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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    3 吸血鬼を吊るせ(完結)

    吸血鬼を吊るせ 3-5

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    「桐野!」
    「桐野さん!」
     坂元開次と遥美奈の声で我に帰った。
    「大丈夫ですか、桐野先生。やはり、このミイラは火葬にすべきでしょうか?」
     西方光太郎がおろおろとした声でいった。
    「ああ……大丈夫です。羽谷姫の思念は破壊しました。思ったより、手ごたえがない相手でしたね」
     手ごたえがない?
    「しかしそれでも、うちの博物館で、危険なものを展示していては、イメージにさしさわりが……」
     わたしたちの背後、階段を背にしながら、西方光太郎が例の調子でいった。
     わたしはそれどころではなかった。頭がフル回転してぶんぶんいうのがわかる気がした。新たなピースの登場で、ジグソーパズルがまったく違う様相を呈してきたからだ。
    「大切な発掘物を破壊するのにずいぶんと即断即決するものですね」
    「え……?」
    「おい、桐野」
     わたしは一歩前に出た。
    「ここへ来て、羽谷姫のミイラに、かつてのような重々しさがなくなっていることに気づきましてね。さっきの相手に手ごたえがなさすぎたことを含め、もう一度考えてみたんです。思い直してみると、さっき羽谷姫について述べたことのいくつかはそのままあなたにも当てはまる」
    「…………」
    「遥流子さんに最初に羽谷姫のミイラを見せたのも、野村香さんをここに連れてきたのも、あなたなのではなかったのですか? すでに羽谷姫の身体はただのぬけがらなのでは? いや、あなたがストリゴイなのでは?」
    「なにをいっているのよ!」
    「いや、いいんです」
     遥美奈の抗議の叫びに、西方光太郎は落ち着いた声で答えた。
    「今、桐野さんが述べたことは……」
     急に声のトーンが変わった。
    「正解なのですから」
     西方光太郎の形相が一変した。
     そこにいたのはもう、茫洋とした学究ではなかった。美しい容貌の中にどこか悪魔的なものをたたえた、一人の……魔人だった。
    「桐野」
     坂元開次が硬い声でいった。
    「西方先生!」
     遥美奈が絶望的な声で叫んだ。
    「この男は……病んでいた」西方光太郎、いやストリゴイは淡々といった。「初めて見たときからよくわかった。学界……でいいのか? のある中央を離れて、このような辺鄙な島の学芸員であることにひどい苛立ちを持っていた。もちろん、そういう考えは内面に押し込めるくらいの如才なさはあったが。最初にこの男が我を再び掘り出したときに心の内面に接触したところ、この男はためらいもせずに、自分の嫁となるべき女を差し出した……その後はお前たちも知っているとおりだ」
    「お姉ちゃんを!」
    「野村香という手駒がこうまで簡単に発見されてしまったのは誤算だった。しかし、それでも、この羽谷姫の身体に半分入った状態から、完全に脱け出すことができるまでに、血と精気を集めることができたのであるからまあよしとしよう。我は新たな身体を求めた。そのときには、この男は我のものとなるのに絶好の状態となっていた」
    「そんなことをしゃべってどうするつもりだ」
    「完全ではないが、我は今や一人二人といわず、いくらでも手駒が作れる段階まで回復した。食物連鎖という言葉があるそうだな。だが、食料となるべき人間をここまで持ってくるには人手がいる。お前たちにはその尖兵となってもらおう」
    「防犯カメラがあるぞ」
    「お前たちが来た時点で故障させてある」
     西方光太郎、いや吸血鬼ストリゴイは笑い、両腕をすっと前に上げた。そのまま前に進み出てくる。わたしは思わず一歩後退した。
     後退するよりも相手が前進してくるほうが速かった。西方光太郎の手がわたしの肩にかかる。振りほどこうとした。
     ほどけなかった。
     そうだ、野村香に憑依された、まだ高校生の小野瀬孝史でさえ、あれほどの力を持っていたし、本体の支配下にあった遥流子などは、長いこと病床にあったにもかかわらず、わたしの右腕をへし折り、男二人(西方光太郎は本気でかかっていったのか今となっては疑わしいが)が取り押さえようとしたのを苦もなく弾き飛ばしていたではないか。
     わたしの頭に手がかかり、左に強く押し倒された。むき出しになった首筋に、西方光太郎の息がかかる。
     がくん、という衝撃とともに、のしかかっていた身体が崩れ落ち、わたしは自由になった。横を見ると坂元開次がハンマーを持って立っていた。こちらの頚動脈を噛み切ろうとしていた西方光太郎の頭を、遥美奈から受け取ったそれで思い切り殴ったらしい。過激なことをする男である。
     わたしは周囲を見渡し、武器を探した。西方光太郎は立ち上がりかけている。早くなにか見つけなければ。
     視界の隅にあるものが目に留まった。消火器だ。わたしは駆け寄ってひっつかむと、ピンを抜いてホースを延ばした。
    「どけ、坂元!」
     レバーを押した。真っ白で異臭を放つ粉末が、猛烈な勢いで噴き出す。西方光太郎が、両目を押さえて咳き込んだ。
    「遥さん、今のうちに一階へ!」
     だが、遥美奈は足がすくんで動けないようだった。
    「坂元、遥さんを!」
     だが、坂元開次はそれとはまったく別なことを考えていたのだった。ハンマーを口にくわえながら、粉塵をものともせずに突進し、全体重をかけて手にした長細いものを柄も通れとばかりに西方光太郎の胸に突き刺したのである。
     それは白木の杭だった。
     二人はもつれあうように倒れ、坂元開次は口のハンマーを右手で持ち替えると、猛烈な勢いで、相手の胸に杭を打ち始めた。西方光太郎は激しく暴れたが、消火剤と胸の傷のおかげで力が入らない。こうなっては戦場カメラマンの膂力のほうがものをいった。床に舞い落ちた白い粉末を、杭を打たれたところから吹き出してくる赤黒い血が染めて行く。
     消火器の中身はもう空になっていたが、わたしはレバーから手を離すのも忘れて、その光景を見つめていた。
     西方光太郎が断末魔の悲鳴を上げた。
     その中から、わたしはぱちぱちという音を聞いた。
     なんだ?
     西方光太郎の髪の毛から、火花が散っていた。
     ショウケースの中の、羽谷姫のミイラも、足元から小さな炎が上がっている。
    「ずらかるぞ、坂元!」
    「え?」
    「ストリゴイの肉体が灰と化すんだ! 燃えるんだよ! 下手したらここは火の海になるぞ!」
     そんなことをいっているうちに、二人の吸血鬼の身体の炎は、かなり大きくなっていた。
     消火しようにも消火器はすでに使ってしまっている。
    「早くしろ、階段を駆け上がれ!」
     わたしと坂元開次は、遥美奈を引きずるようにして一階へと逃げ出した。
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