東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ51位 月長石 ウィルキー・コリンズ
これで、このブログ記事も、当初の目標のひとつである「月長石」の感想を書く、というところまで到達したわけだ。一里塚。めでたい。先は長いががんばろう。
で、いきなりだが、ネタバレをする。心の底から素直な態度でミステリとしての「月長石」を楽しみたい、という人は、ここで読むのをやめるように。いったぞ。いったからな。
さて、この「月長石」という小説は、謎解きミステリとして扱われることが多い。エリオットの「最初の、最長の、最上のミステリ」などという評もあるし。そしてそこで必ず「名探偵」として挙げられるのが、ロンドン警視庁のカッフ部長刑事である。苦労人らしい「渋さ」が魅力的な刑事だ。だがしかし、彼を「名探偵」とするのは自分としては反対だ。なぜなら、カッフ部長刑事は、実直な人柄と、証拠に基づいた綿密な捜査と推理の結果、『まったく間違った結論』にたどり着き、物語としては前半三分の一あたりのところで退場(最終盤にたしかに戻ってくるがそこでは顔見せ程度のチョイ役でしかない)してしまうのである。これには再読して愕然とした。
そう、カッフ部長刑事は、イギリスのシリアスなミステリでは初の、『迷探偵』と呼べる存在なのである。話はカッフ部長刑事の退場後も延々と続き、真相を明らかにするのは別の人なのである。ちなみにその真相も、真相の明かし方も、論理的というには、「コリンズちょっと来い。さすがにこれはキレちまったぜ」、という、前世紀的な古臭さどころのレベルではないすさまじい代物なのであった。
要するに、この「月長石」は、「過渡期」の作品なのであり、あくまでも「過渡期」の作品として評価するべきなのである。話の重心はミステリと呼ぶよりもどちらかといえば「綺譚」というほうに近く、どこまでも「エンターテインメント」なのだ。
複数の語り手が交替するが、なんというかその語り手のひとりひとりがまあ、「奇人変人ショー」の出場者みたいなものであり、読み手は上位の中産階級の家で起きた事件の成り行きを無責任に楽しむべきであろう。
そういう意味で、自分としてはこの小説が「東西ミステリーベスト100」に入っていること自体が信じられない思いである。改版された21世紀のバージョンにおいてもまだ入っていることが信じられない思いである。面白いことは面白いが、面白さなら「モンテ・クリスト伯」や「紅はこべ」のほうがはるかに上だし、正直、マニアの自己満足として入ったとしか思えん。邦訳800ページ。無理に読むことは勧めない。
で、いきなりだが、ネタバレをする。心の底から素直な態度でミステリとしての「月長石」を楽しみたい、という人は、ここで読むのをやめるように。いったぞ。いったからな。
さて、この「月長石」という小説は、謎解きミステリとして扱われることが多い。エリオットの「最初の、最長の、最上のミステリ」などという評もあるし。そしてそこで必ず「名探偵」として挙げられるのが、ロンドン警視庁のカッフ部長刑事である。苦労人らしい「渋さ」が魅力的な刑事だ。だがしかし、彼を「名探偵」とするのは自分としては反対だ。なぜなら、カッフ部長刑事は、実直な人柄と、証拠に基づいた綿密な捜査と推理の結果、『まったく間違った結論』にたどり着き、物語としては前半三分の一あたりのところで退場(最終盤にたしかに戻ってくるがそこでは顔見せ程度のチョイ役でしかない)してしまうのである。これには再読して愕然とした。
そう、カッフ部長刑事は、イギリスのシリアスなミステリでは初の、『迷探偵』と呼べる存在なのである。話はカッフ部長刑事の退場後も延々と続き、真相を明らかにするのは別の人なのである。ちなみにその真相も、真相の明かし方も、論理的というには、「コリンズちょっと来い。さすがにこれはキレちまったぜ」、という、前世紀的な古臭さどころのレベルではないすさまじい代物なのであった。
要するに、この「月長石」は、「過渡期」の作品なのであり、あくまでも「過渡期」の作品として評価するべきなのである。話の重心はミステリと呼ぶよりもどちらかといえば「綺譚」というほうに近く、どこまでも「エンターテインメント」なのだ。
複数の語り手が交替するが、なんというかその語り手のひとりひとりがまあ、「奇人変人ショー」の出場者みたいなものであり、読み手は上位の中産階級の家で起きた事件の成り行きを無責任に楽しむべきであろう。
そういう意味で、自分としてはこの小説が「東西ミステリーベスト100」に入っていること自体が信じられない思いである。改版された21世紀のバージョンにおいてもまだ入っていることが信じられない思いである。面白いことは面白いが、面白さなら「モンテ・クリスト伯」や「紅はこべ」のほうがはるかに上だし、正直、マニアの自己満足として入ったとしか思えん。邦訳800ページ。無理に読むことは勧めない。
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Re: 面白半分さん
たぶん前半だと思われます。
前半の方が、カッフ部長刑事含めて奇人変人度が高いのであります。
真相しょぼいもんな。
前半の方が、カッフ部長刑事含めて奇人変人度が高いのであります。
真相しょぼいもんな。
NoTitle
おおー調べさせちゃって申し訳ありません!
実は少年探偵団シリーズは合わなかった、というか表紙でもうダメだったので、小学生の時は読んでないんです。(大人になってから何冊か読んだ)
登場人物は外人だった気がするのですよね……
あ、ただ。自分、その年ごろ(十歳くらい)に、十くらい年上のイトコから『もう児童書は読まないから』って大量に本をもらったんです。
ホームズとかともその時に出会ったから、もしかしてその中に混じっていた本と混同してるかも? とは今思いました。
イトコの本だったら、雄鶏版の可能性も有るかもです。
でも水谷準『魔の宝石』も気になりますね……タイトルは『魔の宝石』で、中で『月長石』って出てくれば混同してるかも?
月長石は確実に出てきたと思うんです。その頃、家にあった鉱物図鑑を見るのが好きで(ヘンな女子小学生だな;;)、『月長石ってどんな石だろう?』と調べた記憶があるので。
わずらわせて申し訳ありません;; 古本市場は本当に泥沼(^-^;
実は少年探偵団シリーズは合わなかった、というか表紙でもうダメだったので、小学生の時は読んでないんです。(大人になってから何冊か読んだ)
登場人物は外人だった気がするのですよね……
あ、ただ。自分、その年ごろ(十歳くらい)に、十くらい年上のイトコから『もう児童書は読まないから』って大量に本をもらったんです。
ホームズとかともその時に出会ったから、もしかしてその中に混じっていた本と混同してるかも? とは今思いました。
イトコの本だったら、雄鶏版の可能性も有るかもです。
でも水谷準『魔の宝石』も気になりますね……タイトルは『魔の宝石』で、中で『月長石』って出てくれば混同してるかも?
月長石は確実に出てきたと思うんです。その頃、家にあった鉱物図鑑を見るのが好きで(ヘンな女子小学生だな;;)、『月長石ってどんな石だろう?』と調べた記憶があるので。
わずらわせて申し訳ありません;; 古本市場は本当に泥沼(^-^;
NoTitle
大昔に分厚い創元推理文庫(確か黄色いカバーだった)で読みました。
内容は全く覚えていないのですが前半か後半かどちらかのみがやけに面白かったという印象が残っています
内容は全く覚えていないのですが前半か後半かどちらかのみがやけに面白かったという印象が残っています
- #17864 面白半分
- URL
- 2016.09/25 17:50
- ▲EntryTop
Re: 椿さん
いろいろと調べてみると、どうも水谷準の「魔の宝石」(昭和32年初版)に違いない、と思うのだが、現物にあたれないのがつらい。
まんだらけで買い取り価格28000円ってなんだよ(^^;)
まんだらけで買い取り価格28000円ってなんだよ(^^;)
Re: 椿さん
Re: 椿さん
思うんですが、江戸川乱歩の「少年探偵団」と記憶が入り交じっているのじゃないんですか?(^^)
あれにものろいの宝石を狙う謎のインド人出てきますし。
ああ、少年探偵団と明智探偵をあざ笑うインド人の正体は誰なのでしょうか。
続きは青空文庫で(^^)
http://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card56669.html
あれにものろいの宝石を狙う謎のインド人出てきますし。
ああ、少年探偵団と明智探偵をあざ笑うインド人の正体は誰なのでしょうか。
続きは青空文庫で(^^)
http://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card56669.html
NoTitle
月長石―!!
……小学校高学年の時に教室の後ろに置いてあった学級文庫で読んだと思ったのは気のせいなのだろうか……(-_-;)
古本で検索してもそれらしいのにヒットしません。
でも『月長石』っていう言葉、この本で知った気がするのですよね。そしてインドの神殿で崇拝されていた石が盗み出されて、その石をめぐってどこまでも謎の影が追ってくる……とかやっぱりこの話な気が。
推理というより冒険ものなオチだった気がします。(最後どうなったかさっぱり覚えていませんが)
うーん雄鶏社のこれか……? しかし昭和25年初版のものが70年代の小学校の学級文庫にあるのだろうか……
何かこっちの方がミステリーな気がしてきました(^-^;
それはともかく、もう一回読みたくなりました、この本(笑)
……小学校高学年の時に教室の後ろに置いてあった学級文庫で読んだと思ったのは気のせいなのだろうか……(-_-;)
古本で検索してもそれらしいのにヒットしません。
でも『月長石』っていう言葉、この本で知った気がするのですよね。そしてインドの神殿で崇拝されていた石が盗み出されて、その石をめぐってどこまでも謎の影が追ってくる……とかやっぱりこの話な気が。
推理というより冒険ものなオチだった気がします。(最後どうなったかさっぱり覚えていませんが)
うーん雄鶏社のこれか……? しかし昭和25年初版のものが70年代の小学校の学級文庫にあるのだろうか……
何かこっちの方がミステリーな気がしてきました(^-^;
それはともかく、もう一回読みたくなりました、この本(笑)
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Re: 椿さん
……ウソです(^^;)