ゲーマー!(長編小説・連載中)
1982年(6)
シンクレア社のZX-81は、超低性能超低価格を売り物にしていたパソコンだった。海外では、それまでのパソコンが最低でも260ドルはしていた中に、99ドル95セントで売り出されたのである。当時のドル円の為替レートが約240円なので、単純計算すると24,000円。アメリカ人やイギリス人の感覚だともっと安かったのではないだろうか。パソコンのイメージを作ったアップル社のアップルⅡが1330ドルであることを考えると、それこそ比較にもならない低価格だった。海外では生産が追い付かないほど、まさに飛ぶように売れていた。
それだけにその低性能ぶりも際立っていた。低価格を実現するために、削れるものはすべて削り、削ってはいけないものまですべて削ってしまったのだ。家庭用のテレビにつないで、BASICのプログラムを実行することができるが、増設しない限りRAMはわずか1KB。1KBである。ショートショートを一本書いたらそれだけで埋まってしまうようなメモリしかない。外部記憶装置はテープレコーダーのみ。フロッピーディスクなどはじめから想定していない。画面は白黒で、グラフィック機能は、シャープのMZシリーズのように出来合いの文字や記号を用いて表示させるしかなかった。自分で記号を自作するための機能など、存在するわけもない。音楽どころかビープ音も出ない。キーボードはタッチ式といえば聞こえはいいが、ブラインドタッチでキーを押すことなど不可能な代物だった。そんなことまで修也は知るわけはなかったが、それでもすさまじいまでに性能が限定されていることくらいはわかった。
だが、修也にとって問題は自分に買えるかどうかである。35,800円という値段は小学生には非常に魅力的に思えた。そもそも、ほかに選択肢があるというのか?
修也がある種の先入観に支配されていたことは否めない。おもちゃ屋で売っているゲームパソコンよりも、この「マイコン入門」の広告に載っているパソコンの方が、高性能だろうと考えてしまっていたのだ。純粋に価格と機能とで比較するのなら、ZX-81よりもMAXMACHINEのほうが音が出て色が出てスプライトが動いて、と遥かに高性能だったのだが、修也はMAXMACHINEがいくらするのか正確なところを知らなかったのである。
修也は爪に火を灯すような、ひと月数百円ずつの貯金を開始した。
修也にとって、問題はもうひとつあった。
その、唯一買えそうなパソコンであるZX-81は、いったいどこで買えるのか?
そもそも、パソコンというのはどこで買えるものなのか? 電気屋さんといえば近くにある小さな店舗というのが当たり前で、大型電気店というものは東京くらいにしか存在しない中、修也とパソコンとの距離は、絶望的なまでに遠いように見えた。
それだけにその低性能ぶりも際立っていた。低価格を実現するために、削れるものはすべて削り、削ってはいけないものまですべて削ってしまったのだ。家庭用のテレビにつないで、BASICのプログラムを実行することができるが、増設しない限りRAMはわずか1KB。1KBである。ショートショートを一本書いたらそれだけで埋まってしまうようなメモリしかない。外部記憶装置はテープレコーダーのみ。フロッピーディスクなどはじめから想定していない。画面は白黒で、グラフィック機能は、シャープのMZシリーズのように出来合いの文字や記号を用いて表示させるしかなかった。自分で記号を自作するための機能など、存在するわけもない。音楽どころかビープ音も出ない。キーボードはタッチ式といえば聞こえはいいが、ブラインドタッチでキーを押すことなど不可能な代物だった。そんなことまで修也は知るわけはなかったが、それでもすさまじいまでに性能が限定されていることくらいはわかった。
だが、修也にとって問題は自分に買えるかどうかである。35,800円という値段は小学生には非常に魅力的に思えた。そもそも、ほかに選択肢があるというのか?
修也がある種の先入観に支配されていたことは否めない。おもちゃ屋で売っているゲームパソコンよりも、この「マイコン入門」の広告に載っているパソコンの方が、高性能だろうと考えてしまっていたのだ。純粋に価格と機能とで比較するのなら、ZX-81よりもMAXMACHINEのほうが音が出て色が出てスプライトが動いて、と遥かに高性能だったのだが、修也はMAXMACHINEがいくらするのか正確なところを知らなかったのである。
修也は爪に火を灯すような、ひと月数百円ずつの貯金を開始した。
修也にとって、問題はもうひとつあった。
その、唯一買えそうなパソコンであるZX-81は、いったいどこで買えるのか?
そもそも、パソコンというのはどこで買えるものなのか? 電気屋さんといえば近くにある小さな店舗というのが当たり前で、大型電気店というものは東京くらいにしか存在しない中、修也とパソコンとの距離は、絶望的なまでに遠いように見えた。
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NoTitle
『削ってはいけないところまで削った』で吹きました。時々ありますね、そういう製品(^-^; いくら安くてもどーせーっちゅうじゃ、みたいな。
修也くん、健気ですが報われるのでしょうか……
がんばれ……
修也くん、健気ですが報われるのでしょうか……
がんばれ……
Re: LandMさん
ここからが修也くんの本気のズブズブの始まりなのであります。物語的にはまだ「序章」にすぎませんしねえ。長い序章もあったもんですが。
Re: 宵乃さん
音楽映画特集ですか。
それじゃ「サウンド・オブ・ミュージック」でも久しぶりに見ようかな。
……我ながらウソくさい(笑)。
ZX、1KBといってもホビーユースだったらいろいろとできるんですよ。
わたし今になってYoutubeで動画見て感動しています(^^)
それじゃ「サウンド・オブ・ミュージック」でも久しぶりに見ようかな。
……我ながらウソくさい(笑)。
ZX、1KBといってもホビーユースだったらいろいろとできるんですよ。
わたし今になってYoutubeで動画見て感動しています(^^)
NoTitle
確かに昔は大型量販店はなかったからなあ。。。
パソコンを買えるだけでも裕福でしたからねえ。。。
ここはパパにねだるしかない!!
・・・ですね、。。。現実的に。
パソコンを買えるだけでも裕福でしたからねえ。。。
ここはパパにねだるしかない!!
・・・ですね、。。。現実的に。
NoTitle
1KBはすさまじいですね…何ができるんだろう?(汗)
当時、それを買って満足した方はいるんだろうか…。
ところで、11月は音楽映画祭を行います。
ミュージカル映画、音楽を題材とした映画、音楽が印象的な映画などから、好きなものを選んで下さい。
期間は11月4日から11月13日までですので、よかったらまた一緒に映画を楽しみましょう♪
当時、それを買って満足した方はいるんだろうか…。
ところで、11月は音楽映画祭を行います。
ミュージカル映画、音楽を題材とした映画、音楽が印象的な映画などから、好きなものを選んで下さい。
期間は11月4日から11月13日までですので、よかったらまた一緒に映画を楽しみましょう♪
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Re: 椿さん
修也くんはZX以上にそれを地で行くマシンに触れ、ズブズブの生活に入っていきます。
それこそが日本の誇る、パーソナルコンピュータの歴史に残る名機である「あれ」です。1982年という時代と、削るところは全部削り落とした名機というここまでの説明だけでも、わかる人はわかるのです(笑)。