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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 3-1-1

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    第三部



    「どこまで行くつもりなの」
    「戸乱島まで。全てはそこから始まったのだから」
     ビートルの運転席でそう答えたわたしに、遥美奈は呆れたとでもいいたいような調子で言葉を続けた。
    「この非力な車でそこまで行けると思うの?」
    「戦後ドイツの屋台骨を支えた名車に、なんてこというんだ」
    「悪いことはいわないわ。あたしのプラドに乗り換えましょう。そうすれば、坂元さんもいっしょに乗って行けるわ」
     確かに、悪くない提案だった。わたしは遥美奈のマンスリーマンションに車を向けた。
     飛んで火に入る夏の虫、という言葉を実感したのはその直後だ。駐車場にたどりついて、ビートルを降りたと思ったら、待ち受けていたカメラのフラッシュと突き出されるマイクとが、わたしたちの前に立ちはだかった。
     無視して遥美奈の車へと急いだ。坂元開次は「自分がどれほど罪深いことをしてるかよくわかるってもんだな」とぼやいた。
     わたしたちが車に乗り込むと、群がってくるマスコミ連中をひき殺しかねない勢いで、遥美奈はプラドを発進させた。
    「五時のニュースになるな」
    「のんきなこといってんじゃねえよ」
    「高速を使うわよ。どっちか、カードを持ってない?」
    「ETCカードはビートルの中です」
    「日本じゃ、高速なんて走らねえからなあ」
    「役に立たないわね」
    「坂元、金あるか?」
    「おれにたかるのか」
    「貧乏医者なのでね」
     そうこうしているうちにプラドは料金所をくぐった。遥美奈が料金を支払う。わたしはたかることしかできないらしい。
     高速に乗った。
    「わかっていると思うけれど、そうとうかかるわよ」
    「すみません」
     わたしは後部座席で坂元開次と並んで頭を下げた。遥美奈はまっすぐ前を見ていった。
    「そんなことはどうでもいいわ。『ストリゴイ』に会うっていうのは、どういうことなの? 詳しく説明してちょうだい」
    「そのためには、これまでのことを全て坂元に話す必要があります」
     わたしは、これまで起こったことを、かいつまんで坂元に話した。
    「そうか。それで、その『ストリゴイ』は、いったいどこにいるんだ? 会いに行くんだろう?」
    「そうよ。それを教えてほしいわ」
    「全ては明白だった」
     わたしが盲目だっただけだ。
    「流子さんの絶筆となったエッセイが書くはずだったことはなんだ? 博物館のことを長々と書いて、『なにしろ……』と続けている。当たり前に考えてみれば、答は明らかだ。西方光太郎が婚約者だったことを思い出せば、流子さんが特筆すべきと考えたのは、『博物館の開館前に、羽谷姫のミイラをこの目で見た』ことに決まってるじゃないか!」
    「それで」
    「また、わたしが三度目に流子さん、いやストリゴイに取り憑かれた流子さんの夢に入ったときに見た、鏡のようなガラスの板がある。わたしはそこに自分の姿を見たから、それを鏡だと思ったが、考えてみれば、ガラスの板越しにわたしの姿を見た者の記憶を感じたとしても話は通ずる。そして、ガラスの板越しにわたしを見た者がいるんだ」
     遥美奈は、呟くようにいった。
    「羽谷姫のミイラね」
     わたしはうなずいた。
    「そのとおりだ。もし羽谷姫がストリゴイの正体だとしたら、あらゆることがクリアに見えてくる。なぜ、ストリゴイが今になって蘇ったのかは、羽谷姫が掘り出されたからだし、平安時代に羽谷姫だけがストリゴイを調伏できたのかは、親玉が本人だから当然だ。人柱になったのは、なっても死なないことを知っていたうえ、心臓に白木の杭を打たれることを回避するためだろう。だいたい羽谷姫の経歴自体が怪しい。人柱になったのには、京都や伊勢から、僧侶や巫女がやってくるのを知り、先手を打ったとも考えられる。『調伏図』の画家が受けた神意というのも、もしかしたらストリゴイが憑依しようとして失敗したのかもしれない。あの光景をリアルに見ていたのは羽谷姫だけなんだ」
    「羽谷姫のいるところから遠く離れたこの東京で事件が起きた理由は?」
    「本格的に蘇る前に、現代社会をよく知っておく必要があったからだろう。きっと羽谷姫が人を支配下に置くときの妖力はごく限られた範囲でしか使えないのだろうな。だから香さんを中継基地にする理由があったんだ。香さんを使って血と精気を集めさせ、ある程度集まったところで使い捨てにする。眠ったまま数百年も生きてきたような相手だ、冷凍倉庫に香さんを入れたのも、肉体の保存と精神活動への影響を調べる実験の意味があったのかもしれない」
    「なぜ、その、香さんでなくてはならなかったんだ、桐野」
    「香さんが流子さんの変貌した姿を見ていて、精神的に動揺していたことにつけこんだのだろう。もしかしたら、恐怖のあまり、香さんは羽谷姫のところへ日参していたのかもしれない。今となってはわからない」
    「力はどの程度戻っていると考えられるんだ」
    「かなり再生していると思う。流子さんの精神を乗っ取るにさえ半年以上かかった時点と比較すれば、中継基地である香さんを通してさえも、曲りなりに人間の手駒を扱えるようになったくらいだからな。なによりもの証拠は、冷凍されて数日たつというのに、わたしがまだ香さんの夢に入ることができたということだろう」
    「桐野さんを襲った理由は?」
    「わたしがナイトメア・ハンターだからだろうな。能力を危険と判断したのだろう。もしかしたら東京に出てきたのも、隙あらばわたしを抹殺するのが目的だったのかもしれない」
    「これからどうするよ」
     わたしは目をつむった。
    「西方氏に話をつけて、羽谷姫の心臓に白木の杭を打ち込むか、それとも火葬で天に昇ってもらうか、というところだろう。流子さんの話を持ち出せば、あの人も納得してくれるんじゃないのか」
    「弱いな」
     坂元開次はわたしの隣でいった。
    「それじゃ法廷では通用しないぞ」
    「わたしは弁護士じゃない。ハンターだ。ハンターは自分の直感で獲物を追い詰めるものだ」
    「医者になったりハンターになったり忙しいわね」
    「ダブルスタンダードの非難は甘んじて受けるよ」
    「証拠がないのが痛いわね」
    「小野瀬孝史の身柄を警察が放してくれなかったからな。もっとも、放してくれたとしてもプラスになることを聞き出せたかどうかは疑問だがね」
    「だったらあの倉庫で香さんを警察が発見するまで待ったほうがよかったんじゃなくて?」
    「そうすると、警察で事情聴取を受けているうちに、相手に立ち直りの時間を与えてしまう。それだけは避けたかった」
    「遥さんはこいつの考えをどう思う」
    「本当ならば、イカサマ師のたわごととして聞き捨てるのが正しいんでしょうね。だけど、この人、嘘をつこうとするとすぐに顔に出るたちだから、その顔のほうを信じるわ」
    「ひどい話だな。おい桐野、寝てるのか」
    「さっき、夢に入って精神が疲れた。眠らせてもらうよ。飯を食うことになったら起こしてくれ。遥さん、戸乱島にはいつごろ着くんです?」
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