東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ61位 試行錯誤 アントニイ・バークリー

     ←1983年(6) →1983年(7)
     高校生の頃に読んで、バークリーを敬遠する原因になった作品。倒叙ミステリなのだが、二重にも三重にもひねくれまくったハイソなジョークが炸裂する。やりたいことはよくわかるのだが、この本、厚いのだ。「月長石」とまではいわないが、「ギリシア棺の謎」くらいの厚みはある。しかも創元推理文庫だから、なんというか非常にとっつきが悪い文章なのである。

     ここで出てくる殺人犯、トッドハンター氏のおどおどした俗物ぶりがすばらしい。俗物というより、変な形の善人なのである。この善人さに肩入れしたくなるタイプだと、この話は読んでいてほんとうにつらい。距離を置いて見られる人には、爆笑必至のユーモア・ミステリなのだろうが、「毒入りチョコレート事件」をしのぐ皮肉な事態が多発するこの展開からは、ミステリに対する作者の憤懣が透けて見えるようなのだ。

     もし、探偵役がチタウィック氏でなくロジャー・シェリンガムだったら、とも考えたが、シェリンガム向きの事件ではないのも確かだ。なにしろ作者のたくらみの底意地の悪さと来たら、シェリンガムみたいな探偵に解きほぐせるようなものではない。

     奥歯にものが挟まったようないいかたばかりしているが、今回もこの本、高校時と同様に非常に読むのに苦労した。「毒入りチョコレート事件」は面白かったが、「試行錯誤」は強烈なまでにマニア向きの作品なのである。最後の一行なんて、もう誰を信じたらいいのかもわからない突き放し感を感じる。

     逆をいえば、この本の皮肉にウヒウヒ笑えるなら、その時点でミステリマニアの素質はじゅうぶんにあるといえるのではないだろうか。形而上学的なところはまったくないにもかかわらず、「人間はどこまで自分の行為に責任が持てるのか」といった問いを投げかけているように思える。本書における多重解決は、そのひとつひとつが真実なのだろう。そしてその真実を、それを行った本人が信じていれば、それは真実なのではないか、と、当時のミステリ文壇に主張しているのかもしれない。

     そんなことまで考えさせられる作品だったが、読み進めるのはマラソン競技みたいに疲れる作品だった。そんなヘビー級作品。イギリス人のユーモア感覚が好きならば、濃密で楽しい至福の時間を過ごせるのではないかと思う。

     でもベスト100には自分としては入れたくはないなあ。ある意味で読者を選ぶ作品かもしれない。やってる趣向は好みのはずなのに、なんでだろ。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    「東西ミステリーベスト100」に選ばれるようなミステリですよ。つまらないわけがないじゃないですか(^^)

    もう後は純粋に「好み」の問題なので、読んでバークリー一流のひねくれたユーモアをお楽しみください。問題は、「どこで買うのか」くらいですけど(笑)

    Re: 面白半分さん

    わたしの中では「早川文庫のほうが高級」みたいなイメージがありました。よって早川ばかり読んでましたねえ。特にSF。

    創元がマック・ボランに手を出したのはトータルで見ると失敗だったんじゃないかなあ、と思います。

    NoTitle

    おお……これも読んでいませんが、何だか気になる……
    当たるかはずれるか、読んでみようかしら。

    NoTitle

    毒入りチョコレートか試行錯誤か
    内容は詳しく思い出せないのですが
    私はここらへんの作品によりちょっと違ったタイプのミステリに入っていけたように思います。

    厚い、創元推理文庫、・・・これは私のミステリ心をくすぐっていたハズです
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