東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ54位 ウィチャリー家の女 ロス・マクドナルド

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     去年だったか、「さむけ」といっしょに図書館に取り寄せてもらって読んだ。個人的には「さむけ」よりも面白いと思う。

     今にして考えるのだが、ロス・マクドナルドは本書で単なるハードボイルド作家の枠を飛び出しアメリカン・ノヴェリストの仲間入りをした、という評価だが、それは正鵠を射ているのだろうか。大胆どころか荒唐無稽すれすれのトリックを駆使して、描き出した「ウィチャリー家の女とそれを取り巻く男たちの心の闇」はたしかにはっとするようなビジョンを我々の前に見せてくれるが、それを「ハードボイルドの主流文学への接近」と考えるのはどうかと思える。評価としては、この作品により、「インテリにもウケるハードボイルドの定型」が確立した、というのが正しいのではないか。もっといってしまえば「インテリが自分を韜晦せずに日の当たるところで堂々と読めるハードボイルド小説の定型」の確立である。

     「インテリには大っぴらに読めないハードボイルド」の典型は、ミッキー・スピレインの「裁くのは俺だ」に始まる一連のマイク・ハマー・シリーズと、リチャード・スタークの「人狩り」に始まる一連の悪党パーカー・シリーズであろう。マイク・ハマーは「考えない」「行動する」「殴る」「撃つ」探偵であり、そこには「アメリカ社会の暗部を描こう」という態度はみじんも見られない。かたや悪党パーカーは、冷徹なまでのプロの犯罪者であり、ひたすらカネのためだけに「仕事」をこなす。「アメリカ社会の暗部」など知ったことか、と機械のごとく強盗事件を企画立案実行し、そして成功する。アメリカの刑務所の受刑者に熱狂的なファンを持ち、中には暗唱するやつまでいたそうだ。

     そう考えると、ロス・マクドナルドがアメリカのハードボイルド小説で占める位置は、日本でいえば「社会派推理小説」そのものであるのかもしれない。「低俗な読み物」でしかなかった日本の探偵小説を、真の意味で社会の幅広い層に開放した松本清張。大胆なトリックをもって社会悪をあぶりだすあの一連の小説群。

     ロス・マクドナルド以降のアメリカのミステリがロス・マクドナルドの影響なしでは考えられなくなってしまったのも事実であるし、松本清張以降の日本のミステリが松本清張の影響なしでは考えられなくなってしまったのも事実だ。ミステリを読むに当たってもわれわれは人間たちのドラマと社会悪とに向き合わねばならず、それは新本格のワンアイデアストーリーだろうとライトノベルだろうと変わることがないのである。

     読者としては面白ければいいんだけどね。本書も掛け値なしで面白いから読みましょう。
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