東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ39位 キドリントンから消えた娘 コリン・デクスター

     ←自炊日記・その54(2016年6月) →荒野のウィッチ・ドクター(22)
     浪人中に図書館で借りて読んだ。今回は、この企画のために古本屋でポケミス版を買って再読。「ウッドストック行最終バス」と続けざまに読むと、当時のマニアにコリン・デクスターがウケた理由もよくわかる。ここまで精緻な論理のアクロバットを見せる謎解きのための謎解きミステリは、昭和52年という時代ではまさに絶滅しかかっていたからである。なにせ世は社会派の円熟期であり、新本格はおろか島田荘司も笠井潔もデビューしていない時代である。英語圏の事情においてはここに書くまでもあるまい。

     しかしこの小説、読む人間を選ぶ小説ではある。どんでん返しに次ぐどんでん返しといえば聞こえはいいが、事件に対するもっともらしい謎解きに感心していると、次のページでその説が完全に粉砕される、ということが全編にわたり何度も何度も何度も何度も繰り返されるのだ。名探偵のモース警部も奇人変人だが、この賽の河原の石積みみたいな論理パズルぶりは、趣向というよりはむしろ偏執の域に達している。

     仮説を作っては壊す論理パズルぶりでは先週挙げたクリスチアナ・ブランドも偏執的ではあったが、それでも「誰が犯人か」ということに絞られ、「事件」自体は明確であった。対してこの「キドリントンから消えた娘」では、焦点は行方しれずになったバレリーという娘が「生きているか死んでいるか」というところにあり、それが仮説の変化に伴い、「生きていると思っていたのは間違いで実は殺されていたというのは間違いで実は生きていたと思っていたのは間違いで……」とオセロのコマみたいにくるくるとひっくり返るのがすごい。しかも周囲のコマの位置関係はわずかも変化しない中でそれを行なうのである。まさに神業。

     この神業ぶりは他のミステリ作家も幻惑したらしく、有名なところでは法月綸太郎が「キドリントンから消えた娘」を超えた作品を書く、という触れ込みで「誰彼」という執拗な論理パズル的ミステリを書いていた。あらすじはいやになるくらいややこしいのでここでは詳しくは触れないが、そういう華麗な論理パズルの冥府魔道にミステリファンを誘うところがデクスターにはある。そこは同時代で謎解きミステリにこだわった奇特な作家でも、あまりにも天才すぎて追随者が誰もいなかったジョン・スラデックや、論理パズルというよりは「かっこいい名探偵」を出すことの方が好きだったと思われるデアンドリアには見られない魅力である。

     ちなみにこのモース警部を主人公にしたドラマがイギリスでは作られており、いしいひさいち作のパロディ四コマを読んだ後では、モース警部役の俳優がコリン・デクスターそっくりに見えてくるのがまたなんというか……。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    「暗闇の薔薇」は読んだことないからよくわからないのでなんともご返事できないのがつらいところであります(^^;)

    面白かったら教えてね(^^)

    NoTitle

    先週、これを読んだ後、アマゾンで見て。
    うん。やっぱり、先々週のクリスチアナ・ブランドの方が読んでみたいかも!って(笑)

    Re: ひゃくさん

    「ウッドストック行最終バス」にとどまらず、デクスターの作品は、「いまだれを何の目的で」捜査しているのかがよくわからない傾向はありますね。論理があまりに緻密で。

    慣れてくると、「あ、モース警部、また破綻する理論を」とかにひにひできるのですが……。

    Re: 面白半分さん

    文庫版のほうが読みやすいかもしれませんね。

    慣れるとすさまじい仮説のクラッシュアンドビルドが楽しめるのですか。

    ウッドストック行最終バスも偏執的な作品だったなあ……。

    誰彼は、正直、法月先生、やりすぎ(^^;)

    NoTitle

    『ウッドストック行最終バス』は読んだ…、じゃなくって途中まで読んだんです(つまり、読むのを止めたwww)。

    何かよくわかんなかったんですよねー。
    今思えば、上の面白半分さんがお書きになってるように、海外モノに慣れてなかったのかもしれません。

    というか、まさに「読んでみようかな♪」って思っちゃいましたとさ(爆)

    NoTitle

    まさにこの「東西ミステリー・・」で知り
    読んでみたのですが・・・・・

    当時まだ翻訳物慣れしていないところの自分にはかなりキツイ読み物だった気がします。
    これこそ再読したくなってきました。

    法月さんの「誰彼」ってたぶん読んでいないのですがそういう作品なんですね。これも見つけたら買ってみます
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