吸血鬼を吊るせ 3-3

３

　新聞記事は、二人がいったことを裏付けていた。一面こそ、国会の新法制定問題に当てられていたものの、社会面は数段ぶち抜きでセンセーショナルに報じていた。わたしの顔や名前は出ていなかったが、坂元開次がいうとおり、このままでは全国にこのまずい顔がさらされるのも時間の問題だ。
　今の時間帯に開いている店のうち、熱いコーヒーが飲める店ということで、最寄りのジョナサンに入った。朝食にしてはヘビーかもしれないと思ったが、ゆうべはろくに食べていないのだ。わたしは欠食児童のようにがつがつ食い、遥美奈の眉をひそめさせた。
「船が港を出るのはいつごろです？」
「七時五十二分。遅くとも九時までには戸乱島へつけるわ」
「だったらまだ時間はあるな。用意しておきたいものがありますが、二十四時間営業のホームセンターみたいなものはありますか？」
「これがほしいの？」
　遥美奈は助手席から袋を取り上げた。わたしは受け取って中を確認した。
　白木の細長い杭とハンマー、それにニンニクだった。
「よくわかりましたね」
「これから吸血鬼退治に行くんですものね。でも、十字架は宗教が違うから効かないと思うし、銀の弾丸は銃刀法にひっかかるしで、結局あきらめざるをえなかったわ」
「やつにニンニクは通用するんですかね」
「気休めよ。効果がなかったらあたしが料理に使うわ」
　相手はすでにミイラになっている、といおうとしてやめた。
「この杭は？」
「葬儀の品を取り扱っている店をたたき起こして手に入れたんだ。霊験はどうだか知らないが、ヴァンパイア・ハンターの真似をするにはもってこいだぜ」
　そういえば、戸乱島では白木の杭を埋葬時に使うといっていたな。
「じゃ、このコーヒーを飲み終わったら埠頭へ行くことにしましょう」
　わたしはコーヒーの残りをぐいっと飲み干した。