「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
3 吸血鬼を吊るせ(完結)
吸血鬼を吊るせ 2-25
25
はっと我に返った。ビートルの運転席。遥美奈が心配そうにわたしを見ていた。
時計に目をやる。
「十五分か」
頭を振って身を起こした。疲れた。コーヒーが欲しい。
その前にやることがあった。遥美奈には残酷な話だったが。
携帯を取り出した。本山刑事の携帯の番号を押す。
『おれだ』
「桐野だ」
『自首しに来たのか?』
「タレコミだ」
隣で遥美奈の表情がこわばるのがわかった。
『聞こうじゃないか』
「野村香を見つけた」
『どこで』
「『中川冷蔵』という小さな冷凍倉庫の会社だ。住所をいうよ」
わたしは地図を見ながら携帯に向かって住所を読み上げた。本山刑事は復唱した。
「そうだ。そのとおり」
『今どこにいる』
「その会社の前だ」
『野村香もそこにいるのか?』
「いや。彼女がいるのはたぶん倉庫の中だろう」
『どこでそれを知ったんだ』
「夢のお告げだ」
『動くなよ、桐野。聞きたいことが山ほどある』
「残念ながら、こっちもやらなければならないことがまだ残っているんだ。ご協力できなくてすまん」
わたしは電話を切った。ついでに電源も切る。
「桐野先生! 今の電話は……?」
「聞いてのとおりです。ストリゴイに取り憑かれた香さんは、たぶんこの倉庫の中にいる」
「じゃあすぐに助けなくちゃ!」
ビートルのドアを開けて外へと飛び出しそうになった遥美奈は、わたしが動こうともしない事実に、はっと気づいた。
「先生、まさか……」
わたしは無言だった。これ以上なにをいえというのだ。
「殺したのね」
冷たい声だった。
「あなたは香さんの夢に入って、精神を破壊したんだわ」
そのとおりだ。
「……あなたは医者でも、ナイトメア・ハンターでも、なんでもないわ! あなたはペテン師、いや人殺しよ! 人殺し! 人殺し! 人殺し! なんとかいいなさいよ!」
遥美奈のひとことひとことは、つららでできているかのごとくわたしの胸をえぐったが、反駁することはできなかった。これ以上ないほど正しかったからだ。
「……わたしは仕事を済ませに行きますが、遥さんはどうなさいますか」
「どんな仕事だろうと豚にでも食わせてやればいいのよ」
「ストリゴイに会いに行く、といってもですか」
遥美奈はわたしの顔を三十秒にわたって眺めた。やがて視線をそらすと、シートベルトを締めなおした。
「出して」
わたしはビートルのキイをひねった。わが愛車は、責めるようなエンジン音を立てた。
ミラから坂元開次が走り寄ってきた。
「どうするよ、これから」
「やり残したことをするまでさ。ついてこいよ。これまでのことを全部話そう」
「やり残したこと? なんだそりゃ?」
「ついてくればわかる」
わたしはビートルのアクセルを踏んで、車をUターンさせた。背後で、坂元開次が、遥美奈に軽く頭を下げてミラに乗り込むのが見えた。
わが友人には、いつも益の少ない仕事ばかり押し付けている。やつはわたしの懺悔聴聞僧なのだ。
まずは睡眠を取らなければ。八時間たっぷり眠り、疲れをいやすのだ。
それから……。
ストリゴイの顔を拝みに行こう。
はっと我に返った。ビートルの運転席。遥美奈が心配そうにわたしを見ていた。
時計に目をやる。
「十五分か」
頭を振って身を起こした。疲れた。コーヒーが欲しい。
その前にやることがあった。遥美奈には残酷な話だったが。
携帯を取り出した。本山刑事の携帯の番号を押す。
『おれだ』
「桐野だ」
『自首しに来たのか?』
「タレコミだ」
隣で遥美奈の表情がこわばるのがわかった。
『聞こうじゃないか』
「野村香を見つけた」
『どこで』
「『中川冷蔵』という小さな冷凍倉庫の会社だ。住所をいうよ」
わたしは地図を見ながら携帯に向かって住所を読み上げた。本山刑事は復唱した。
「そうだ。そのとおり」
『今どこにいる』
「その会社の前だ」
『野村香もそこにいるのか?』
「いや。彼女がいるのはたぶん倉庫の中だろう」
『どこでそれを知ったんだ』
「夢のお告げだ」
『動くなよ、桐野。聞きたいことが山ほどある』
「残念ながら、こっちもやらなければならないことがまだ残っているんだ。ご協力できなくてすまん」
わたしは電話を切った。ついでに電源も切る。
「桐野先生! 今の電話は……?」
「聞いてのとおりです。ストリゴイに取り憑かれた香さんは、たぶんこの倉庫の中にいる」
「じゃあすぐに助けなくちゃ!」
ビートルのドアを開けて外へと飛び出しそうになった遥美奈は、わたしが動こうともしない事実に、はっと気づいた。
「先生、まさか……」
わたしは無言だった。これ以上なにをいえというのだ。
「殺したのね」
冷たい声だった。
「あなたは香さんの夢に入って、精神を破壊したんだわ」
そのとおりだ。
「……あなたは医者でも、ナイトメア・ハンターでも、なんでもないわ! あなたはペテン師、いや人殺しよ! 人殺し! 人殺し! 人殺し! なんとかいいなさいよ!」
遥美奈のひとことひとことは、つららでできているかのごとくわたしの胸をえぐったが、反駁することはできなかった。これ以上ないほど正しかったからだ。
「……わたしは仕事を済ませに行きますが、遥さんはどうなさいますか」
「どんな仕事だろうと豚にでも食わせてやればいいのよ」
「ストリゴイに会いに行く、といってもですか」
遥美奈はわたしの顔を三十秒にわたって眺めた。やがて視線をそらすと、シートベルトを締めなおした。
「出して」
わたしはビートルのキイをひねった。わが愛車は、責めるようなエンジン音を立てた。
ミラから坂元開次が走り寄ってきた。
「どうするよ、これから」
「やり残したことをするまでさ。ついてこいよ。これまでのことを全部話そう」
「やり残したこと? なんだそりゃ?」
「ついてくればわかる」
わたしはビートルのアクセルを踏んで、車をUターンさせた。背後で、坂元開次が、遥美奈に軽く頭を下げてミラに乗り込むのが見えた。
わが友人には、いつも益の少ない仕事ばかり押し付けている。やつはわたしの懺悔聴聞僧なのだ。
まずは睡眠を取らなければ。八時間たっぷり眠り、疲れをいやすのだ。
それから……。
ストリゴイの顔を拝みに行こう。
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~ Comment ~
こんばんは^^*
なかなか訪問できず申しわけありませんっっ
なんだかたくさんコメントをいただいたようでありがたいやら申し訳ないやら…お返事も出来ておらずほんとうにすみません(つД`)゜・。・
ようやくストリゴイにたどり着きましたね!
あと7話、集中して読ませていただきます♪
それではまたv
なかなか訪問できず申しわけありませんっっ
なんだかたくさんコメントをいただいたようでありがたいやら申し訳ないやら…お返事も出来ておらずほんとうにすみません(つД`)゜・。・
ようやくストリゴイにたどり着きましたね!
あと7話、集中して読ませていただきます♪
それではまたv
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うまく謎解きができていればいいのですが。
怒涛の第三部をお楽しみください♪
体調を崩されたのならご無理は……。