東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ60位 死にゆく者への祈り ジャック・ヒギンズ

     ←1983年(3) →1983年(4)
     中学生のみぎり、初めて読んだヒギンズである。もちろん、文春の86年版「東西ミステリーベスト100」にあらすじつきの解説が載っていたからだが、これがいい。すごくいい。読み終えてしばらくは、IRA(アイルランド義勇軍)を脱退したひとりのもとテロリストになったつもりで深刻な顔をしつつ学校から帰ったものである。

     なんたって表紙のイラストからしてかっこいい。生頼範義先生入魂の一枚で、緑を基調とした中に黒服の神父姿の男(主人公のマーチン・ファロン元IRA中尉)が銃を構えている。逃亡資金を得るために、引き受けた暗殺仕事を遂行するその一瞬をまさに切り取ったかのようで、今見てもほれぼれする。新版では映画のせいでこのイラストがミッキー・ロークのアップになっており、「ミッキー・ロークのどこがマーチン・ファロンなんだよ!」と高校の先輩と盛り上がったものだ。

     このマーチン・ファロンというのが気の毒な男で、生まれた北アイルランドで、プロテスタントのイングランド系住民との抗争の中で銃を取り、天才的な射撃手としての才能が開花し、テロリストになって爆弾闘争に参加し、ベルファストの死刑執行人と呼ばれるほどの凄腕になったのだが、誤ってスクール・バスを爆破して大量の子供を殺してしまい、IRAの大義に幻滅して脱退し、いまは警察とイングランド系の過激派とIRAの三方から命を狙われ追われることになってしまったのだ。そうなる以前は、これまた天才的なオルガン奏者として大学に進み、音楽で博士号を取った経歴の持ち主で、かかわりを持ったダコスタ神父とその盲目の姪アンナの前で、バッハのフーガをみごとに演奏してのけるという面も持っている。

     これまでの人生で理想とか大義とかに一切の信頼を置かないニヒリストになってしまったファロンが、暗黒街に君臨する、「英国版アル・カポネ」との異名をもつ、表向きは葬儀屋の社主であるジャック・ミーアンと対決することになるのだが、このミーアンという男も、ねじくれているが一本筋の通ったモラルと妙な諧謔精神を持った男で、まあ、面白い男であるわけだ。

     そんなハードボイルド小説にはお決まりの登場人物……と書いていて気がついたのだが、この小説、「悪女」がいない! そういやあヒギンズの小説でもライアルの小説でも、「悪女」というのが出てきた覚えがない……ここらへんを追求するとジェンダー論が一冊書けるのではないだろうか。それとも「悪女」が出てくる作品を避けるのは、ミステリファンとして票を投じた男たちが無意識のうちにそのような小説を避けている、ということの証明なのだろうか……。などと変なことを考えた。面白い小説なのに。
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