東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ38位 はなれわざ クリスチアナ・ブランド

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     浪人中に、下宿先の図書館にあったのを読んで面白さにハマった。今回は地元の図書館に取り寄せてもらって再読。陽光さんさんと降り注ぐ地中海のリゾート地を舞台に、作者クリスチアナ・ブランドの人の悪さが炸裂する、ブラック・ジョークに溢れた作品であるが、そのブラック・ジョークの濃度が記憶以上だった。日本では、同じブランドの作品でも「ジェゼベルの死」のメイントリックの持つまがまがしさが不当に高く評価され過ぎているのではないかと思う。

     その人の悪さが最大限に発揮されているのは犯人の造形においてだろう。それほどまでにこの小説に出てくる犯人は悲惨でみじめだ。事件解決ののち、名探偵コックリル警部はじめみんなからもうボロクソにいわれるのである。読んだわたしにとっては、犯人が犯行に至った経緯は実にもう涙なくしては語れぬもので、個人的には減刑の嘆願書を出したいくらいである。

     トリックも大技が決まっていて、「腑に落ちかた」が最高である。わかった瞬間は最高のアハ体験となるだろう。露骨なまでに目の前にぶら下がっている真相をまったく気づかせないブランドの騙しのやり方はもう芸術的だ。

     だからこそこの文春ミステリーベスト100における「うんちく」欄の記事を書いたやつは責められねばならない。なんだよ「いかんせん、その解決に背負い投げの快感より肩すかしの不満が残るのも事実」って。「ブランドの最も恐るべき作品「ジェゼベルの死」を切れ者の姉とするなら、人あたりのいいよくできた妹といえる」って。貴様は単にこの名作に文句をつけて「おれってミステリ通」な自己満足に浸っていたかっただけじゃないのか。少なくともこの作品の紹介ページで書くことはないだろう。しかも匿名で書くとは、フェアじゃないにもほどってものがある。

     ブランドはこの舞台が気に入っていたようで、続編、というかスピンオフ的な長編「ゆがんだ光輪」を書いている。これもまたブラック・ジョークたっぷりの、人の悪さが超新星のごとく炸裂した感のある作品で、大公殿下の語る「この島の抱える最重要の国家機密」を知ったら、爆笑必至だ。よくこんなことを思いつくもんである。

     繰り返すが、「はなれわざ」はけっして「人あたりのいいよくできた妹」などではない。外ヅラこそフレンドリーだが、その中身は姉をしのぐおそるべき根性悪であり、なにげない言葉や描写の端々に込められた皮肉と悪意に気づいた時、たぶんこの小説はまったく違って見えてくるだろう。ブランドの代表作といって恥じない傑作である。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    どうでしょう。ブランドの短編は、「濃厚」ですからねえ。

    蚊が飛んできたのにも気がつかないかもしれません(^^)

    NoTitle

    すんません(笑)
    私、短編って苦手なんですよー。
    ほら。短いから、読んでてちょっと気をそらすと(例えば、今の季節だったら蚊が飛んできたとかwww)終わっちゃってる、みたいなとこあるじゃないですか(笑)

    長編を読んで、気に入ったら短編も読んでみるってパターンが多いです。

    ていうか、さっきの「キドリントン」の記事を読んでて、「ウッドストック行」が無茶苦茶気になってきました(笑)

    Re: ひゃくさん

    ブランドについて知るにはなんといっても短編集「招かれざる客たちのビュッフェ」が最適なのですが、今売っているのかなあ。
    「暗闇の薔薇」については未読なのでなんともいえませんが、ブランドが書いたならただのサスペンスで終わるわけがない、と思います(^_^)

    NoTitle

    クリスチアナ・ブランドは、アマゾンで『暗闇の薔薇』って本のあらすじを見て、これ読んでみたいなーって思ったっきりです(笑)
    なのに、名前を憶えてるっていうのは何なんだろ?
    なんか不思議(笑)
    ていうか、これを機会に読んでみよっかな。

    作家って、たぶん“人が悪い”っていうのは大事な素養ですよね(爆)
    ま、社会生活する上で必要最低限のルールは守りつつ、でもそーとーイヤなヤツって面を持ってないとダメなんだろうなーって思いますね。

    あ、その点、私はすこぶるいい人です(爆)
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