東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ41位 813 モーリス・ルブラン

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     大学中退寸前、図書館で堀口大學訳の新潮文庫版を読んだ。鬱のどん底にいた人間にあのやたらと晦渋な訳文はつらかった。「813」と「続813」を、寝床でぎりぎり歯を食いしばりながら匍匐前進でもするかのように読み、読み終わった後は、二度とモーリス・ルブランなんか読むもんか、という感想しか抱けなかった。

     あれから二十年。覚えていたのは真犯人の名前だけ、という状態で、この企画のためだけに図書館から借りだしてきて読んだ。堀口大學と新潮文庫版については思い出したくもなかったので、小学生のときに夢中で読んだ偕成社版の全集から読むことにした。「813」は人気が高く、なかなか借りるチャンスがなかったため、偕成社版はこれが初読である。児童向けと馬鹿にするのは早計というものだ。1980年代からの児童向けの訳書は、ほとんどが「完訳」なのである。それに児童向けだったら疲れた人間にも楽に読めるはずだ。

     というわけで読んだ。感想。ルパン、ひどいやつである。

     なにが義賊だこの野郎、としかいいようがない。いや、本作中でもルパンは意図的に人を殺そうとはしていない。だが、日本の誇る怪人二十面相とは違い、本書におけるルパンは、自分の遠大な目的のために、罪もない、貧しい詩人の若者を罠にはめ、その指を根元から一本、実際に切り落としてしまうのである。待て、人間の指だぞ。切ったら痛いんだぞ。お前は何を考えとるんや。

     「奇岩城」や「八点鍾」や「水晶の栓」や「三十棺桶島」や「金三角」などに出てきたわたしの好きなカッコよくて紳士的で、敵に回せば偉大な相手で、味方にすればこれ以上頼りになる人間はいない男、そんなルパンのイメージが音を立てて崩壊した。この小説におけるルパンは、自分の野望のために使えるやつはどんなやつでも利用してやろうという恐るべき野心家でしかない。

     物語の結末で、ルパンは運命の苦みを噛みしめることとなるが、それも自業自得だろあんた、という言葉しか出てこない。結局、ひとりで事件を起こし、ひとりでひっかきまわした挙句、ひとりでつらい思いをする、そこには「奇岩城」で見せた孤独な王者の風格はもはやない。

     冒険小説としてはたしかに面白いことは面白いのだが、読後感としては「ルパン対ホームズ」に劣るとも勝らないワーストである。こんな本読むくらいなら「奇岩城」読もうぜ! 「八点鍾」でもいいからさ!
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    個人的には「バーネット探偵社」が気に入ってます。ベシュー刑事のツッコミに、のらりくらりとボケでかわすバーネット(=ルパン)のコンビが楽しくてたまりません(^_^)

    Re: 面白半分さん

    南洋一郎の訳だったら善良な小学生向けの抄訳版でしょうから、かえって面白い……かもしれません(^_^)

    大野心家の繰り広げる大冒険、と割り切れば、この本も楽しく読めるのでしょうが……。ちょっと自分には無理です(^_^;)

    NoTitle

    813は私もあんまり好きじゃないです……。前編で盛り上げて、えっこんなオチ? みたいな感じですし。
    結構ルパンって、作品によってキャラブレブレですよね(^-^;

    「奇岩城」「八点鐘」「三十棺桶島」は自分も大好きです。

    NoTitle

    ポプラ文庫でのポプラ社復刻版のシリーズでこれを持っているのですが、そうかそれなら読まないぞお
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