東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ44位 時の娘 ジョセフィン・テイ

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     浪人中に読んだ。ひさかたぶりの再読である。読みやすいことでは定評のある小泉喜美子の訳だが……想像以上に面白かった。再刊フェアのとき本屋で買っておいてよかった。でもカバーイラストは、旧版のほうがいいと思う。今の、油彩の肖像画をそのまま表紙にしたカバーでは、ちょっと手に取るのに躊躇する人がいるのではないだろうか。かなり苦悩と悲哀がにじんだ顔してるのだ、本書のふたり目の主人公、リチャード三世は。

     ふたり目の主人公というからには本書にも主役の名探偵がいるのであって、それが足の骨折で入院中のグラント警部。ベッドに釘付けで暇を持て余した警部が、ひょんなことから、イギリス王国史上もっとも悪逆非道、残忍卑劣といわれたリチャード三世の名誉を回復するために、持ち込まれる資料をもとに、リチャード三世の犯した最大の罪とされる王子殺害を命じた真犯人を探そうとする、というのが本書の内容である。

     後にリカーディアンという「リチャード三世の名誉回復」を主目的とする学派(!)まで産んでしまったこの小説で展開される推理の精妙さと妥当性と痛快さはおいておくとして、思い出されるのはわが国の高木彬光先生の書いた「邪馬台国の秘密」である。この「時の娘」に刺激された高木先生は「成吉思汗の秘密」「邪馬台国の秘密」と続く、自作の名探偵である神津恭介を主人公にした、「時の娘」とそっくりな設定の歴史推理小説を書くことになるのだが、「邪馬台国の秘密」出版後、松本清張と論争以前の「大喧嘩」をしてしまうのである。そこで松本清張が「邪馬台国の秘密」に向けている批判は妥当で、納得のいくものである。しかし高木先生、激怒してしまった。

     今回、「時の娘」を再読し、小泉喜美子のあとがきを読んで、その高木先生が激怒してしまった理由がわかったような気がした。ジョセフィン・テイはあくまでも「時の娘」で「歴史をミステリの視点から読んでみた」のに対し、高木先生は「歴史にミステリの視点から光を当てた」もっといえば「ミステリの形で学術論文を書いた」つもりでいたのではないか。神のごとき名探偵である神津恭介の推理による歴史解釈は、「決定的」で「真実」で「斬新」なものでなくてはならず、「間違い」だとか「他者の研究の受け売り」だとかであってはならない、そんな思いが高木先生にはあったのではないか。しかも、批判してきた松本清張は、「旧制一高・京大」出身という高学歴の高木先生と違い、たかだか「高卒」程度の学歴しかないではないか! そんなやつが批判するとはけしからん! と。(偏見だ、とファンは怒るかもしれないが、高木先生、そういう側面は絶対あったと思われる)

     史実に対するリカーディアンの主張の妥当性や、主張のオリジナリティはどうあれ、「時の娘」は面白い。それでいいような気がする。ミステリは学術論文じゃないしな。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    なんせ応仁の乱も真っ青な裏切り上等の戦争でしたからねえ……(^_^;)

    薔薇戦争はけっこう海外ではゲームになってるそうですな。三十年以上前のゲームですが、アバロンヒル社の作品は名作だといわれてますね。

    マイナーテーマは大売れはしないけれど、一部の固定客には必ず売れるので、ってシミュレーションゲームファンの裏話してどうする(笑)

    シェークスピアの『リチャード三世』を戦車だの飛行機だの持ち出して忠実に映画化した同名の怪作映画がありますが、面白いので好きです(^_^)

    NoTitle

    これ大好きです!
    おかげでばら戦争のややこしい名前や陣営が頭の中でだいぶ整理されました。

    あくまで小説だからいいのですよね(^-^;
    デイは『私の新説です!』とは言わないのですよね。その謙虚さが心地よいです。
    (でもそれで逆に、暇を持て余した療養中のオジサンの歴史談議と思って読んでたら、実は信憑性あるの?! ってなって好きですが)

    お話として面白い、そこがすごいところだなって思います。
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