東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ54位 ギリシア棺の謎 エラリイ・クイーン

     ←1982年(6) →1982年(7)
     しかし昔の日本のミステリファンにはやたらと人気があるなエラリイ・クイーン。これで何作目だ、と思うくらいやたらと入っているなあ。

     この「ギリシア棺」には何度か挫折している。最初に挫折したのは中学生の時。第一幕で疲れきり、読むのをやめて冒険小説の方へ行ってしまったのだ。それだけ論理パズルが濃厚なのであるが、もうひとつ、最近知ったのだが、『共感性羞恥』というものがあるらしい。要するに、テレビ番組や舞台劇で、登場人物が恥をかいたり状況が悲惨なものになったりするだろう、と予測すると、あたかもその登場人物になったかのように自分も恥をかいたり悲惨な状況におかれたかのごとき心的反応を見せる心理状態のことだそうだ。この小説を読んでいる最中のわたしはまさにそれだった。

     あのエラリイが! あの神のごとき名探偵エラリイ・クイーンが、得意げに組み上げた論理でもって、この本では三度も失敗をするのだ! それが頭にあったため、第一幕でエラリイが推理を披露しようとすると、「あかん! エラリイ、あかん! それは完全に間違った推論や!」と頭に血が上り、昔のマンガ「いけない! ルナ先生」のごとく「推理を間違える → 犯人を逃がす → 警察から総スカンを食らう → 死」という具合に脳味噌の中で論理的連関が炸裂し、結果として本を閉じてしまう、という……わかる人にしかわからんなこの感覚は。

     まあそういうわけで、読もうとしては挫折、を高校、浪人、大学と繰り返し、結局最初に読了したのは学業をあきらめた東京在留中の最後の年だった。そのときは筋を追うのが精一杯という精神状態だったため、かえって読めたのだが、それゆえにすっかり内容を忘れてしまっていた。

     あれから二十年、思いきって再読すると、よくできた面白い謎解きミステリの佳品だった。だが、文春の「東西ミステリーベスト100」の86年版の「うんちく」はしゃべりすぎである。あれを読んでちょっと考えると、犯人の見当がついてしまう。「犯人の見当がついた」後で読み進めると、非常に読みやすい本である。巧妙なロジック、意外な真相、実に楽しいのだが、その楽しさのためには最後の謎解きまで読まないといけない、というのは、昔の分厚い謎解きミステリの魅力でもあるし難点でもあるなあ。

     クイーンの国名シリーズ中最長の作品であり、忍耐力と体力がある人におすすめ、というタイプかもしれない。いや、分量的には「月長石」の半分かそこらだから、そう怖がることもないでありますよ。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    世界名作劇場の時間なんてまさに地獄でした(笑)。

    「自分の部屋」と「両耳用イヤホン」と「ラジカセ」を持つことでようやく安寧に浸ることが可能になったであります。

    そしてやることはもちろん読書かゲーム、という……人をオタクに育てるには幼少期からそういう精神状態に常に追いやるのが一番ですな(笑)。

    NoTitle

    クイーンにはちょっと苦手意識があり、二冊くらいしか読んでいないのですが……これは何だか面白そうだなあ。今度読んでみようかなあ。

    『共感性羞恥』という言葉は初めて知りましたが、すごく分かりますその感覚! 
    主人公が失敗してみんなに後ろ指をさされたり、いじめに遭ったりする展開が昔からすごく苦手で;; 正に、自分がそうされてるような気分になっていたたまれなくなっちゃうんですよね(^-^;

    本なら閉じれば済むんですが、テレビとかの方がきつかったなあ。
    おかげで子供の時、見られなかった人気番組がいっぱいあります(笑)
    昔の子供番組ってそういう展開が多かったから……;; 

    Re: limeさん

    中学生で読み切りましたか。さすがです。

    最近古いのを読み返していますが、「温故知新」ってほんとうですね。

    当時読み飛ばしていたことが今にしてみるとけっこう面白かったりするのであります。

    さて明日もサイゼリヤで楽しくミステリ読んで来よう♪(←迷惑……(^^;))

    NoTitle

    これも、中学生の頃に読み切った記憶はあるのに、内容をまるで覚えていない(涙)
    今読むと、思い出すのかなあ。
    昔は、エラリーが失敗しそうになる感覚も、楽しみながら読んでいました。根っからのSだったようです。

    Re: 面白半分さん

    その失敗するエラリイの推論がまた魅力的で、普通のミステリファンやミステリ作家なら「その説でいいじゃん!」と思ってしまうほどできがいいです。

    そこらへんがヴァン・ダインとの差でしょうか。

    「月長石」は厚いけど、奇人変人ショーの部分がやたらと大きいからなあ。(笑)

    NoTitle

    これは読んでいないのであります。
    3回も失敗するのか。むしろ楽しみの感あり。

    ”分量的には「月長石」の半分かそこらだから”
    このフレーズ最高です。
    通じる人は少なくなってきているでしょうが妙に嬉しいです
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