東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ43位 大いなる眠り レイモンド・チャンドラー

     ←海外ミステリ41位 消されかけた男 ブライアン・フリーマントル →自炊日記・その55(2016年7月)
     高校生のころ、創元推理文庫版を読んだ。あまりにもガチガチな文体で、そのときはまったくピンとこず、早川版はないかなあ、と古本屋を探したがなかったのだ。もっとも、その創元推理文庫版も、棚の百円コーナーから見つけ出したものではあったが。早川文庫を書店で買うなんて、そんな贅沢なことは、ミステリ好きの高校生には難しかったのである。それに本を買うお金を節約すれば、東京に行ったときにホビーショップであんなゲームやこんなゲームを……多趣味な人間はある意味つらい。

     まあ、そんなわけで、今になって村上春樹版を再読したわけであるが、感想が、「なるほど、『大いなる眠り』というのは、こういう話だったのか」だったという、ミステリファンにあるまじきものだったことはもうなんというか。創元版を訳された双葉十三郎先生にはまことに申し訳がないが、1956年の訳文を、1990年代もすぐそこに来ている状況で読む、というのは、90年代のヤングアダルト小説を、現代の高校生が読むよりもはるかに困難な行為だった。なにせハードボイルド小説だからスラングが山ほど出てくる。むろん訳者は、スラングを当時の言葉で訳す。その結果、アメリカ西海岸のハードボイルドが、日活アクション映画みたいになってしまうのだ。現在、それをハドリー・チェイス「ミス・ブランディッシュの蘭」で追体験中である(笑)。

     村上春樹のこなれた文と、チャンドラーの文章力により、やたらと複雑な事件が実にすっきりと頭に入ってきたのは予想外の驚きだった。よくよく考えてみれば破綻寸前のプロットなのだが、読んでいるうちはそれに気がつかない。あらすじをまとめてみようとしてようやくそれに気づく、という按配。それだけに意外な展開を楽しめるのだが。

     もちろん序盤からチャンドラー節は炸裂しまくりである。ワイズクラックをやらせたらこの作家の筆は天下一品だ。チャンドラーの文体は「絢爛な比喩」とかいわれるが、むしろ「芸術的なまでのイヤミの使い方のうまさ」とでも評した方がいいのではないかと思われる。ほんと、このフィリップ・マーロウという探偵、なんでもかんでもイヤミを言わないと収まらない男で、それを「絶対口にしない」のだ。そう考えると嫌な男だなあフィリップ・マーロウってやつ。なんちて。

     ところで高校生のころに探した早川版だが、今調べたら、「そんなものは存在しない」ことがわかった。版権の関係で、東京創元社が翻訳権を占有していたのだ。いま手元にある「東西ミステリーベスト100」ではしっかりと「創元 早川」と書いてあるのに! うぬれ文芸春秋のウンポコチャッピーめ! と思ったのだが、2016年現在では、まったく間違っていない記述だ。先取りしたもの、と評価することにしよう。とほほ。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    ちなみにペギラはペンギンの怪獣。(ウソではない(笑))

    NoTitle

    > そこらへんが村上春樹が嫌いなところで……

    > ペギラ

    あー、いたいた。ペギラ!
    しかし、ペギラって、今その文字を見ると、なんておマヌケな名前なんだろうって(笑)
    (もはや、ゆるキャラレベル!)

    > いっぺんに嫌いになった(笑)。

    あ、なるほど!(笑)
    あー、いえ。ファンじゃないんで、好きでも嫌いでも全然OKなんですけどね。
    ただ、ブリッツさんはどうなんだろう?って、ふと思ったと。

    そうそう、チャンドラーっていえば。
    先週、何を思ったか、唐突に『湖中の女』が読みたい!って、ムラムラ衝動が湧いてきちゃって。
    読むのが楽しみだぜ、レイモンド。 ←病気か!(笑)

    ていうかー。
    先々週だったか、コメントで江戸川乱歩のおススメないですか?って聞いたんですけど、それがどこに書いたか全然わかんなくって(笑)
    もしかして、ブリッツさん、イジワルでコメント消しちゃったとか、ないですよね?(爆)

    Re: ひゃくさん

    多々良島でのチャンドラーは見事なまでのやられ役でしたな。ペギラの改造としては情けないやられかたで。

    村上春樹、訳は読みやすくていいのですが、ちょっと甘めかと。もともと話がちょっと甘めなチャンドラーであれをやると、ハードボイルドよりもネオハードボイルドみたいになってしまうんですよね。

    そこらへんが村上春樹が嫌いなところで……中学のころ「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を読んでいっぺんに嫌いになった(笑)。

    でもチャンドラーを筋を追って読むのにはいいのではないでしょうか。

    NoTitle

    チャンドラーは、何年か前読みましたけど、なんだろ?よくわかんなかったですね。
    というか、チャンドラーというと私はいまだに怪獣の方が先に思い浮かびます(笑)

    何年か前に読んだチャンドラー本も、それこそなんというタイトルだったか憶えてないくらいで。
    でも、ポール・ブリッツさんのこれを読んで、村春訳だったらどうだったんだろう?とも思いました。

    とか言って、そーいえば、ポール・ブリッツさんにとって、村春ってどうなの?っていうのにみょーに興味を持ってしまったり(笑)
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