ゲーマー!(長編小説・連載中)
1980年(2)
珍しくもないおもちゃだった。いくつかの球とピンボールかパチンコのようなギミックが納められた透明なケースに水を入れて密封し、親指でバルブを押して、水圧を変化させてプラスチックの球をはじき、得点の穴に入れて楽しむ、単純なゲームである。
修也はバルブを押した。水と比重がほぼ同じな球は、ふわふわとケースの中を舞い上がり、ゆっくりと動いて、内部の赤い籠におさまった。
修也はその他愛ないおもちゃの前にいつまでもいた。
これなら、並んだりすることもなく、ひたすら遊ぶことができるからだった。
バルブを押し……離し……押し……離し……。球はゆらゆらと……。浮いては沈み、沈んでは浮き……。
そんな白昼夢をひっくり返す、おそるべきゲームが、すぐそこまで近づいていることに、修也はいまだ気がついていない。
そいつは、ある日突然、テレビのコマーシャルを通じてやってきた。
軽快なメロディと、わかりやすい名前。修也は曲を口ずさみながらデパートに行き、そいつを試すために混雑するおもちゃ売り場に並んだ。
任天堂の名を一気に高からしめた、「ゲーム&ウォッチ」の登場である。
修也がはじめて触れたのは「ファイア」だった。修也は目を見張った。それはあまりにも小さく、軽く、そして……鮮明だった。これまでのテレビゲームの荒いドットや、電子ゲームの光電管ではない、「液晶」の画像のシャープさは、あまりにも衝撃的だった。それを引き立てていたのは、装飾が極限までぎりぎりに削られた機能的で美しいゲーム機本体のデザインだった。「ゲーム&ウォッチ」は、なにもかもが「新しい」ものだったのである。
修也は「GAME A」のボタンを押した。ゲームが始まった。
「ファイア」は、火事で燃え盛るビルから、必死の思いで飛び降りてくる住人を、トランポリンを使って救急車までガイドするゲームである。ゲームに使用するのは、トランポリンを左右に動かす右ボタンと左ボタンだけ。至ってシンプルなゲームである。
だが。
「ファイア」は面白かった!
修也はまだその言葉を知らなかったが、「ゲーム&ウォッチ」はどれをとっても「ゲームバランス」が非常に良好だったのである。やさしすぎるわけでもなく、難しすぎるわけでもない。それによって、どのゲームも、遊んでいて適度な満足感と、「あと少し続けたい」という気持ちとをかきたてるようになっていたのだ。
修也は次々と脱出してくる人間たちを、軽快なブザー音とともに宙に舞わせた。
修也はバルブを押した。水と比重がほぼ同じな球は、ふわふわとケースの中を舞い上がり、ゆっくりと動いて、内部の赤い籠におさまった。
修也はその他愛ないおもちゃの前にいつまでもいた。
これなら、並んだりすることもなく、ひたすら遊ぶことができるからだった。
バルブを押し……離し……押し……離し……。球はゆらゆらと……。浮いては沈み、沈んでは浮き……。
そんな白昼夢をひっくり返す、おそるべきゲームが、すぐそこまで近づいていることに、修也はいまだ気がついていない。
そいつは、ある日突然、テレビのコマーシャルを通じてやってきた。
軽快なメロディと、わかりやすい名前。修也は曲を口ずさみながらデパートに行き、そいつを試すために混雑するおもちゃ売り場に並んだ。
任天堂の名を一気に高からしめた、「ゲーム&ウォッチ」の登場である。
修也がはじめて触れたのは「ファイア」だった。修也は目を見張った。それはあまりにも小さく、軽く、そして……鮮明だった。これまでのテレビゲームの荒いドットや、電子ゲームの光電管ではない、「液晶」の画像のシャープさは、あまりにも衝撃的だった。それを引き立てていたのは、装飾が極限までぎりぎりに削られた機能的で美しいゲーム機本体のデザインだった。「ゲーム&ウォッチ」は、なにもかもが「新しい」ものだったのである。
修也は「GAME A」のボタンを押した。ゲームが始まった。
「ファイア」は、火事で燃え盛るビルから、必死の思いで飛び降りてくる住人を、トランポリンを使って救急車までガイドするゲームである。ゲームに使用するのは、トランポリンを左右に動かす右ボタンと左ボタンだけ。至ってシンプルなゲームである。
だが。
「ファイア」は面白かった!
修也はまだその言葉を知らなかったが、「ゲーム&ウォッチ」はどれをとっても「ゲームバランス」が非常に良好だったのである。やさしすぎるわけでもなく、難しすぎるわけでもない。それによって、どのゲームも、遊んでいて適度な満足感と、「あと少し続けたい」という気持ちとをかきたてるようになっていたのだ。
修也は次々と脱出してくる人間たちを、軽快なブザー音とともに宙に舞わせた。
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名前は聞いたことがありますね。
自分はプレイしたことがなかったのですが。
もっぱら、マリオにはまっていたけど・・・少し時代が違うかな?
自分はプレイしたことがなかったのですが。
もっぱら、マリオにはまっていたけど・・・少し時代が違うかな?
Re: 椿さん
あのころはミッキーマウスのデジタルウォッチ、というだけでステータスアイテムになってましたからねえ。そもそもスヌーピーがあんなクリアでシャープな絵で画面に出てくる、ということが驚きでしたからねえ……。
ゲーム&ウォッチのドンキーコングはよくできてましたな。スイッチを入れてクレーンに飛び移るところではいつもはらはらしたものです。ゲームバランスと面白さと操作性の面では、携帯ゲームではあれがひとつの到達点だったでしょう。あの到達点を突破するのには、ゲームボーイの登場を待たなくてはならないのですが、それは今の話ではありません(^^;)。
ゲーム&ウォッチのドンキーコングはよくできてましたな。スイッチを入れてクレーンに飛び移るところではいつもはらはらしたものです。ゲームバランスと面白さと操作性の面では、携帯ゲームではあれがひとつの到達点だったでしょう。あの到達点を突破するのには、ゲームボーイの登場を待たなくてはならないのですが、それは今の話ではありません(^^;)。
Re: 鍵コメKさん
わたしもゲーセンではパックマンもインベーダーも1面クリアしたことがないです(^^;) あれ難しいよほんと。
だけど他人のパックマンやインベーダーのプレイを3時間ずっと見ていても飽きない、という、そういう人間だったんでしょうね修也くんは(などと人のせいにする(笑))
だけど他人のパックマンやインベーダーのプレイを3時間ずっと見ていても飽きない、という、そういう人間だったんでしょうね修也くんは(などと人のせいにする(笑))
Re: キングハナアルキさん
ファイアは持っておらず、友達のを借りて遊んでましたねわたしは。
しかしここらへんは、まだ「牧歌的」でしたなあ。
1981年になると「あれ」が日本中に洗礼者ヨハネのごとく(笑)
しかしここらへんは、まだ「牧歌的」でしたなあ。
1981年になると「あれ」が日本中に洗礼者ヨハネのごとく(笑)
NoTitle
ゲーム&ウオッチきた! 自分はスヌーピーがテニスするヤツを持ってました。あとドンキーコング(妹のだったけど私の方が長くやってた気がする)。
確かにゲームバランス良かったですね。延々とやってても飽きなかったですものね。
確かにゲームバランス良かったですね。延々とやってても飽きなかったですものね。
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Re: LandMさん
当時はまだアーケードのドンキーコングすら姿を見せておりませんたしか。
ドンキーコングは衝撃的なゲームでしたなあ……。