東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ53位 災厄の町 エラリイ・クイーン

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     この強烈な真相を忘れて読めというほうが無理な作品。というわけで、大学時以来ひさびさの再読であるが、犯人もトリックも全部覚えており、本格ミステリとしてのまっとうな楽しみ方はできなかった。

     そのかわりに思ったのが、クイーン先生、苦労してたんだなあ、ということである。トリックと趣向自体はそれこそ短編を支える程度だと思う。しかし架空の町ライツヴィルとそこに生きる人間たちの生態を克明に描くことにより、それを感じさせない。チャンドラーの描く西海岸が、「表面は清潔だが一皮むけばはした金で町ぐるみ買える」悪の温床だったのに対し、この作品でのライツヴィルは、「表面は平和な田舎町だが、ひとたび町の平穏が乱されれば即座に乱したものを排除にかかる」とんでもない閉鎖性と残酷さを持ったアメリカ社会の縮図であるのだ。

     クイーンはそこを舞台に陰惨そのものの話を展開する。ここには快刀乱麻を断つ、神のごとき名探偵は登場しない。事件が起こるのに気づきながらもそれを止めることはできず、しかも真相を発見したときにはすでに手遅れ、という孤独なアウトサイダーであるエラリイ・クイーンがいるだけだ。

     そこまでに「ハードボイルド小説」の影響は強かったのだろう。この「災厄の町」には、なんとかハードボイルド小説の精神を、自作を壊さないように取り込もうとするクイーンの悪戦苦闘が見て取れる。嫌いないいかただが、「人間を描こう」と懸命にあがくクイーンの姿が見て取れるのだ。

     クイーンの努力はある程度成功したといえるだろう。実際に、この小説は「面白い」からだ。読み始めたらやめられなくなることうけあいである。

     しかし……昔の神のごとき名探偵だったエラリイなら、この事件の真相をひと目で見ぬいて、この最悪の結末だけは招かなかったのではないか、とそう思えるのも事実。

     「上質なミステリーを」と新雑誌「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」を編集していくうちに、ミステリ黄金時代の作品の限界を思い知らされたのだろうか。そんなことまでも考えてしまう……というのはクイーンに対して悪いかもしれぬ。そんなことを考えなくても、この「災厄の町」はサスペンスフルで非常に面白く、結末であっと驚くので、未読のかたは、本屋ででも見かけたらぜひどうぞ。クイーンの組み上げた謎と論理を楽しんでください。
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