東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ46位 喪服のランデヴー コーネル・ウールリッチ

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     ウイリアム・アイリッシュ名義の「幻の女」でも有名な、コーネル・ウールリッチのサスペンス小説。これはたしか高校生のころ、受験の重荷から逃避するために古本屋でポケミス版を買ったと記憶している。面白かった覚えはない。読んで、なんて暗くて救いのない話だ、と思い、ストレスがずーんときた記憶しかない。

     四半世紀ぶりに再読である。ストーリーも結末も頭に入っていて面白いのだろうか、しかも好印象な話ではなかったし、などと思いつつ読んでみたら、これがもう、ファミレスの外で雨が降り出したのにも気づかないくらい強烈なまでに面白かった。基本的に、最愛の恋人を殺されて頭のおかしくなった青年の、殺人鬼と化しての壮絶な復讐譚なのだが、襲われる方の視点からサスペンスにしてあるのがミソ。炸裂するウールリッチ節にくらくらしながら、スリルとサスペンスに持っていかれ、中盤からは、「あかん、逃げー! 逃げー!」状態。「志村後ろ後ろ!」みたいなものである。そういうまあこういっちゃなんだがえげつない話が、まるで宝石のような文章で書かれているのだからもうたまらん。若き日の小泉喜美子氏が心を奪われたというのもよくわかる。

     というより、高校生のガキが読んで面白い話ではないのではないか。殺人鬼ジョニー・マーに襲われることになる女性たちの姿や心のうつろいを見ると、これはもう、「大人向け」の話なのである。そのもっともよく表れているところは、第三のランデヴーと第四のランデヴーで、ジョニーが殺害対象の女性に近づいていくところであろう。普通のミステリだったら、巧言令色の技巧をフル活用するところだが、ジョニーはとことんまでに「自然体」で近づくのだ。憎悪を向ける対象が女性本人にあるのではないので、彼女らはジョニーの殺意に気がつかない。死ぬ直前、いや、死んだ後でも、彼女らはジョニーが自分を殺したということに気づかないだろう。そしてその、感情をさらけ出さない荒廃しきったジョニーの心理状態に気づいて慄然とするには、ある程度年齢を踏んでいないといけないのである。

     まあそんなことはどうでもいいか。ページを開いて、星の優しい輝きのようなウールリッチの文章に酔ってみるだけでも、この本を読む価値はある。ジョニーとドロシー、ふたりの愛に満ちたデートを語る第一章、その美しさはウールリッチにしか描けない。そこからあんな残酷な展開に持っていくのだから、小説家というものはむちゃくちゃに屈折していないとできないものなのかもしれない。

     ついでに、心からの忠告をひとこと。飛行機に乗っているとき、窓からものを捨てるのは、あぶないからやめようね。いや、ほんとにあぶないんだから……。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    そこを支えるウールリッチの文章がまた素晴らしいのよね。

    NoTitle

    > ああいう人生における希少な時間を奪われたら、ああいう精神状態になってああいうことをしでかしてしまうというのもわからないではないですね(笑)

    ま…、みんな、そんなもの(笑)

    Re: ひゃくさん

    まあ「逃げ~。逃げ~」なサスペンスなんですけど、そこまで至る偏執というものが高校生にはよくわからない。

    今になってみると、ああいう人生における希少な時間を奪われたら、ああいう精神状態になってああいうことをしでかしてしまうというのもわからないではないですね(笑)

    理不尽な話ではありますが、やはりおもしろいのう。

    Re: blackoutさん

    パッとしない人生を歩んできたせいか、「他者からの評価」に飢えている自覚がありますわたし。

    R指定も恥ずかしがらずにどんっとやっちゃえばいいのかもしれませんが、最初に書いたR指定アニパロ同人誌が読者のひとりの逆鱗に触れ、組んでやっていたサークル主のところに怒鳴り込んできて、えらい迷惑をかけてしまったので、それ以来書こうとすると筆が止まって(^^;)

    えちぃな描写ができるようになったのは二十年過ぎてからでした。それでも「人工衛星」のそれだという、もう書いている自分でもどう説明すれば信じてもらえるかわからない、という(笑)

    ブクマの件は了解しましたです~。

    NoTitle

    > というより、高校生のガキが読んで面白い話ではないのではないか。

    アレは、そう言われると、確かにそうかもしれないですね。
    ま、大人の女性の心情なんて、ある意味男には絶対わからないわけですもん。
    ましてや、日本人の女性ではないわけですもんねー。

    確かに、ストーリ展開とか、登場人物の動きとか、時代を感じちゃうっていうのはあるんだけど、でもそれを補ってあまりある、あの時代らしさの良さっていうのがあって、すごく好きですね。

    NoTitle

    逆を言えば、だからこそポールさんの作品は大衆受けしやすいところがあるのかなって思ったりします

    自分には絶対無理ですね
    アルファポリスで賞を取ったりとかノミネートされたりとかは

    R指定を書くには、ある意味、ワンピースで言うロロノア・ゾロ的な精神が必要ですかねw

    話は変わりますが、今書いてる小説を書き終えたら、他社ブログへ移ろうと思ってます

    理由は、もっと海外の読者を増やしたいということと、自分のサイトとのデザインの整合性が取りやすいからです

    もうすでに立ち上げてて、地味に移行を進めてますので、よろしければ、以下のブックマークをお願いいたします
    http://blackout9999.blogspot.com/

    Re: blackoutさん

    わたしに足りないのは屈折かなあ(笑)。

    R指定は自分が書くには難しすぎるであります。同人誌を二冊が精いっぱい……。

    NoTitle

    そういえば、今自分が書いている小説は、珍しくR指定の要素がなかったりしますが、書いてて思ったのは、季節的にはポールさんが書かれた紅蓮の街の非情の冬に近い状況かも、です(汗)

    で、今回の反動か、多分次回作はR指定ありになる可能性が非常に高いです(汗)

    ええ、屈折というのはその通りだと思います(汗)
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