東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ49位 スイート・ホーム殺人事件 クレイグ・ライス

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     なんというか、もう……つらい。面白いけれどつらい。よくできているけど読んでいてほんとうにつらい。高校生のとき以来の、内容を完全に忘れた上での再読だが、今の齢になって読むとある意味もだえ苦しむ作品。

     隣の家で殺人事件が起きた。捜査にやってきたハンサムな警部さんを、女手ひとつで三人の子供を育ててきた探偵小説作家のお母さんとくっつけよう、さらに殺人事件をお母さんが解決すれば、本も売れてみんな幸せになれる! と奮闘する悪ガキ三姉弟が主人公のコミカルミステリーなのだが、なんというか、作者クレイグ・ライスの、「ひとりの女性」としての心の痛みががつんがつんと伝わってくる一種のファンタジー作品なのだ。願望充足作品ともいえる。

     だって、こんなに親を愛してる子どもなんていないよ!

     クレイグ・ライスはそれを自覚して書いている。それがわかるのがつらい。高校生のころは繰り出されるギャグにげらげら笑いながら読んでいたが、クレイグ・ライスはそういう生活とはまったく縁がなかったからこのようなギャグを書けたのではないだろうかと、今読み返すと思わざるを得ない。

     クレイグ・ライスは、このような子どもたちがほしかったのだろう。このような隣人がほしかったのだろう。このような家庭環境がほしかったのだろう。その飢えがあったからこそ、この作品は作者の代表作のひとつになったのではないか。「楽しくて、しゃれたミステリー」を書くためには、そのような「楽しくて、しゃれた環境」を外部から見つめ、分析する、アウトサイダーとしての目が必要なのではないだろうか。

     小泉喜美子のいうとおり、たしかに『大人の童話』ではある。そして、大人向けであれ、子供向けであれ、『童話』を書くのはそれほど簡単なことではない。うっかりしていると現実に飲み込まれて、童話は単なる教訓話に変わってしまう。クレイグ・ライスもまた、歯を食いしばって『教訓の存在しない話』を書いたのだろう。教訓とは自分の人生の中のイヤなところを圧縮したものだ。そうしたイヤなところから目を背けるのではなく、自分の人生のイヤなところを直視したうえで、注意深くそこを作品から切断する。クレイグ・ライス自身の半生を考えると、よくもここまでそれに成功したものだ、と思わざるを得ない。

     クレイグ・ライスも小泉喜美子も、こんな読み方をすると激怒するだろう。「読者に笑ってもらうために作った笑える作品だから素直に笑えばいいの!」と。ごもっともです。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    ものにもよるでしょうね……。ヴァン・ダインなんて、作者が作り上げた虚像と作品とを切り離すと面白さが半減しちまいますし。あれは高名な美術評論家が余技で書いたミステリだから衒学を楽しめるのであって、そこらへんのバランスが崩れると目も当てられないことに(^^;) 実像を知った上で虚像と作品をセットで楽しむ、というのはありですが、それもそれでうむむ(^^;)

    仁木悦子「猫は知っていた」も、作者実像を知らずに読むのと知ってて読むのでは読書体験として同じなのか、とも思いますしね。

    難しい問題ではあります。

    Re: blackoutさん

    世の中にスーパーヒーロー願望が無かったらヒロイックファンタジーを書く奴はいない、と逆襲するというのはどうでしょう(^^;)

    Re: limeさん

    作者の半生を知らないとその苦みをほんとうに味わえない小説っていうのもあるのではないかと思います。マイケル・ナーヴァがストレートだったら、ヘンリー・リオスものも一挙に魅力を半減させてしまうように。(早く続きを読めって? ハイ……(汗))

    まあわたしの小説も少なからぬ面で願望小説ではあるのですが。

    うむむ。

    NoTitle

    この作品はたぶん読んでいない(あるいは読んだが印象無い)のですが
    今後読む際は、この記事のおかげ(?)でそういう見方もしそうです。
    作品と作者実像は切り離してよいのか
    たまたま今日読んだミステリでそのように感じてました。

    NoTitle

    作者の願望といえば、自分の場合、今別ブログに地味に移行中の「オチユクセカイ」にそれが出てると、とある方から指摘されたことがあります(汗)

    確かに否定できなかった(汗)

    NoTitle

    ああ~、なんかそう言うの分かりますね。
    作者の願望とか見えちゃうと、痛くて辛いというの。
    幸せすぎて、ほんわかしすぎる物語って、年を追うごとに読めなくなっていく気がするけど、それは読者のせいなのか、作者の力量なのか・・・。
    やっぱり本を読むうえで、作家の事は、まるで知らない方がいいのかもしれませんね。性別も含めて。
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