリスティおばさんやドイルおじさんのように
いかんせん犯罪者視点とか人間の醜い欲望に焦点を当てた作品が多すぎですね(汗)
しかし、それが深夜枠でアニメとして放映されたり、装いも新たに文庫本やkindleで電子書籍化されたりしている、この平成という時代は一体どうなってるのか?
そんなことを思わずにはいられない今日この頃
本人は、本格派ミステリーで売りたかったみたいですけどね
たぶん、クリスティおばさんやドイルおじさんのように
いかんせん犯罪者視点とか人間の醜い欲望に焦点を当てた作品が多すぎですね(汗)
しかし、それが深夜枠でアニメとして放映されたり、装いも新たに文庫本やkindleで電子書籍化されたりしている、この平成という時代は一体どうなってるのか?
そんなことを思わずにはいられない今日この頃
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: かえるママ21さん
もし、怪奇味の薄い作品がお好きなら、「盗まれた手紙」がベストでしょうね。名探偵デュパンの分析能力を怪奇方面に向けたのが「モルグ街」だとしたら、ユーモア方面に向けたのが「盗まれた手紙」だと思います。冒険方面に向かうと「黄金虫」になります(デュパンは出てきませんが)。
間違っても最初に「陥穽と振子」なんて拷問小説を読んではいけません。小学生の時にうっかりあれを読んでしまっておびえきり、しばらくポーには手も触れようとしなかった根性なしがいうんだから間違いない(笑)
乱歩も「二銭銅貨」や「心理試験」とか怖くない知的であっと驚くサスペンス短編を書いていますので、青空文庫で読んでみてはいかがでしょうか。